ふるさとなまりで話そうか

聞かせたいんだ

ぼくのふるさとを知らないきみに

“サワヤカな潮風のまち”なんて憧れてるなら

ガッカリするかもしれないけれど


夏でも冬でもベッタリ甘い潮風には

魚獲りの舟の匂いや海の命の匂いが混じってる

どんな空気で深呼吸してきたか

ぼくの言葉で語ろう


聞かせておくれ

きみの故郷を知らないぼくに

きみのまちでは

どんな雪が降って どんな風が吹いて

どんな人たちが どんな顔で挨拶を交わすの?


都会まちの空気に溶けそうなときこそ

きみの言葉で語って



ほどよく混んだ電車が好きと きみは言う

なぜか人混みを求める日があると きみは言う

ふと分かった瞬間

お互い 裂けたばっかりの傷から

煮える血があふれてた


目も合わせないまま競争みたいに駅に向かって

ほどよく混んだ電車に走り込んだ

二駅 三駅 満員になって

うつむく視界に 足 足 足

四駅 五駅 せわしげな人がいなくなる

いつしか知らない風景を走る電車


空いた席の前に立ち尽くしたまま

どこかの駅でドアが開く



ああ

忘れてなかった 深呼吸の仕方

ドアが吸い込んだ風は葉っぱの匂いがした


ああ

きみも知ってたんだ 深呼吸の仕方

語り合えそうだね 忘れていない言葉で

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る