第五十八話 パフェットとフォイユ! パフェットの弱点!?
暫くパフェットと喋っていると、誰かが駆けてきて、俺たちの前で止まった。俺とパフェットに夕方の長い影がかかった。
フォイユは、足をザッと肩幅に開き、腕を組んで、顎を上げてから、俺とパフェットを見下ろした。俺は、うつろな目でフォイユを見上げた。
「パフェットさん! ちょっと良い? 用があるんだけど!」
跳ね返ってきそうな元気な声に、パフェットは目をぱちくりさせている。
「フォイユさん、何ですかっ?」
「パフェット、気をつけろよ! 絶対にフォイユはパフェットの弱点を突いてくるはずだからな!」
パフェットは、力強く頷いた。
「ガーリックさんが言うと説得力がありますっ! 絶対に行かないですっ!」
「一言多いんだよ」
「来ないなら来ないで良いわ! すぐに用は終わるから!」
ハッと笑って、パフェットを上から見た。
「パフェットさん! これ、見覚えないかしら! あなたの大切なものらしいけど!」
「ハァ? パフェットの大切なもの? 嘘くさい手口だ。パフェットが、こんな手に引っかかるわけがない。お菓子にはつられるパフェットだが、そんな簡単に引っかかるはずがない」
「あ……ありがとうっ! これ、探してたのっ!」
「……って、ええっ!?」
俺は、パフェットを二度見した。
パフェットは、素に戻っていた。すっかり、自分の喋り口調を忘れてしまっている。
パフェットの目が揺らめいている。あんなに、真顔に戻ったパフェットは珍しいぐらいだ。
フォイユは、何か手にぶら下げている。可愛らしく揺れるあれは――。
「あれは、パフェットのイヤリングじゃないか? 落としたのか?」
パフェットは自分の両耳を確かめている。
「片方はありますっ! もう片方が見つかったのですかっ!」
「じゃあ、これは返してあげるから……」
イヤリングをそのまま、パフェットに手渡した。
「ありがとうですっ! フォイユさんっ!」
パフェットは大喜びだったが、フォイユは苦笑している。
「おかしいわね! これがあんたの弱点だって訊いたんだけど!」
「ですっ? 私の弱点ですかっ?」
「まあ、良いわ! 三ノ選では負けないわ!」
「私も負けないですっ!」
パフェットとフォイユは握手した。
何故か知らないが、フォイユと談笑して和んでしまった。フォイユは罠に嵌めようとしたらしいが、本末転倒なのに、なんとなく憎めない奴だと俺もほのぼのしてしまった。夕日の色が暖かで、敵意を忘れた時間が流れた。そして、フォイユは手を振って帰って行った。
「今日は、最高にテンション高いですっ!」
「まあ、パフェットは勝てて良かったよな」
今日のパフェットはテンションが高い。
ここまで勝ち進んで喜ばない奴なんて居ないと思うが。
「私、いつもは自信満々ですが、三ノ選まで駒を進めることができるとは思ってもみなかったですっ!」
「は? 何言ってるんだよ。せっかくパフェットが勝ったのに?」
「ですっ……。ガーリックさんが二ノ選までとは思わなかったですがっ」
「まあ、仕方ないさ!」
パフェットは、手のひらのイヤリングを見て笑壺に入っていた。
「今日は、私のイヤリングが戻ったので、嬉しい一日だったですっ!」
イヤリングを大切そうに抱きしめている。それがどんなに大切なものか、パフェットを眺めているだけで分かる。でも、どうしてパフェットがそのイヤリングが大切なのかが分からない。
「そのイヤリングって誰から貰ったんだ?」
興味本位の俺の質問に、パフェットは目をぱちくりさせた。
パフェットは迷って俯いていたが、決心したように顔を上げた。
「私、十五歳より前の記憶がないんですっ」
「えっ? 記憶がないのか? それはまた大変だな……」
それ以上俺の台詞が続かなかった。パフェットは、比較的脳天気に生きていると思っていたが、まさか波瀾万丈な人生を送っているとは想像も付かなかった。
「でも、このイヤリングが大切だったことは覚えているんですっ」
イヤリングだけでも戻って良かったのかもしれない。これを皮切りに記憶も戻ってくると良いのだが。まあ、フォイユは良い奴だったと言うことだ。けれども、スッキリしないのは何故なんだろう?
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