紅の唄
東利音(たまにエタらない ☆彡
エピソード
艦橋(ブリッジ)に怒号が響き渡る。
「敵の数! 1、10、100、数えきれません!」
オペレータが目視で確認できないくらいの光点がモニターに映しだされている。
オペレータは元野鳥の会の会員で、ぱっとみて大体の数を誤差プラスマイナス10程度で当てられる特殊能力を買われて配属されたので、その彼女が数えきれないということは相当な数である。
例えば、彼女の逸話をひとつ紹介すると、ハトが多くて有名な寺院でパンくずを放り投げたら、パンくずが地面に落ちるまでの間に、全方位360度から迫りくる鳩の数を一瞬で数えきれるだけの数値認識力を持っている。
「大体でいい!」
艦長はそれでもオペレータに報告を強いる。それが彼の役目。
敵の戦力を把握し、おおざっぱな作戦を立てるのが、艦長の役割である。
「大体ですか? わたしのポリシーに反するんですけれど?」
オペレータさんは、これまでの自分の報告内容に誇りを持っていた。
目視で報告した結果は後から正確に数えた数と比較され、誤差が彼女のスコアとして給料にも響くのである。そういう契約で雇われているのであった。
「今回の報告については、照合させん。いや、照合したとしても例外扱いとしてスコアには反映させん!」
「じゃあ、大体ですけど、2000ぐらいですかね?」
「構成比についてはわかるか?」
「おっきな戦艦っぽいのが、300ぐらいです。あとは機動兵器っぽいです。
5つぐらい、どっちつかずの大きさのがいますね」
「なるほど、誰か、計算しろ」
艦長は数字に弱いので、機動兵器っぽいやつの数がわからない。
「僭越ながら、わたしが計算しても良いでしょうか?」
副館長が名乗りを上げた。
「暗算なので間違ってるかもしれませんが、2000引く300引く5なので、1695ぐらいの機動兵器が出撃しているものと思われます!」
副館長は特に何のとりえもないが、そこそこいろいろなことに通じている平均的な人なのでそこそこ暗算ができた。
そこに、計算には自身のあるクルーが口を挟んだ。
「そろばん3級の小官が暗算で確認したところ、こちらも同じ答えです! 時間をくだされば、そろばんを使って検算致しますが」
「うむ、平行して計算を続けてくれ」
「コンピュータの解析結果でました!」
コンピュータ担当が声を上げる。わりと性能はいいのだが、出力にいろいろと時間のかかるコンピュータが正確な数を弾きだしたのである。
「コンピュータからの情報によると、大型戦艦が51隻、中型艦が103隻、小型艦が151隻、機動兵器サイズが1723機、アンノウンが5です!」
「ほら、大体あってた」
「計算はあってたはずですが、元の数が違ってたので仕方ないですね」
「そろばんで検算した結果、やっぱり合ってました。正確な数が出たので意味なかったですけど」
「いよいよ本気を出してきた、ということか」
艦長がひとりごちる。
「どうしますか?」
副館長が問いただす。
「どうするもこうするもないだろう。我らが最終防衛線なのだ。おめおめと逃げるわけにもいかん」
「玉砕覚悟ってことかい?」
パイロットスーツを着込んだエースパイロットがブリッジに顔を出した。
「おお、エースパイロットか。機体の調子はどうなのだ?」
「いまメカニックが必死で換装作業を始めたところさ。タイプF武装、略して、圧倒的に数で劣る場合に一機で状況を覆せるタイプの武装オプションにな」
「して、換装完了までの時間は?」
「多めに見積もって、30分。お腹を下しがちなメカニックの主任が途中でトイレに行かなければ5分、いや10分は縮まるな」
「メカニック主任にパンパ……いや、ビオフェル〇ンを服用させろ。
それから、主役機出撃までの20分ぐらいは、どうしよう?」
艦長の問に、戦略担当と戦術担当がそれぞれ答える。
「状況は戦術レベルでの立案が好ましいでしょう」
「結局のところ、主役機が出撃するまでそのほかの戦力で凌ぐしかないでしょうね」
「うむ、してあなたの御意見もお聞きしたいのだが、構わないか?」
艦長が目を向けたのは、非戦闘員でありながら、この艦の乗員の誰よりも頭がよく、機動兵器のパイロットとしても優れた資質を持ち、数々の難局を切り抜けるきっかけを作った高校生である。
