第28話 蔑む心を打ち砕く畏怖
盛大な喧嘩をしたので、逆鱗の効果が解けて、スッキリしたのですが、手加減することが難しい禁忌の技を使ったことは後悔しています。
古式術は、人の祖先が非力な人の力でも格上のモノを封じたり、生殺与奪を可能とした術であり技なのです。
その中でも、一子相伝でもある「型無」は、加減することが難しい大技であり、その反動は私には小さいものではありませんでした。
普通に使っても、反動の大きい技であり、確実に相手に致命傷を与えることが出来る力の技なので、本来は使うべきではなかったのです。
他の古式格闘術でも、戦意喪失させるだけの大技はあったのですが、逆鱗という怒りに任せた力が使わせたと言った方が良いのかもしれません。
そんな訳で、技を放った右腕は見た目に反し、内部と気道は滅茶苦茶になってます。
精霊治癒術を使えば、すぐに回復できるのですが、あえて、私自身の戒めの為にしていません。
それでも、右腕の機能は軽くでも使えるくらいには、回復をさせてありますが…。
全て裏を取ってあるので、トロン君の様子によっては、お仕置き、無意識化の力であれば、お説教を考えていたのです。
でも、まさか、古式格闘術を使って喧嘩をすることになるとは思っていませんでしたが…。
人を蔑むということは、他種族に対しても同じような格差的な社会があるのではと思っています。
ミカ様やガブリ―ル様もどのような考えをしているのかが、正直、解らなくなっています。
お二方が私には話したのは、この一言ずつ。
「アニス様が我が中央管理局に来れば、全てが解ります。」
「ミカちゃんの言う通りなの。今は何も言えないの。ゴメンなさいね。」
ただ、お二方の眼には、悲しみの眼をしていた。
私は、確かめに行かねばならない。
それから一時間後、ガブリ―ル様はルフォン様の治療の為、こちらに残ることになり、ミカ様とルーシェ様、そして私の護衛の為、
「では、アニス様、二日間の厳罰として、
「アニス様の件に関しては、こちらの特別管理顧問官より音沙汰があると思います。それまでは、中央管理局にて身柄を預からせて頂きますね。」
「わかりました。私も
「とりあえず、私はそれでも一応、罪人たるアニスの護衛という立場なのよね?」
「そうよ。
「わかりました。ルーシェ叔母様。護衛及び視察ということですね。」
「それでは、お二方、
「わかったわ。それでは、お二人共、二日と言え、お元気でね。」
「はい。それでは、行ってきます。」
ルーシェ様が
私達は、
到着時間としては、30分程度らしいです。
転移門の中は、特殊な結界なのか、外部を見ることは出来ず、構造を知ることは出来ないようになっていました。
抗争以前の遥かなる昔に
「アニス様、事前に言っておきます。知っての通りだと思いますが、簡単に言えば、
「向こうは極夜で、全く日が差さない場所なんですよね? 」
「えぇ、でも、気候や温度は、
「光と闇だけが反転した世界だと思えば、簡単でいいと思いますよ。」
「
「私は中央管理局で謝罪と闇の古竜さまからの処罰ですよね…。」
「アニス様、確かに喧嘩をしていますが、あの場で私達が完全に止めに入れば良かったのです。そこまで自分を責めなくても宜しいのです。徒手格闘で七大天族に全治三日の大怪我を負わせたのも、私達には想定外の出来事ですので、アニス様に非はありません。喧嘩を売ったルフォンに非があるのですから、そこまで深く考えないようにお願い致します。フォンセ様からも特に罰は無いと思いますから。」
「ミカ様、あの時、ルーシェ叔母様と同じことを考えていたんでしょ。精霊術を使わないアニスさんが怪我をするかもしれないから、それを庇おうと思っていたのに、まさかの古式格闘術で返り討ちにするとは思ってなかったっと…。」
「えぇ、その通りです…。あれだけの
ミカ様が、申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、そんな頭を挙げてください。私も内心の逆鱗に触れてしまい、怒りを抑えられなかったのがいけないのです。どうも
