第32話 治癒と謝罪と試練

闇の大庭園ナイト・ガーデンから帰還してから、たったの数時間で様々なことがあった。

両親、特にニナお母さんから、今までに見たことが無い程に怒られたこと。

クラ爺が珍しく、中央管理局にやってきて、私を光の大庭園ライト・ガーデンの特別管理整備官に任じたこと。

この件を受けて、ルーシェ様とサタン様と私の両親だけの秘密にするということ。

古の昔、神々が遣わされた執行官たるアーク様に出会い、お守りのブレスレットを頂いたこと。

「本」さん達曰く、このブレスレットの正式名称は「精霊神のブレスレット」とのこと。


そういえば、このお守りを貰ってから、大精霊さん達の様子がちょっぴりオカシイ様に感じるんだけど、あとで聞いてみることにしようっと。

まずは、治療室に行って、ニナお母さんとガブリール様、ルフォン様にきちんとお礼と謝罪をしないと。


治療室に到着して、ノックをして部屋に入る、


「あら、アニス様。闇の大庭園ナイト・ガーデンからお戻りになったのですね。向こうはどうでしたか? 光の大庭園こちらとは正反対で驚かれたことでしょう。」


「ガブリール様、ルフォン様の治療をして頂き、ありがとうございます。本来なら私がしなければいけない所をお任せしてしまって、申し訳ありません。」


私は、闇の大庭園ナイト・ガーデンのことより、先に謝罪をする。横でニナお母さんの機嫌は治ったみたいで、古式治療術を施している。


「アニス、戻ったのなら、最後の治療をしてちょうだい。ガブリール様に手伝って頂いて、大部分の治療は済んで、意識は辛うじて戻ってるのだけれど、やっぱり、あの技を使った貴女じゃないと完全な治療は出来ないのよ。」


「いえ、ニナ様に治療をお手伝いして頂ければ、ルフォンは再起不能となっていた筈です。改めてお礼を申し上げますわ。」


「そんな、私の娘がしでかした不始末を親の私が、肩代わりをしただけですので、お気になさらずに。それはそうとアニス、治療を済ませて頂戴。」


「お母さん、ありがとうね。さすがお爺ちゃんからの口伝だけで、ここまでの治療をして貰えてるから、あと少し治療術を使えば、完全に治りますので、ガブリール様もご安心ください。」


「その古式治療術、私達が見ていても大丈夫なの?」


「うん、大丈夫よ。禁忌ではなく、秘奥の部類の治療術だって、お爺ちゃんが言っていたから。」


「秘奥の部類って、お父さんは、幼い頃のアニスにどれだけの古式術を叩き込んだのよ。私達の面目が丸潰れじゃないの…。」


「そんなことは言わないで。私のお師匠様は、お父さんとお母さんなんだから。みっちりと一ヶ月稽古をして貰ったから、幼い頃の記憶を取り戻せたのよ。だから、本当に感謝しています。ありがとう。お母さん。」


「お礼はいいから、さっさと治療を始めなさい。ルフォン様へ謝罪をするためにここ来たんでしょ。」


「私からもお願いします。手を出したルフォンが悪いことは承知しておりますが、どうかお治しください。」


「わかりました。大丈夫です。きちんと治しますから。では、参りますね。」


そう言い、私は古式治療術の秘奥たる遮断して破壊した気功回路の完全修復と全気功活性の術を行う。

禁忌術技である「型無」の手加減で、肉体的だけでなく、どの種族にも存在する気功回路の一部の完全遮断と破壊を行っているので、お母さんが残存していた気功回路の修復と治療を行ってくれていたのとガブリール様の天術による肉体活性及び治療で、ほぼ済んでいたの。

だから、あとは完全遮断していた気功回路の修復及び全気功回路の活性を行うことで、元通りの気功循環に戻り、あとは肉体と精神の回復を待つのみなんだけど、肉体的には完全に治ってるから、あとは精神次第。