「僕も出ます! いや、出させてください! 戦争は怖いけど、それでも、黙って見てるわけにはいかない。母星には、僕の家もあるし家族だって友達だっているんです!」
「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていた。
空いている機体は?」
「前回の戦いで自称エースパイロットで実質的にも誰もが認めるエースパイロットだったが、エースパイロットがやってきてその地位から降りることになったけれど、それで腐ることもなく、人当たりもよく、お兄さん的な振る舞いで好感度もよかったパイロットが負傷して出撃は無理ですので、彼が載る予定だった準主役機――今の主役機が開発されるまでは実質主役機だった――が、空いていますが」
「じゃあ、それに……」
艦長が言いかけた途端、モニターに通信が入る。
「誰が出撃不可能だって?」
「元エースパイロット?」
怪我を治すカプセルに入っていたはずの彼がコックピットに座っている映像を見て艦長、並びにブリッジに居た誰もが驚く。
「これしきの怪我でこの一大事に出撃できなかったとなれば、俺の名に傷がつく」
「そんな!」
通信担当者――元エースパイロットに想いを募らせていた女性――が驚愕の声を上げた。
「無茶よ!」
「無茶ならこれまでに何度もやって、何度も乗り越えてきたさ」
「確かにそうだけど……、あなたには、これからエースパイロットが七面八臂の活躍をして、なお敵の攻勢を凌ぎ切れず、本陣であるこの総旗艦がピンチになったときに出撃してピンチを救う役目があったんじゃあ!
そして自らの機体を犠牲にしつつ、わたしの名前を叫びながらかっこよく、誰しもの記憶に残るほど恰好よく散っていく(と見せかけて実は生きている)役目も」
「気付いたのさ。そもそもギリギリのピンチで恰好つけるんじゃなくって、そもそもにしてこの艦を、愛しのかわいこちゃんが居る艦をピンチにしなければいいってね」
「元エースパイロット……」
「というわけで、元エースパイロット、準(元)主役機でるぞ! 早いとこ後続も誰か出してくれよ! さすがに俺だけじゃあの数は凌ぎ切れない!!」
「砲撃制御担当! 準主役機のカタパルト射出を援護してやれ!」
「ラジャー!! 適当に弾幕張ります!」
「今使われてるいい加減っていう意味の適当じゃなくって適切なほうの適当に頑張ってくれ」
「いい加減も本来は……、いやそんなことはどうでもよくって、僕の出撃用の機体は……」
「そうだった!」
「いや、艦長! それよりも、既に準備が整っている機体の発艦を優先すべきです!」
「それもそうか!」
艦長の意思を受けて、出撃カタパルト制御担当が、報告する。
「堅物の歴戦の猛者おじいちゃんパイロットさんの量産機だけど、いろいろ改造しすぎて性能がほぼほぼ主役機クラスになってる機体の発進準備が出来ています!」
「よし! 発進させろ!」
「それと、平和とかどうでもよくって、お金のために傭兵感覚でやってるパイロットが、実は大金持ちで天才で、自分の天才っぷりをアピールするために、自分で設計から組み立てまで関わった機体(製作費も自分持ち)も準備ができています」
「あー、あいつのあれか。だいたい無茶しすぎてぶっこわれるんだよな」
「ボンボンなので脱出機構には力が入ってますし、修理費もそもそもの開発費も持ち出しなので、そこは気にするところではないのでは?」
「そうだな、発進させろ!」
「あとは、モブパイロットの量産機が何機か準備できてますが」
「うむ、発進だ。あとやること何があったっけ?」
「今更ですけど、艦を戦闘形態に移行するとか」
「あー、マニュアルにそんなのあったな。それもやっとけ。あと全砲門開け」
「全砲門開きます! 照準はオート」
「そうだな、オートでいいだろう。総力戦になる。残弾は気にせず撃ちまくれ!」
やることリストを片付けた艦長と面々。
ひと段落したところに、出撃していた元エースパイロットから通信が入る。
「どうした? 元エースパイロット?」
「ちとまずいことになりそうだ」
「損傷したのか?」
その問いに、元エースパイロットに想いを募らせていた通信担当が表情を曇らせる。
「さすがに無傷ってわけにはいかないが、まだ戦える。もう一戦、二戦ぐらい交えてから補給のために帰還する予定だ」
元エースパイロットの再出撃はことによっては、えらくドラマチックなシーンになる。