「ありがとうございます。アニス様。では、中央管理局でも、もしかしたら同じようなことがあるかと思いますが、どうか我慢して頂きたいです。次の交換研修までには、解決させるつもりですので、どうか、宜しくお願い致します。」
「わかりました。注意したいと思います。」
そして、いくつのかの談笑をしながら、時は過ぎていきました。
「お二方、そろそろ
「
そうこうしていると、
ミカ様が鍵となる
「丁度、こちらでは夜だから、星が出てますね。」
「星?あの空で小さく光ってるものですか?」
「アニスさんは、
「そうですね。始めて見る風景。なんだか、とても不思議です。」
すると、
「お帰りなさいませ♪ ミカ様♪ そして、アニス様と
「え?! ジャック様。何で貴方がここに居るのですか?」
ハロウィンで出てくるカボチャ頭にシルクハットを被ったタキシードを着て、マントを羽織った紳士の方が、そこに立っていました。
「はい♪ フォンセ様よりお出迎えに行くように言われましたので、ここでお待ちしておりました♪」
「遥か遠方にある特殊北西中央管理整備棟からお見えになったのですか?」
「そうですよ♪ 久しぶりの中央管理局なので、ドキドキしてますけどね~♪」
「あの? ミカ様、カボチャ頭のこちらの方は?」
「えっと、この方は、ジャック様。中央管理局北西部管轄管理副主任であり、特殊北西中央管理整備棟の特別管理整備官です。」
「ミカ様、私のことはジャックで宜しいといつも申しているではないですか♪ まぁ、こればかりは慣れて頂くしか仕方ありませんかね♪」
「ん? この気配、貴方、あの執行官と同じ様な感じがするのね。そのカボチャ頭の下には、どんな素顔があるのかしら? まぁ、どうでもいいですけど…。アニスさん、こちらの方には注意した方が良いですよ。まぁ、私の勘ですけどね…。」
「さすがは、
好きに呼べって言われたけど、ジャックっていう名前よね。でも、どう見てもカボチャさんなのよね。
うーん、ジャックさんって呼べばいいのかしら?
そういえば、特別管理整備官ってミカ様が言われてたわね。そうするとジャック様ってお呼びした方がいいかしら?
「えっと、ジャック様は、
「はい♪ そうですよ~♪ ん? アニスさん、私のことを内心ではカボチャさんとお呼びのようですね♪ ふふふ♪ いいですね♪ カボチャさん♪ アニス様、私のことはカボチャさんとお呼びください♪」
「アニス様、ジャック様は人の心を簡単に読んでしまうのです。そして、楽しいことが大好きな方なのですよ。なので、諦めてください。」
「ふふふ♪ カボチャさん♪ いい呼び名ですね♪ 私を見た子供達も色々な呼び方をするので、楽しいですよね~♪」
まぁ、本人が許してくれるのなら、カボチャさんってお呼びしようかな。
「おぉ、アニス様は素直な方なのですね♪ おっと、アニス様もさん付けの方がいいのですね♪ それでは、アニスさん、改めてお見知り置きを♪」
「ふふふ、ホントに人の心を読むのが早いのですね。そして、カボチャさんは楽しい方ですね。こちらこそ、宜しくお願い致しますね。」
一通りの挨拶が終わり、ミカ様が一言を言おうとすると、カボチャさんが先に口を開く。
それにしても、このカボチャさんの顔、きちんと表情が出るのね。凄いわね。
でも、この方からは、天族の気配がしないのよね。
「まぁ、いろいろと考えていても仕方ありませんし、それでは、中央管理局へと向かいましょう♪ それでは、行きますよ♪ 3、2、1、ハイ、到着♪」
そう言うと、あっという間に
精霊の気配も天力の気配も無かった。何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
「えっ、いつの間に?」
「ふふふ♪ 大変、驚かれてるようですね♪ 何をしたかと言えば、
「アニス様、ジャック様の言動は、考えても無駄ですよ。わからないことが多いので。とりあえず、ここは
「えっと、ここは大樹の中にあるのですか?」
「はい。ここは、
「大自然の中にあると言ったら、良いのでしょうか?」
「ふふふ♪ そうですね♪
「では、次回、来た時を楽しみにしてますね。今回は、謝罪をするだけですから。」
私達は、
すると、北西管轄部と南東管轄部と名称が天井から下がって、別れていました。