古式術を知らなければ、見られていても何をしているのかは、理解できないからガブリール様にも同席して貰っているのです。


「アニス、この術、あとで私にも教えて頂戴!絶対よ。もう、お父さんたら、秘奥は自ら掴むモノとか言って、きちんと教えてくれなかったんだから。」


「お母さんなら、そういうと思ったわ。あとで、時間のある時に教えるね。」


「これは、凄いですね。今まで治せなかった部分が見る見るうちに活性化して、どんどん修復されていくのがわかります。ありがとうございます。アニス様。」


「いえ、これはガブリール様が施した術が、きちんと発動して一気に活性化して修復が開始されただけなので、ガブリール様のお陰ですよ。」


こうして、ルフォン様の治療は完全に終わりました。

意識も辛うじて戻っているとのことなので、明日には完全に復帰されるでしょう。

今日、例の件をガブリール様だけに報告するのもなんだから、明日、ルフォン様が完全に目覚めてから報告することにしよう。


この後、ニナお母さんに古式術の回復の秘奥義の伝授を行ったのは言うまでもありません。

ちなみにお父さんも口伝のみで、技の実態を知りたかった秘奥義の一つを教えて欲しいと頼まれましたが、お父さんには必要ないので教えませんでした。

そんなこんなで、一泊することになったので、久しぶりに実家に戻り、いろいろとありましたが家族団欒で過ごしました。


翌日、中央管理局の治療室へ行くと、完全に回復され、ベッドに横になっているルフォン様と付き添っていたガブリール様がお待ちしていました。

私が部屋に入ると、ルフォン様がベッドから起き上がり、土下座をされ謝られる。


「アニス様、先日の無礼、どうかお許しください。人の子が下賤であるなどと驕った考えをしていた自分が情けないです。それもこれも全てガブリールから聞きました。私の治療にアニス様のお母様が尽くしてくれたこと。私に放った技は、本気では無かったことなど、私は本当に浅はかです。長き時を生きてきて、神々が我らに与えた罰の本当の意味を理解できていなかった愚か者です。どうか、本当にお許しください。」


「ルフォン様、どうかそのようなことはお止めください。私の方こそ、大怪我を一歩間違えれば、ルフォン様の命を奪っていたのです。だから、余られる必要など無いのです。私の短気が起こした結果、大事になってしまっただけなのです。だから、私の方こそ、お許し願いたいのです。」


「そのようなお言葉を頂けるなどとは、感謝の至りです。私は、闇の中央管理局に戻ったら、やらなくてはならないことに気づかされました。時間はかかるかもしれません。それでもアニス様のお父上と母君が問題なく研修が行えるように致します。至らない点は多いかもしれませんが、その際はどうかご容赦願うとありがたいです。」


「私からもアニス様には、本当に感謝しています。あれ程、頑なに種族格差の考えを持っていたルフォンをここまで変えて頂けるとは、思ってもおりませんでした。ミカ様の言う通り、アニス様は本当に不思議で特別なお方なのですね。」


「その件で、お二人にお話したいことがあり、ここに参りました。ルフォン様が2日間治療を受けている際に私は、闇の大庭園ナイト・ガーデンへ赴き、闇の中央管理局の職員への謝罪に参りました。その際、管理局で揉め事を起こしてしまい、それとルフォン様へ大怪我を負わせた罪の罰を闇の特別顧問管理官のフォンセ様より頂きました。」


「私が眠っている間にそのようなことが、すぐにでも戻り、フォンセ様に罰を解いていただくように私から説得致します。それと管理局の職員はきっと私の管轄する北西部の者が起こしたことでしょう。それに関しても謝罪致します。全ては私の驕りが招いたことです。どうかお許しください。」


「ルフォン様が謝る必要はないのです。それにもうミカ様が全責任を負って、私に謝罪をして頂いているので、もうこの件に関しては済んだことなのでお気になさらずに。これからお二方に話すことが本題なのです。他の者には知られたくないので結界を敷きますので、しばしお待ちを。」


そういうと私は、古式結界術と精霊結界術の二重結界を展開し、完全なる密室空間を作り出す。

この結界内であれば、外に情報が漏れることはない。古式結界を内部に外部に精霊結界を配置しているので、外部から情報を聞き出そうとすれば、精霊結界に完全に阻まれる。古式結界は念のための保険です。


「このような重厚な結界を張られる位となると、これからアニス様が話されることは、絶対に漏洩してはならないということですね。」


「はい。その通りです。ガブリール様。ルフォン様もこれから、私が話すことは、私が闇の大庭園ナイト・ガーデンへ再び赴くまで、他言無用にお願い致します。この件を知っているのは、極少数に限りますのでどうか本当に内密にお願い致します。」


