第五十九話 パフェットの過去!

 闇が夜の四十万を支配していた。夕食を摂った後、パフェットは宿屋の自分の部屋に帰り、ベッドの中に入った。キャビネットの上にランタンがある。それが、キャビネットに置かれた、二揃えのイヤリングを鈍く光らせている。


 闇は、眠りへと帰る。真っ暗な眠りは、重くなる。パフェットは深い夢へと落ちていく。夢には底がなく、パフェットは意識が下に落ちて行くのを感じていた。


 誰かの声が遠くに聞こえる。音量が大きく鮮明になる。


『ガーリックさん、一緒に合印決定選に出ませんかっ! 一攫千金ですっ!』

『おお、それは良いな! パフェット!』


 それは、どこかで見た光景だった。


「これは、合印決定選に出ようとした私ですか……っ」


 夢の中のパフェットがその場でくるりと舞った。


「いや、違いますっ! 私は少し若いですっ! これはいつですかっ?」


 よく見ると、パフェットは少し若い。

 しかも、両耳には、片方しかないはずのイヤリングが二つ付けられてある。


「どういうことですかっ? 私、こんな記憶なんてないですよっ?」


 場面が、ザッと変わった。

 何故か、ガーリックが捉えられている。ガーリックは、意識がないようだ。

 パフェットは遠巻きにそれを見ている。


「これは、石板っ!? ここは、暗号の森にある第四エリアの石板ですっ!?」


 石板がまばゆい光を放つ。

 意識のないガーリックが、光に包まれて消えた。


『ご苦労だったな、パフェットよ。ガーリックを連れてきてくれてありがとう』


 誰かが、ゾッとするような声でパフェットに囁いた。


「……っ!? 一体、どういうことっ――」


 パフェットにゾッとするようなことを言った顔が見えた。


「あれは、クエッションですっ!?」


 それは、今より若いクエッションの顔だった。

 夢を見ているパフェットは、絶句していた。


『これで、私は合印の座を降りなくて済む! 良くやったパフェットよ!』

「……っ!」


 鈍い衝撃があった。

 その衝撃で、パフェットの片方のイヤリングが片耳から外れ、夢の中の底に落ちて行く。


「はっ!?」


 パフェットは夢から覚めて、反射的に身を起こした。

 寝汗をぐっしょりとかいている。

 荒い呼吸が止まらない。

 見開いた目からは、涙がとめどなく流れていた。


 ガーリックと再び出会った時のことを、パフェットは思い出した。


『ええと。自分の名前が、思い出せないんだが……!』

『ふーんっ。じゃあ、私が適当に付けますねっ!』

『んーっ。じゃあ、ガーリック《Garlic》なんてどうですかっ?』

『なんだ。適当につけた割には良い名前だな! アミュレットみたいな感じで!』

『パッと思い浮かんだ名前なんですっ! 私、天才かもしれないですっ!』

『めっちゃしっくり来たよ! 良い名前だよ! 気に入ったよ!』

『そうでしょ、良い名前ですよねっ? じゃあ、ガーリックで決定ですっ!』


「なんで、直ぐに良い名前が思い浮かんだのか分かったですっ」


 パフェットは、自嘲したように笑った。


「私は、ガーリックさんの本当の名前を知っていたから、あんなに簡単に名前を付けることができたんですねっ!」


 パフェットは、震えていた。


「クエッションも許せないですっ! でも、一番、私は自分を許せないですっ……!」


 パフェットは、布団を頭から被った。

 キャビネットの上で、二つ揃えのイヤリングがキラキラと光っている。

 三ノ選を控えたこの日、パフェットはそれから一睡もできなかった。

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