日本へAVを探しに日帰り&ファンタジー

ゴッドさん

女騎士コスプレイヤー・触手に陵辱された純潔!

 ウチの魔王はAVが好きだ。

 特に、日本のメーカーが発売している「触手陵辱モノ」というヤツが。






     * * *


 僕が魔王軍幹部になって数日経ったときのこと。

 突然、僕はでかい城の玉座の間に呼び出された。目の前には荘厳な装飾が施された玉座。そこに僕らの上司である魔王が深々と腰かけている。


「何の御用でしょうか、魔王様?」


 最初、幹部への昇進祝いが目的で召喚されたのかと思っていた。

 下っ端兵士として人間が支配する王国との戦闘に何度も参加し、任務達成した功績が認められたのだろう。


 しかし、どうも様子がおかしい。

 祝う感じの雰囲気が漂っていない。魔王は真剣な顔をして僕の表情を覗き込んでいた。


 そして、魔王は僕に命令を出す。







「異世界にある日本という国に出向き、触手陵辱モノのAVを入手して来い」








 ?


 開口一番、こんなことを言われた。

 異世界? 日本? AV? 何だそれは。


 人間が支配する王国領土の境界付近にある「異世界ゲート」。そこが日本という国に繋がっているらしい。高度に文明が発達した国で、魔法よりも科学が優れていると聞いた。

 AVというのは「アダルトビデオ」という概念を略した呼び方のこと。人間の男性向けに製作されたもので、日本が持つ高度に発達した技術で人間の生殖活動を記録した物体のようだ。


 早速、僕は異世界に行く準備を整えた。日本語という言語を習得し、日本の法規を学習する。向こうの法律では、周りにいる人間を無闇に傷つけてはならないらしい。

 予定が順調に進めば日帰りで行けるはずだが、万が一のことがあってはいけない。他にも必要な情報を仕入れ、AVを入手するための旅支度を済ませた。


 そんなものを借りて魔王はどうするのか、という疑問はある。しかし、幹部になった僕に与えられた任務なのだから、軍内部でも重要な案件なのだろう。


 これが、僕が異世界にAVを購入しに行くようになった経緯だ。



     * * *


「ここに、AVがあるのか……」


 異世界の繁華街にあるDVDショップ。


 AVの棚はかなり見つけにくいところにあった。店の最深部とも言える、店の玄関から正反対の場所に存在している。さらに大きな布によって入り口を隠しているではないか。このおかげで見つけるのには苦労した。

 自分の世界にある薬屋や武具商店は、店の奥に高価で貴重な品を蓄えていることがある。安物目当ての客を玄関付近ですぐにローテーションさせたり、高い物品の持ち逃げ防止としてそうしているらしい。それと同じように、この世界においてAVというのは貴重な商品なのだろうか。


「あの、AVの棚が見つからないのだが……」


 そこの女性店員に尋ねてどうにかAVの棚に辿り着いたのだが、なぜか彼女は露骨に嫌な顔をしていたのを思い出す。店にとって、AVというのはあまり扱いたくないものなのかもしれない。


 それからさらにAVの棚を探索する。


 AV自体は棚にたくさんあったのだが、目的の触手陵辱モノは極端に少ない。そこから再び探すのに苦労した。AVの多くはベッドの上で行うオーソドックスな人間の生殖活動を記録したものばかり。探すなら店の者に聞くのが早いかもしれない。


「あの、こういうAVを探しているのだが……」


 女性店員に尋ねたら、再び嫌な顔をされた。











     * * *


 どうにか日帰りで城に戻ることができた。

 それにしても日本は人間の多い場所だ。自分の世界の人間は我々を見るなり剣や槍で斬りかかってくるので、人間と接するときは気が気でない。もちろんそれはこちらの世界での話なので向こうの世界では意識する必要はないのだが、随分と警戒しながら歩いたものだ。


「魔王様、こちらが例のAVでございます」


 僕が差し出した袋を受け取ると、彼は光を反射する円盤を手に取って黒いボックスに入れ始めた。あれも日本が作り出した装置なのだろうか。


『何よ、これ! 触手!?』


 記録の再生が始まる。


『いやぁん! 誰か、助けて!』


 動く絵画の中で叫んでいるのは、AV女優と呼ばれる異世界職業の女だ。生殖活動の様子を大衆に向けて提供することが仕事で、陵辱される演技をこなしている。演技の巧さは作品によってピンからキリまであるが、魔王様の場合はあまり気にしない。


