○●○第二章○●○
第二十二話 アヒージョからの暗号文!? 消えない違和感!
暗号の森を抜けた見晴らしの良いところにあるパフェットの家は、静まり返っている。街中にはないので、喧騒から切り離したように静かだ。パフェットの家を闇が真っ暗に染めている。一階の部屋では、パフェットがベッドの中で眠っている。二階の仕事場の隣にある部屋では、ガーリックが寝相悪く眠っている。うるさいほどの静けさが辺りを支配している。外では、木々が風に吹かれて静かな流れを作っている。それを断ち切るかのような何かが震えた。もう一度、それはガーリックの耳に届いた。誰かの悲鳴に聞こえて、ガーリックは跳ね起きた。
「な、なんだ……?」
ドアを開けて、一階の様子をうかがう。パフェットの部屋には行けない。夜這いと勘違いされて、追い出されでもすれば大事だ。
パフェットが悲鳴を上げたのかと思ったが、一階は何事もないように静かだ。ドアを閉めて、ガーリックは辺りを見回す。窓の方に歩いてきて、窓を開ける。外気が吹き込んできた。風の音の合間に野犬が吠える音が混じって届いた。
「なんだ、気のせいか……」
胸をなでおろして、そっと窓を閉める。外気が遮断され、また静謐なる闇夜が支配し始めた。ガーリックは、ベッドに腰を下ろして、布団に丸まった。そして、朝までぐっすりと眠った。
何事もなく朝が来た。俺はパフェットと一緒に、一階で朝食を摂っていた。居候なのでと、試しに分からない調味料と格闘しながら、朝食を作ると好評だった。そこまでは、俺のテンションも高かった。しかし、今日の予定を振り返ると、ため息交じりでだだ下がりだ。
「今日からまたパフェットの暗号文解読の手伝いか……」
テンションが急降下な俺は、パンらしきものを頬張る。
パフェットは勝ち誇ったようにニヤリと笑った。しかも、今日のパフェットのニヤリは、いつもより勝ち誇っているように見えた。パフェットは、手を上げて俺を制止させる。
「悲観に暮れるのは待つですっ!」
「えっ?」
パフェットはニヤリと笑って、自信満々に声高々と言った。
「今日の依頼は簡単ですっ!」
「簡単? どうして?」
「ガーリックさんとレベルアップした私がかかれば、大量の暗号文は一発で解読完了ですっ!」
「あ、それもそうか!」
パフェットは、俺をライバル視しているので分からなくもないが、あの事件の時に俺が暗号文を解読したせいで、パフェットの元気がなくなった。
しかし、パフェットに懸賞金を全部暗号文に変えられた時には、俺の元気がなくなった。
だが、長い目で見れば、これで良かったのだ。パフェットも笑っているし、暗号文も簡単に解けるわけだから、これからの生活は格段に良くなるだろう。
朝食を摂った後、皿洗いをしていると、ドアベルが軽やかに鳴った。誰かが訪ねて来たらしい。
「誰だ?」
「きっとアヒージョさんだと思うですっ! 今日解読する暗号文を持ってきたんですよっ!」
パフェットは、玄関の方に走って行った。ドアを開ける音がこちらまで聞こえた。
パフェットは誰かと話している。
挨拶の定型文の後、パフェットは何かに気づいたようだ。
「あれっ? アヒージョさんは、今日はお休みですかっ?」
どうやら、違う運送屋の職員さんが来たようだ。
「ああ、今日は休むという手紙が届きました! 暗号文を中に運びますね!」
「分かったですっ! よろしくお願いするですっ!」
洗い物を終えた俺は、手を拭いていた。暗号文の山が、二階の仕事場に運ばれるのを眺めながらパフェットのほうに歩いていく。まるで、今日ここに引っ越ししてきたような、大量の箱の荷物が職員さんの手で二階に送られていく。
「今日は、また大量に暗号文を持ってきたようだな」
「あれだけあっても、私たちが居れば楽勝ですっ!」
数人の職員さんたちが、二階の仕事場にせっせと暗号文の山を運んでいる。箱の中は、すべて暗号文の手紙だが、あれだけあると重そうだ。しかし、手持ち無沙汰の俺とパフェットはまったりと眺めながら駄弁を弄していた。
「確か、暗号の森を抜けたために、暗号化された文章が暗号文と呼ばれるんだよな?」
職員さんを眺めながら、パフェットに尋ねた。
「そうですねっ! 暗号の森を抜けたために暗号化されるのも『暗号文』と言いますが、暗号をかけて暗号化される文章のことも『暗号文』と言いますっ!」
「なるほどな! それで、今日はアヒージョは休みなのか?」
「そうみたいですっ! これ、アヒージョさんからガーリックさんにですっ!」
パフェットが、一通の手紙を俺に渡してきた。可愛い封筒だ。可愛いキャラクターの絵がプリントされてある。女の子らしい便箋だ。
「えっ、俺に? なんだろうな?」
俺はそれを受け取って、封筒の裏表を確かめる。表に、ガーリックさんへとあり、裏に、アヒージョよりとある。封筒を開ける。封筒をテーブルの上に置く。便箋を広げる。
「何々……?」
便せんに目を落として、俺は違和感に気づいた。
記号が文面を占めている。意味のなさない記号と言えば――。
「これって暗号文か……? アヒージョが俺たちに暗号文を寄越してきたのか……?」
「そうみたいですねっ?」
パフェットはあっけらかんと言った。
俺は、眉を顰める。
「……?」
どうして、アヒージョがわざわざ暗号文なんて寄越してきたんだろう? 俺に、直接伝えれば事足りるし、暗号文なんて書かなくても普通の手紙で良いはずだ。
これは、一体どういう理由なんだ? 不自然じゃないか?
ただの暗号文だ。しかし、封筒は普通の文字だ。よく考えると、これは不自然だ。暗号の森を通れば、封筒と便箋もすべて暗号化されるはずだ。どうして、便箋は暗号文で、封筒だけ普通の文字なんだろう? なんで、こんな不自然な手紙が、しかもアヒージョからの手紙が、俺宛てに届いたんだろう?
「なんか、変じゃないか?」
何故だろう、違和感が消えない。
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