「わかりました。アニス様がそこまで言われるのであれば、相当なことなのでしょう。失礼ながら、ベッドに横になっても宜しいでしょうか。まだ、完全に体の自由を取り戻せてはいないので。」


「ルフォン様、お気になさらず、ベッドにお戻りください。」


「ありがとうございます。それで、本題と言うのは一体どういうことなのでしょうか?」


私は。闇の大庭園ナイト・ガーデンで起った経緯をお二人に全て伝え、私が闇の中央管理局所属の特別管理整備官に任じられたことを話しました。

お二方共、驚きは隠せない様子で、その証拠として闇の特別管理整備官の制服姿を見せ、納得されたという感じでした。

また、それに伴い光の大庭園ライト・ガーデンでも、特別管理整備官に昇格したことを伝え、2つの大庭園の共通特別管理整備官であることを伝えたのです。


「それでは、アニス様は、この研修が終わって、闇の大庭園こちらに来る際は、特別管理整備官として赴くということ。そして、私が作ってしまった種族格差を壊すということが使命であるということですね。ジャック様が外部から種族格差を壊そうとした理由がわかりました。北西部には未だに種族格差が根強く残っているのを助けるために北西の中央に管理整備棟を作られたと言う訳なんですね…。お恥ずかしい限りです。」


「南東部の者は、アニス様に危害を加えるようなことはしなかったでしょうか?中には種族格差の考えを持つ者も少しは居るのです。なので、それが少し心配だったのです。」


「いえ、大丈夫ですよ。南東部の方は驚かれるばかりで、見ていて楽しかったですから。」


ある程度の話が済むとルフォン様が、真剣な表情で私にお願いをしてきました。


「アニス様にお願いがあります。私の身体が治り次第、大樹の丘の見学を二日程させて戴きたいのです。これは光と闇の特別管理整備官としてのアニス様へのお願いです。今回、ミカ様やルーシェ様が大樹の丘への長期研修に選んだ庭園とそこで働くものの姿を見たいのです。どうかお願い致します。」


「アニス様、私も同行させてください。是非、大樹の丘を見てみたいのです。あの古竜さまが守った今も健在する太古の庭園の姿を見たいのです。そして、そこで働く方々の姿を見て、参考にさせて戴きたいです。」


ガブリール様もルフォン様と同様のことを考えていたようでした。


「わかりました。私としては構いませんが、ルーシェ様とクラ爺の許可を得てからで宜しいでしょうか?」


「「はい。構いません。是非、宜しくお願い致します。」」


こうして、私は結界をといて、局長室へ向かい、お二方の見学研修の許可を貰いに行く。

すると、ルーシェ様は少し戸惑いつつ、私に話される。


「アニス様、以前にもおっしゃいましたが、私より身分は上なのです。だから、私の許可は別に要らないと思っているのですよ。アニス様がされることに間違いは今までありませんでした。これからも無いと私は信じております。何よりアルとニナの娘さんですから、間違いなど起こすことは無いでしょう。でも、こういう風にきちんと中央管理局の局長たる私に許可を貰いに来ることがアニス様らしくて素敵だと思います。中央管理局として、お二方の見学を許可します。同行者は、アニス様にお願いします。」