北西管轄部は、高位天族やハイ・エルフ、ダークエルフと言った高位種族のみで構成されており、仕事に集中していて、
南東管轄部は、様々な種族で構成されており、和気あいあいとした感じがしながら、仕事をしていました。
互いの干渉は無く、同室内でも完全に別れていたことに気付き、そして、それに慣れている姿を見てしまいました。
「うーん♪ この部屋は相変わらずなんですね♪ いい加減、そんなくだらない
カボチャさんが思いもしなかったことを言ったので、すごく驚きました。
そして、北西管轄部の職員さんは、何事も無かったように無視をしていました。
「皆様、只今、戻りました。今日はお客様が来ております。一旦、仕事の手を止めるように。」
ミカ様が、そう言うと、管理局室の全職員が仕事の手を止めて、私達の方を見る。
私を見る目が様々なのは、瞬時に理解できたけど、北西管轄部の方々は蔑むような目で見ていたのには、すぐに気付けました。
「南東部主任管轄管理整備官であるガブリ―ルと北西部主任管轄管理整備官であるルフォンは、現在、
このミカ様の言葉に、皆、驚かれる。
「ルフォン君の下手な
カボチャさんが要らない一言を付け加える。
すると北西管轄部の職員の方から、ミカ様に質問をされる。
「ミカ様、ルフォン様が何をしたのでしょうか? それに何故? いつもこちらに来られず、特殊北西中央管理整備棟に居られる『Mr.パンプキン』が来られているのでしょうか?」
「ん?♪ なんで、僕に直接、聞かないのかな?♪ まぁ、それだけ、ここでは僕は、嫌われ者だからね♪ 僕がここに居るのは、特別管理顧問官様より
「ジャック様の言う通りです。こちらの方々は、
ミカ様に私達を改めて紹介されると、管理局の職員一同が皆が驚かれている。
まぁ、人の子たる私が
それにしても、北西管轄部の方々からの蔑むこの視線は、私に対しての軽視、軽蔑、嫌悪、侮辱。そして、傲慢な態度。
あからさまな態度過ぎて、喧嘩を売られてるような気がしてなりません。
でも、謝罪中に攻撃されても我慢はする。
その後は容赦してはいけない気がする。
そうじゃないと次に研修で来る両親も同じ目に遭う。
それだけは、考えるだけでも我慢できない。
だから、本当はしたくない。だけど、畏怖と言う名の力尽くで何とかする。
この力尽くで何とかしようとする単純な私の考え方には、私自身、嫌悪してしまう。
でも、今の私には、それ以外の方法が見つけられないから…。
カボチャさんは、私の心を読んだ様子でした。ミカ様は、何もわかってない様子だけど…。
「皆様、初めまして。ご紹介に預かりました
そう言いながら、頭を下げる。
北西管轄部の職員の方々から、様々な
南東管轄部の職員の方々からは、一切の攻撃は無く、挨拶を聞いている感じでした。
そして、何もなかったように頭を挙げ、微笑む。
この状況を見て、何か思ったのか、
「皆様、お久しぶりです。
「
私達のあからさまな挑発的な態度と言葉にミカ様が動揺されてしまう。
「お二方共、どうか、そんなことは言わずに。」
「ふふふ♪ やっぱり、お出迎えに来て正解だったみたい♪ こんな楽しい方々が来るなんて~♪」
北西管轄部の方々の目が下賤な小娘がというような雰囲気を出しているのに対して、南東管轄部の方々は、私を尊敬するかのような目でみており、全く持って対照的である。
そして、カボチャさんは、私のことを偉く気に入った様子です。
「一応、もう一言。とりあえず、やられたらやり返すことにしているのですが、この場は、ミカ様のお顔を立てなければいけませんし、私も北西管轄部の主任に大怪我を負わせた身であり、謝罪をしに来たので、何も致しません。しかし、もう謝罪も終わりましたので、これ以上の敵意等を向けて、何かされるのであれば、容赦はいたしません。いつまでも下賤な人の小娘とばかり思っていると痛い目に遭いますので、そのおつもりで。」
この言葉を聞いた北西管轄部の天族の方の一人が、ついに怒り始めました。
「この神聖なる中央管理局に下賤な人の小娘が入るなどといくら客人とは言え、我慢をしていたが、その挑発的な態度は許せん。何の術を使ってるかは知らないが、この