『あぁん、あぁぁん!』


 異世界ではこういうAVのことをコスチュームプレイ、通称「コスプレ」と言う。

 AV女優が纏っている女騎士の衣装は所詮向こうの世界の人間が作ったものだ。本物の戦闘用装備を熟知している僕からすれば指摘したい部分は多々あるが、口に出すと魔王様の視聴を邪魔しそうなので止めた。


 それから僕は度々異世界に出かけてはショップでAV購入任務を遂行することになる。







     * * *


 後々知ることになるのだが、人間の男性はAVを自らの性欲解消目的で使うらしい。「自分も性交している」という疑似体験をすることで古くなった生殖細胞を捨てる。


 しかし魔王は彼らとは違い、そういう目的では鑑賞していない。彼の側近曰く、「日本人が勧善懲悪の時代劇を見るような感覚だ」とのこと。

 人間嫌いな魔王は人間の戦士が陵辱される様子を見ることで気分を晴れやかにしている。淫らな姿が目を癒し、悲鳴のような喘ぎ声が耳を癒す。人間が堕ちていく様子が彼に至福のときを与えた。彼の側近曰く、「ご満悦の表情」らしい。


 それ故、触手モノAVを選ぶ際には神経を尖らせた。

 AV女優扮する女騎士は作品内で触手に完全敗北しなければならない。終盤に仲間の騎士が助けに来てハッピーエンドになるなど論外だ。最終的に人間が勝つ様では魔王の機嫌を損ねてしまう。そうなれば僕の地位だって崩れるかもしれない。


 それを防ぐために、棚から持ち出す際はパッケージをよく眺め、敗北で終了するか否かを見極めるのだ。


 事前に自分だけで鑑賞して結末を確かめることもある。


 そのとき、が気になった。


「何で生殖器がぼやけてるんだ?」


 AVに映る、人間の生殖器の部分。

 そこに「モザイク修正」という名の視覚妨害が施されている。何となく色までは分かるのだが、そこから先が詳しく映らない。画質が綺麗なだけに、ぼやけている部分だけが妙に気になってしまう。

 AVを作っている業者が敢えてそうしているらしいのだが、なぜそうするのかは不明だ。


「モザイクがかかってないAVはないかな……」


 探してみたが、ショップには存在しなかった。

 調べたところ、そうした無修正AVの売買は刑罰の対象になるらしい。向こうの世界の警察に絡まれると厄介なので、モザイクなしの入手は諦めた。


 でも、悔しくはない。


 僕は魔眼種という人間と違う種族のため、彼女たちに対して性欲はあまり湧き起こらないからだ。一応、異種族同士でも子どもを作ることはできるが、そういうことをするヤツはかなりの変わり者だけ。現状、そんな変人になる予定はない。







     * * *


 ちなみに、僕はモザイクなしの生殖器を何度か見たことがある。

 モラルのなってない王国兵士が女騎士を屍姦していたり、拷問のために女騎士の装備を脱がせたりするときだ。日本人とは違い、戦場の極限状態で生きている僕らにはそういう瞬間が稀に訪れる。


 その中でも印象的な事例だったのが、僕が部下を率いて敵の森林キャンプ地に夜襲を仕掛けたときのこと。

 王国の兵士たちは鎧を脱ぎ、小屋の中で娼婦を抱いて楽しんでいた。


「あぁん、あぁん、やめてぇ」


 オイルランプの灯りとともに、こんな感じの声が窓から漏れている。


「よし、やれ」


 僕の合図によって、近くの藪に潜んでいた部下たちが小屋に突入した。


 ドォオオオン!


「きゃあっ!」

「くそ、敵襲だぁ!」


 僕らの存在に気付いたときには、もう遅い。兵士たちは性交に夢中で武器を手放しており、身に纏っているものは毛布だけ。大した抵抗もなく、小屋は一瞬で制圧される。僕が現場に足を踏み入れたとき、全ての敵兵はダガーで突かれていた。


「やめてぇ、私は殺さないでえ!」


 全裸の娼婦が僕に泣きながら懇願する。彼女は完全に腰を抜かしており、だらしない格好になっていた。

 そのときにを見た。


 でも一瞬のことだったので、もう覚えていない。

 あのモザイクの向こう側はどうなっていただろうか。

 彼女をそのまま何もせず逃がしてやったのは覚えているのに。


 僕はモザイクの向こう側が気になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る