「ありがとうございます。ルーシェ様。あとはクラ爺に許可を得るだけかな。」


「クラルテ様の許可なら不要かと思いますよ。たぶん、このことを見ていらっしゃいますし、アニス様に一任していると思いますので。」


「わかりました。私の責任でお二方を大樹の丘の見学をさせて頂きますね。」


「滞在期間が延びることは、私からミカへ伝えておきますね。」


「ありがとうございます。それでは、失礼しますね。」


こうして、ルフォン様とガブリール様の2日間の大樹の丘の見学研修をすることになりました。

許可を得た後、お二方に身分を隠した上での見学を行う旨を伝え、今日は体調管理に専念するようにお願いしました。

翌日には、ルフォン様の体調も万全になったので、大樹の丘へと向かうことに。


中央地下都市から大樹の丘の地下街へ移動し、お二方に案内をしながら、歩いていると気さくに色々な方から声を掛けられる。


「あら、アニス。今日は違う天族の方を連れているのね。新しい見学の方かしら? 何かあったら言ってね。お困りのことがあれば協力するから。」


「やぁ、アニス。新しい研修の方かな? それとも見学かな? 天族のお二方、ここは景色が素晴らしいから是非、堪能してくださいね。」


種族格差がないことを実感するお二人。

様々な種族から、気さくに声を掛けられることに驚かれている。


「アニス様、この地下街にも種族格差は無いのですね。皆、平等に気兼ねなく話しかけてくるなんて、素敵ですわ。」


「そういえば、ここにはアニス様以外に人種の姿が見えないのですが、もしや人の子はアニス様だけなのですか?」


「お二方には、伝えてなかったですね。この大樹の丘で、人の子は私のみです。だからといって、皆が特別扱いなどはせず、先程の様に皆、気さくに声を掛けてくれますよ。でも、ここに来た最初の一ヶ月は、皆から稀有な目で見られましたけどね。でも、一ヶ月かけて皆と打ち解けましたよ。」


この事にも驚くお二方。

それもそのはず、先程から声を掛けてくるのは、中級魔族だったり、エルフやドワーフなのだから。

短命種たる人の子を蔑むようなことなく、普通に接していることに驚きを隠せない様子。

地下街を軽く案内してから、地上部へ。


「ここが大樹の丘。遥か古の昔、天族でも限られたものしか入ることが出来なかったと言われる古の庭園。すごい美しい。まだ地上に出ただけで、これだけの整備が成されているとは…。」


「古の庭園に来れるだなんて、本当に嬉しいし、感動の限りです。それになんて美しいのでしょうか。地上に出ただけで、ここまで美しい庭園は始めてですわ。」


お二方が地上の風景の美しさに酔いしれている。

私は、大樹さま、今は精霊樹と呼んだ方がいいのかな?

でも、大樹さまには変わりないから、大樹さまでいいわよね。

そんなことを考えながら、大樹さまの元へ案内をする。


「これが古の光晶大樹エンシェント・ビッグ・クリスタルツリーですか…。」


「いえ、今は精霊大樹エレメント・ビッグツリーとなりました。見た目は古の光晶大樹エンシェント・ビッグ・クリスタルツリーですけどね。」


「美しい大樹ですね。この上に古竜さまが住まわれているのですね。」


「えぇ。古竜さまが住まわれている大樹です。たぶん、もう来られると思いますけど…。」


「さすがはアニスじゃな。わしの行動をよく読んでおるわい。」


ルフォン様とガブリール様の後ろにいつの間にか現れているクラ爺。

まぁ、慣れていないと驚かれるのも当然なんだけど…。


「アニス様、この方がもしや…。」


「そうじゃ、わしがこの光の大庭園ライト・ガーデンの特別管理顧問官にして、大樹の丘の整備管理官じゃ。」


「クラ爺、名前を紹介して忘れてるし、それに整備管理官業務は、シャイン様とレイティア様に任せきりじゃないですか!」


「はて、何のことやら? おお、そうじゃった。名前を言うておらんかったな。わしの名はクラルテじゃ。クラ爺と呼んでくれ。まぁ、わしの名は聞いたことはあるじゃろうから、知っておるとは思うがな。」


お二方とも驚かれると同時に一気に緊張した様子がみられる。

過去に何かあったのかしら?


「この方があの時の竜剣士…。古竜クラルテ様なのですか…。」


「たったお一方で、天族と他種族の合同軍、約一万の兵を誰一人死せることなく、敗軍させた竜剣士…。」


「そういえば、お主らも参加して居ったのう。ルフォンが後衛部隊の防衛隊長、ガブリールは治療部隊の副隊長じゃったな。まぁ、後衛の部隊は一閃で終わらせたからのう。何が起こったのかもわからんじゃろうけどな。」


「仰る通りです。クラルテ様が前衛の攻撃部隊全てを退けた後、後衛の防衛部隊及び治療部隊は、竜剣士のたった一閃で壊滅したのです。何が起こったのか、今でさえ解っておりません。ただ一つ、解っていることは、我らが敗北したことのみが刻まれたということだけです。」