「ミカ様、一応、こう言ってきましたけど、遠慮しなくていいですよね?」
「出来れば、アニス様、止めて頂きたいのですが…。」
「局長、何故、こんな人の小娘如きに様付けで、お呼びなさるのですか。貴女様、偉大なる天族の長ですぞ。それをこのような下賤な小娘を。」
「あー、もう、それ以上、言わなくていいですよ。さっきから、
「下賤な人の小娘如きの本気も何も私には、通じはしない。遠慮せずに一撃、加えられるのであれば、加えるといい。」
「わかりました。では、
私が一言、告げた次の瞬間、両眼を閉じ、精霊眼を開放する。精霊力をほんの少しずつ左拳に集中し始める。
「ほう。
何かを言ってるみたいだけど、相手を無視して精霊力を無言で、ほんの少し高めていく。
一気に莫大な精霊力を込めても良かったんだけど、相手に恐怖を与えるのには、これが一番、効果的だからね。
物静かに冷徹な精霊力が左拳に一点に集中していく。
「なんだ…何が起こっている…。その莫大な精霊力は一体…。」
まだ、何か戯言を言っているので、さらに精霊力をちょっとだけ高めていく。
そして北西管轄部の方々へ畏怖を向ける。
すると、偉そうなことを言っていたのに私の畏怖を感じたのか、天術で攻撃を始めてきたので、精霊界から私のことを心配して見守っていた
「あれは、もしや、光の大精霊様…。」
北西、南西を問わず、エルフやハイ・エルフ、ダークエルフの職員の方々が騒めき始める。
左拳に私的には軽い精霊力を込めて、精霊眼を開き、喧嘩を売ってきた天族の方に一言だけ。
「では、一撃、加えてもいいですか?」
すると、偉そうにしていた天族の方が、
「いえ、とんだ御無礼を申し上げました。平に平にご容赦ください。」
「他に私に喧嘩を売る勇気のある方は、いっらしゃいますか? 特に北西管轄部の方々は、先程の様に集団で精神攻撃をしたようですけど、私如き下賤な輩を集団で相手にしてきてくださっても構わないのですよ。」
すると、北西管轄部の方々が一斉に私の畏怖を感じたのか、謝り始める。
南東管轄部の方々は、驚きが強く何も言葉に出来ない様子。
「私は、北西管轄部の方々に代表される天族やハイ・エルフ、ダークエルフのような長命な種族ではありません。短命で非力な種族であるのは知っております。それだけで下賤な者と迫害されるなど、言語道断です。命は誰しも平等な筈です。この様に力で屈服させるのは、本来、不本意なのですけど…。」
私の一言に誰も何も言えなかった。
それでも、無言で私の畏怖に抗おうとする輩はいる。
しかし、その力は、
「さて、それでも、まだ私を蔑むのならば、もう容赦は致しません。私の
「アニス様、そこまでにして頂けますでしょうか。中央管理局の職員全ての言動の全責任は、私にあります。非があるのは、私の管理不足です。どうかお許しください。」
ミカ様が私に頭を下げる。
カボチャさんを除いた全職員がそれを見て、自身の言動、責任を痛感された様子が感じ取れる。
北西管轄部の方々は、私に対して畏怖を持った様子が感じ取れる。
そして、私に対して、全職員が頭を下げる。
「ミカ様、そして、皆様方も頭を挙げてください。中央管理局の方々が全てに対して、平等でなければ、その下に位置する各管理整備棟で働く職員に対して、的確な指示や公平性は保てません。どうか、そのことをしっかりと考え、責任を持ってお働きください。」
私の一言で、一応、ここでの件は終了する。
ただ、私はこの後、
そんな中、私の心を読んだのか、カボチャさんが一言。
「うーん、さすがは
「まったく、自分を敵にして上手くまとめる所が、ホントに策士に思えますわ。アニスさんのホントに怖い所ね。まぁ、いいわ。ジャック様の言う通り、
「はーい。それでは、ミカ様、皆様、一旦、失礼しますね。」
私は一礼して、中央管理局室を後にする。
この後、私は、どんな処罰をくだされるのか、内心、怖くなってきました。
それでも、私のしたことの責任は、きちんと負わなければならない。
そう思いつつも不安な私なのでありました。
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