その時は、持ち場を離れて、元エースパイロットの無事を祈りに格納庫まで行ってやろうと心に決める通信担当であった。
「それより、まずいこととは?」
「戦艦でも機動兵器でもない、えらく強いやつがいる。俺が遭遇したのは3体だが……」
「倒せたのか?」
「1体はな。倒したわけじゃないが、偶然こちらの攻撃が相手のあたっちゃまずいところに当たってくれたようで、修理に引き返した。他の2体には味方がやられまくっている」
「味方の機動兵器の損耗率、30%を超えました!」
「30%というと3割か」
「そのほとんどが敵の戦艦と機動兵器の中間ぐらいの大きさでどっちかというと見た目は機動兵器寄りのやつにやられたんだろう。俺が見たのは3体だけだが」
「報告によると5体居たってやつです、多分」
「そうだろうな。どうすればいい?」
「僕が! 僕がやります」
「高校生!? 君が?」
「僕に行かせてください! 戦いは怖いけど、敵の新兵器も怖いけど。だけど、味方が沢山やられて、黙って見てるわけにはいかないんです。やられた人の中にはお世話になった人だっていると思うと……。ここでお客さん扱いされているのはもう嫌なんです」
「ちょうど俺の主役機の換装が終わったようだ。あいつなら、2機ぐらいは、いやお前の力を合わせれば、5機まとめてだって相手できるだろう」
「エースパイロットさん?」
高校生はエースパイロットの顔を見つめる。
「おっと、エースの座を譲ったわけではないぜ。ただ可能性ってやつに賭けてみたくなっただけさ」
それに異を唱えたのは、軍医として乗り込みながらも、そこそこの頭の良さと常識人的発言から、怪我人をほっぽり出してブリッジいることが多い女医だった。
「だけど、主役機はエースパイロットとの神経接続をもって最高のパフォーマンスが出るように調整されているはずでしょ?」
ちなみに、怪我人は怪我を治すカプセルに入れたらいい具合に治るので、女医はあんまりすることがないのでブリッジに居ても支障は少ない。
そこにメカニック主任から通信が入った。
「主役機の戦況を覆せる装備への換装が終わったぜ。心配すんな。坊主のパーソナルデータを元に調整してあるから、そこらの高校生でも最高のパフォーマンスを期待できる」
「艦長の許可もなく、なんてことを……」
艦長は嘆くが、個人個人が最良の一手をそれぞれ打ち、それが実りつつあることを理解し、
「艦長はなくても艦は立派にその役目を遂行していく……か。誰に言われたことだったかな」
遠い目をした。
艦長が単なる乗組員時代に、サボり魔とあだ名されていた艦長の下に就いた時のことを思い出していた。
その艦長はサボっているようにみえ、放任主義であったようにみえ、その実、部下を育てることに関してはすごい優秀だったのである。
「とにかく、行ってきます! この艦を、仲間を! そして母星を護るために!」
高校生はヘルメットを抱えて駆け出してゆく。
「おーおー、ひよっこかと思っていたら、あんなに立派になっちゃって」
その後ろ姿をエースパイロットが冷やかす。
「おちおちしてたらエースの座から引きずりおろされるんじゃない?」
そのエースパイロットをエースパイロットのライバルである、優秀な女性パイロットがさらに冷やかす。
「俺が? まさか。まだまだあんな若造に負ける気はねーよ。もちろんお前にもな」
「ふん! いつまで大口が叩けるか見てらっしゃい! あたしの機体、用意できてるわよね?」
「どうなんだ?」
艦長が、通信モニターに問いかける。
モニターの向こうに居たのは、メカニック主任を師匠と仰ぎ、いろいろ振り回されながらも優秀な女性パイロットに恋心を抱き、なんとなくいい感じになってきた若手の有能なメカニックであった。
「整備はしてますよ! だけど、替えのパーツだって届いてない。武装だって量産機のものを使いまわしだし、こんなの本来の半分のパフォーマンスも期待できないですよー」
「それで十分。弾除けぐらいにはなれるでしょ」
「まさか、女性パイロットさん」
「冗談よ! 若手の有能なメカニック、ちゃんと帰ってくるんだから、そんときはうーんと甘いもの沢山奢ってよね」
「もちろんですよ!」
「で、戦況は?」
「モブの乗る量産機が意外と健闘してます。なんだかんだやられてますが、敵をこちらに近づけさせてませんし、まあまあ脱出とか上手く行っているようで。