「防衛部隊も治療部隊も無傷ではありましたが、誰もが閃光を見た次の瞬間には、全員がその場で気絶していましたから…。」


「懐かしいのう。でも、あんなことは二度とゴメンじゃがな。それと言っておく。わしはお主等の見学は認めんぞ。これから出すお題にクリアできたら、二日間の見学を許そう。もし、このお題をクリア出来なければ、見学では無く、二日間、整備士見習いとして、雑用係をして貰う。これは決定事項じゃ。」


何か遥か昔の庭園紛争のお話みたいだけど、あとで詳しいことは「光の書」さんにでも聞いてみようっと。

それにしても、久しぶりのクラ爺からのお題か…。

うーん、困ったわね。どんなお題が出ても、難しいのよね…。でも、このお二方も闇の管理整備官だし、きっと大丈夫でしょ。


「クラルテ様のお題をクリアすれば、宜しいのですね。わかりました。私達に拒否する権利はありません。その試練、お受け致します。」


「私もルフォン同様、その試練、お受け致しますわ。」


「アニス、お主にもこのお題を受けて貰うからな。お主にも拒否権は無しじゃ。」


「え! 私も受けるんですか!?」


「そうじゃ、アニス。お主の独断で決めたことに文句は言わん。だが、しかし、ここ大樹の丘は、特別なのじゃ。だから、この丘で過ごすに値するかの試練じゃ。当然、勝手に決めたお主にも参加してもらうぞ。アニスへの罰は考えても無駄じゃから、何も無しじゃ。」


「罰も褒美も出ないの参加するのですか、何か理不尽ですよ。」


「アニス、お主にはこの試練が褒美かもしれんぞ。久しぶりに本気を出せるんじゃからな。」


クラ爺の顔が珍しく悪い顔をしている。

ああいう表情をする時は、とんでもない試練を出してくるのよね…。

とりあえず、私が本気を出さないとクリア出来ない試練ていうことなのね。

お二方の実力が解らない以上、何とも言えないけど、まぁ、やるしかないわね。


「それで、クラ爺。その試練っていうのは、何をするのかしら?」


「今から、ここの整備を各々にして貰う。」


クラ爺がそう言うと「小庭リトル・ガーデン」に転移する。

えーっと、これは「光葉樹の森林」の若木を育てている「小庭リトル・ガーデン」ね。

それにしても若木と言えど、育ち過ぎてるわね。

あれ?ルーモ主任とアス姐がいる。


「これから、お主等には、この育ち過ぎた光葉樹の3区画の森林をそれぞれに整備して貰う。方法は自由じゃ。均等になるように整備をすればよい。合格の判断を出すのはわし一人じゃ、不満があるだろうから、ルーモとアスにも判定をして貰う。」


「この育ち過ぎた森林を均等に整備するだけでいいのね。それで、今日はどれ位で整備をすればいいの?」


「アニス、わしは先に言ったぞ。今日は本気で整備をして貰う。お主の整備技術の全てを出して貰う。100%で整備を行って貰う。」


「あのお二方が居るのに100%で整備をしなくちゃダメなの? ある意味、罰ゲームじゃないの!」


私とクラ爺の言い合いに着いていけてないお二方が後ろにいる。

でも、お二方の様子がおかしい。


「あれは、ルーモ様? ドワーフ族の英雄、ルーモ様では?」


「えぇ、間違いないわ。あの戦の最中、ただお一方だけ行方知れずとなったドワーフ族の英雄たるルーモ様よ。」


ルーモ主任の前に行かれ、お二方ともに跪き、首を垂れる。


「ルーモ様、ご無事で何よりです。あの時の長に変わり、我ら天族の愚考をどうかお許しいただきたい。」


「我々は、あの戦でドワーフ族の英雄たるルーモ様を失い、ドワーフ族の怒りを買いました。我らが長の愚考に何も言わずに参加された英雄の無事は喜びであり、そして、我ら七大天族としては、ルーモ様に謝罪をせねばなりません。どうか、我らをお許しください。」


ルーモ主任は、天族のお二方が急に跪き、謝罪をされるので驚かれる。

横で見ていたアス姐は、やっぱりというような表情をされている。


「ルーモ主任ってやっぱり、あのドワーフ族の英雄、巨光のルーモ様だったのね。まぁ、今となっては過去のお話だけどね。」


「お二方ともどうかお顔をお上げくだせえ。俺のような者に首を垂れることはありません。あの戦いで行方知れずとなったのは全て俺の責任ですし、天族の方々が悪い訳でもありません。あれは俺が進んで戦に臨んだこと。だから、許すも何もありませんし、もう遥か過去のことです。もう水に流しましょう。アスの姐さんも俺のことを言える立場なのですかい?あの抗争の最中、七大魔族の一角がこの庭園に紛れ込んで戦から逃げたことを。」


