5

 電車を待つ朝のホーム。人混み。ざわめき。雑踏でぐしゃぐしゃになる誰かの希望。

 それは私が落とした希望です。でも要らなかったので踏まれてもいいです。

 なんて、無駄な言い訳。


 列の最後尾。アナウンスが鳴り出してから走り抜ければ、きっと。誰にも捕まえられずに、自由になろう。

 そうしよう。


 走り出す為のカウントダウン。


 ごー。よん。さん。にー。いち。


 今だ。


 駆け抜けるはずの予定が足を蹴られて転ける寸前。誰かが私を掴んで引き上げた。


「有難うございま、」


 す、の一文字は言えなかった。喉元を掴まれ息が止まる。人目を避けるようにそのまま移動させられる。


「本当にお前は躾がなってないな」


 ああ。また捕えられた。


「お前を殺すのは俺だ。勝手にミンチになるつもりか?」

「ご、、め、」


 ひゅーひゅーと喉が鳴り、涙が出てくる。


「分かればいいんだ、分かれば」


 私はどうやらこの瞳にも囚われている。

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