あと、いろいろ改造しすぎて主役機クラスの性能になっている機体も歴戦の猛者のおじいちゃんパイロットの能力もあって、沢山敵を倒してます。戦艦クラスも何隻か沈めているようです」
「流石だな」
「元エースパイロットですが、補給に戻るとか言ってた割りには効率的にエネルギーを使ってまだまだ戦線を維持、沢山敵を倒してます」
「流石は元エースパイロットというところか」
「あと、さっき出て行った高校生と優秀な女性パイロットが凄く敵を沢山倒してます。二人で強力して、脅威であった新型を3機、いえまた1機撃墜しました」
「残りは……」
「1機です! 5引く3引く1なので!」
「勝ったな」
艦長が敵を示す光点がひとつ、またひとつと消えていくスクリーンを見ながらつぶやいたその時である。
「大規模な所属不明艦隊の出現を確認! その数、沢山!」
「桁だけでも!」
「戦艦クラスが1000隻以上は居る模様! 機動兵器はその5倍くらい! 例の戦艦と機動兵器の中間ぐらいの中途半端な大きさのやつも100は超えています!」
「率直に申し上げて、今出ている戦力だけでは……」
「全滅させられるのは時間の問題です!」
「まだ敵と決まったわけでは……」
「解析終わりました! 敵艦です!」
「我々の奮闘もここまでか……」
「艦長!」
「こうなったら、彼の力を借りるしかありません」
「奴か? 人格的には破たんしまくっていて、だけれども戦闘能力がすさまじく、敵が居なくなったら味方に手をだすような危険極まりがないが、量産機に載せてもめちゃめちゃ敵を倒すやつか」
「出撃している量産機のうち、生き別れの妹を探すためにパイロットになったパイロットの機体を呼び戻しましょう。パイロットを破たんしている奴に変えて出撃させるんです」
「しかし……」
艦長は決断しかねている
「大丈夫よ」
「あなたは、精神能力的な研究者で、精神能力的な資質に目覚めつつあるか目覚めているうちのパイロット達が気になって調査目的で政治的な力を使って半ば無理やりに艦に乗り込んできた研究者さん!」
「生き別れ妹探しのパイロットの機体も精神能力的な資質があれば操縦しやすくなる機構をテスト的に搭載しているタイプよ。もちろん破綻している奴が載っても十分、いえ、戦局を覆すだけのスペックはあるでしょう」
「だが……」
「安心して。精神能力的な資質があれば操縦しやすくなる機構をテスト的に搭載しているタイプはこちらから信号を送ればそのコントロールを奪うことも容易い。戦闘が終われば無力化できるわ」
「ということですので、」
「うむ、なら出撃させろ」
「あと、艦長。試験的に本艦に搭載された、大出力でビームを撃って敵を潰滅させるマップ級武器の使用許可を!」
「だが、あれを撃つと……」
「最悪この艦は爆発します。なので、一番責任感があって死にどころをわきまえている誰か一人を残して、艦を無人にすることが必要ですが……」
「そんな奴居るか?」
「ワタシガヒキウケマショウ……」
「おお! 高性能ロボット!!」
「死ヌノハコワイ。ダケド、記憶ヲメモリーチップにコピーしていますので怖くない」
「解決だな! すぐに新しいボディに記憶をうつしてやるからな!」
「艦を爆発させるってことはあいつも爆発されるってことになるのか?」
エースパイロットが問う。
「あいつ……? まさか?」
「そう、そのまさかさ。敵から鹵獲して、自軍の兵器として使用できるかいろいろ試した結果、あんまりうまく行かなくて放置されている超機動兵器さ」
「やむを得んだろう。我々のテクノロジーではあれの制御は……」
「こいつの協力があれば、俺にも操縦できることはテスト済みだ」
「こいつ……。お前は、捉えた敵のパイロット少女じゃないか!」
「わたし、戦争が良くないことだってわかった。そして戦争をしかけているのがわたしの星の人達だっていうことも。わたし最後にもう一度だけ戦う。途中で出てきた大艦隊はまさしく主力。一点突破であれを倒せば、この戦争は終わるわ」
「ちょっといい?」
「あなたは、本部から送られてきていつもとんちんかんなことを言って信頼を失った戦術士の人」
「とんちんかんとは失礼ね。今までは敵の能力、そしてこの艦のパイロットの能力を低く評価していただけだわ。今ようやく正しいパラメータを入力し終えたのよ。