「だって、あんなつまらないことに力を使うのなんて、ナンセンスよ。気持ちいいことに力を使うのなら別だけどね。あんなことに力を使うだなんて、あの当時、七大魔族の筆頭だったサタン君の命令でも御免だわ。だから、私はこの庭園が気に入って、ここに隠れ潜んでいたのよ。抗争終結後に見つかって豪い目に遭ったけどね。」


「まぁ、確かにアスの姐さんや他の力を持たない者には、とてもくだらないつまらないことでしたろうね。力ある者だけが、あの抗争を当時は誇らしげに語っていたのですから…。」


天族のお二方が頭を上げると七大魔族のお一人であるアス姐がいることに驚かれている。

それも、敵対しあっていた者同士が仲良く話していることをとても驚かれている様子でした。


「貴女は、堕ちし栄光たる七大天族のお一人であり、以後、七大魔族と呼ばれ、色欲を司りし者であるアス様ですよね?」


「そうよ。私のことを知っているなんて光栄だわ。あの抗争では、上手く隠れ逃れることが出来たから、天族の皆様には感謝しているのよ。七大魔族の一角を落とせたことに狂喜し、この庭園への攻勢に出てくれたことに。あの時に私は、ここに上手く隠れ逃がれることができたのだからね。クラ爺にも感謝してるのよ。私のことを見て見ぬ振りをしてくれたことにね。」


「ほう、気づいておったのか、わしの目から逃れたことをいいことに何かしようもんなら叩き出そうと思っておったが、お主はこの庭園に潜り込んでからは何もせず、力無き者たちを庇いながら隠れ住んで居ったからのう。まぁ、抗争後にルーシェに居場所を教えたのは、わしじゃがな。」


「知ってますよ、そんなこと。ルーちゃんやサタン君に思いっきり説教食らって、管理整備官なんて資格まで取らされたんだから…。」


「それでは、アス様もここの管理整備官なのですね。」


「違うわよ。私はここの整備官よ。それも無理矢理させられたから、嫌になっちゃうけど。まぁ、でも管理のお仕事はしなくていいし、普通に整備士として働いていていいって言われてるから、名前だけの整備官よ。」


「そうなのですか、それでも、あの堕ちし栄光たる七大天族だった方に出会えるとは思ってもいなかったので…。」


「あぁ、別にそういうのはいいから。あれ?でも、ルーちゃんやサタン君とは会ってないの?まぁ、ルーちゃんはあの当時は光と闇の英雄とやりあってたんだけっけ。それにサタン君は…そうか、今は管理整備室の副官だから会ってないのも当然か…。」


「ルーシェ様にもサタン様にもお会いしたのですが、あの当時とは印象が大分、違っていたので、我らも困惑してしまっておりまして…。」


なんだろう。このままでいくとアス姐の話のペースに巻き込まれて、試練が開始が長引きそうな気がする。

ルーモ主任は自分から話が逸れて安心してる様子だし、クラ爺は気長に待っていそうな気がする。

こんなんじゃ、いつまで経っても試練が始まらないじゃない。


「お二方、アス姐のペースに飲まれてますよ。クラ爺もルーモ主任もいい加減、止めてください。試練の開始の合図をお願いします!」


「なんじゃ、もう少し昔話に花を咲かせてもよいじゃろう。」


「そんなことを言って、試練を遅らせて、外部との時間調整を変えられたら、私が大変なことになるんですよ。」


「仕方あるまい。では、試練を開始とするぞ。三名とも準備はよいか。整備用具はある物を好きに使っていい。各々の力を使うのも自由じゃ。それでは、よーい、スタートじゃ!」


100%の力で整備か、うーん、本気と言うのとは違うけど、私なりの100%の力で整備をしよう。

あのお二方が見ているから、罰ゲームに近いけど、私なりの成長を見せるということに考えを変えて、整備しよう。

こうして、大樹の丘への見学を賭けての試練が開始されることになるのでありました。

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