それで、作戦が決まったわ」
「今更、信頼を失った戦術士の人の作戦など聞くわけにはいかん」
艦長はつっぱねた。
「聞いて損することは無いと思うぜ」
「えっと、誰だっけ?」
「戦術研究のために乗り込んでいる戦術士見習いさ」
「その戦術士見習いが今更何の意見を?」
「その人の戦術は本物だっていうことさ」
「根拠があるのか?」
「うちの師匠、名前ぐらいは聞いたことがあるよな?」
「ああ、前の大戦時に、前の大戦の時のエースパイロットと比肩するぐらいに敵を退けるのに貢献したという戦術士だ。名前どころか、儂も彼の戦術に憧れ、かつては戦術士を目指したほどだ。才能に恵まれずに結局艦長なんて椅子に座っているがな」
「その師匠が自分を超えるほどの天才、そうとまで評価したのが、信頼を失った戦術士なんだぜ?」
「それが本当だとしても……。実績のあるうちの戦術担当の意見を儂は聞く。こんな状況で博打は打てん」
「お言葉ですが艦長」
「どうした、うちの戦術担当」
「実は、最近の戦闘の戦術は信頼を失った戦術士の人のアドバイスを受けて立てた戦術だったのです」
「戦略担当であるわたしも相談に乗って貰っていました」
「お前たち、なんて勝手なことを」
「確かにわたしは、赴任してきて以来、しばらくとんちんかんな戦術を立てていました。さっき言った通り、敵の情報、味方の情報ともに不足していたために、アウトプットがとんちんかんになっていたのです。ですが、目立たないけど優しいオペレータの人がいろいろと情報をくださって、修正することができました。その修正を受けて戦術を立て、戦術担当の人に相談に行ったのです」
「すごい戦術だったのですが、あまりにも常識とかけ離れていて、採用するには勇気がいりました。だから、自分なりにアレンジしてその戦術を提案したのですが、今思うとアレンジしなかったほうが、敵を効率的にやっつけて、味方がやられる数も少なかったと思います。それで、わたしは信頼を失った戦術士の人への見る目が変わりました。どうか信じてください」
「戦略担当のわたしからもお願いします」
「我々の……、母星を賭けた作戦なのだぞ?」
「覚悟はもとより自信もあります」
「艦長! 母星から通信です!」
「なんだ、この忙しい時に!」
「援軍を送ると」
「規模は?」
「1機だと」
「1機。この忙しい時にそんな」
「たった今打ち上げが終わったそうです。600宇宙秒後には戦闘空域に合流するかと」
「まさか、例の機体か?」
「古代文明、あるいは異星人が残した謎の超兵器の解析が終わり、実戦投入の目途が経った模様。しかもパイロットは前の大戦で大切な人を失って戦うことから逃げ出したエースパイロットの人です」
「彼が再び戦場に?」
「おおおおぉ!!!!」
艦内はもはやお祭りムードである。
「待て、待て、やることの整理だ!
敵から鹵獲したすごく強い兵器に捕虜にしたパイロット少女と現エースパイロットを載せて出撃しつつ、
撃ったら艦が爆発するけれど凄い威力の兵器を使用しつつ、
信頼を失った戦術士の立てた戦術を採用しつつ、
えーと、それだけだっけ」
「艦長! 民間機が戦闘空域に近づいてます!」
「また来た」
「どうやら民間機には敵の戦意を鈍らせる歌を……」
「あー、歌姫ね。そんなのも居たなー。2~3人ぐらい」
「高校生の乗った機体が発光しています! 敵艦を包むように光が広がって」
「ついに精神能力的な資質への扉が開いたのね」
「あと敵の戦艦とも機動兵器ともつかない中途半端な強い新兵器のパイロットから通信が入っています。要約すると、歌が良いので寝返るっぽいです」
「オーバーキル……ぢゃない?」
「そうかもしれません」
艦長の呟きに答えたのはブリッジに食事とドリンクを持ってきた幼馴染がパイロットをやってる縁で乗り込むことになった雑用係の少女だった。
これが後に、主役ポジションだったり準主役ポジションだったり、活躍する人やらなんやらが多過ぎてひっちゃかめっちゃかになったけど勝てて平和になってよかったわーいの戦いと呼ばれた戦いの一幕を忠実に再現したドキュメンタリーである。
紅の唄 東利音(たまにエタらない ☆彡 @grankoyan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます