第五章 闇の大庭園の使者

第27話 勤勉との喧嘩

ラエル様御一家が大樹の丘ここに来られて、もう少しで5ヶ月目に入ろうとしています。

管理実修では、大きな事件は無く、無事に実修は終了しようとしています。


これから、始まる管理整備実修は、管理整備棟だけではなく、大樹の丘の各整備部でも行われるので、警備が必要になります。

先月の始めに特別管理顧問官より、瑠璃ラピス様がラエル様ご一家の警備の任を命じられており、渋々、了承されております。

しかし、双子の英雄と私だけでは、警備は手薄かもしれません。


前回の研修時、光の大樹ライト・ビッグツリー精霊樹エレメント・ツリーにする際、数百と言う天族の手練れが襲ってくる事件がありました。

私の友達大精霊さん達と双子の英雄によって、事件は無事、収拾したのですが、また何か事件が起こる可能性が充分にあります。なので、警戒は怠れません。

事件に関わった天族は、琉璃ラズリ様の拘束監獄球プリズンボールに収監されています。

収監された天族のほとんどは、何者かに操られていた様子であり、精神操作マインドコントロールは解けているのですが、危険であることは変わりない為、まだ収監されております。


そこで、管理研修が終わる一週間前より、私と瑠璃ラピス様は、光の大庭園ライト・ガーデンの中央管理局にやってきおります。

ルーシェ様には、精霊樹エレメント・ツリーに関する事件を報告し、その対策の為に英雄たる片翼と一緒に来ました。

また、七大魔族筆頭でもあるルーシェ様には、今回、七大魔族の残る4名の手引きの可能性の調査をお願いにも来たのです。


私が出会ったことのある七大魔族は、《傲慢》のルーシェ様、《憤怒》のサタン様、《色欲》のアス姐の3名。

残る《嫉妬》のレヴィ様、《怠惰》のベルフェ様、《強欲》のマモ様、《暴食》のベルゼ様の4名。

それぞれ管理整備官であり、東部、西部、北部、南部の各庭園を任されています。

光の大庭園ライト・ガーデンの七大魔族は、元々、紛争では、各大庭園の守護を主としており、征服を企てた訳では無いので、手引きをするという考えは、殆んど無いと考えられます。


闇の大庭園ナイト・ガーデンの七大天族は、古の紛争で半分が亡くなり、現在、転生し、力に目覚めたばかりの者ばかりということです。

私が知っているのは、七大天族筆頭たる《忠義》のミカ様、《節制》のラファちゃんの二名のみ。

他の《忍耐》、《慈悲》、《勤勉》、《博愛》、《純潔》の5名。

古の紛争時より、生き残り罰を受けたミカ様を含め、《純潔》のガブリール様、《勤勉》のルフォン様が今も闇の大庭園ナイト・ガーデンの各管理整備棟で業務を全うしているとのこと。

転生された《忍耐》のウーリエ様、《慈悲》のサリー様は姉妹として、中央管理局下の元で育成をされており、《博愛》のトロン様は、ラファ様と一緒の上位基礎学校で学ぶご学友であるということ。


手練れの天族を操り、襲撃することが出来るのは、七大天族の後ろ盾が無ければできない。つまり、その血族に的を絞ることも出来るのです。

そして、これだけ大掛かりな規模を手引きするとなると、七大魔族の後ろ盾を考えると早いのですが、これは実質、光の大庭園ライト・ガーデンの裏切りを意味するので、考えるだけ無意味だと思うのですが、用心に越したことはありません。


事前に連絡した結果、七大魔族に裏切りは無く、七大天族の力の可能性が高くみられています。

七大天族に関しては、クラ爺を通して、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局へ事件の内容を知らせてあり、協力体制を取って貰っております。そして、再び、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局から中央管理局長で七大天族筆頭のミカ様と南東部主任管轄管理整備官である《純潔》のガブリ―ル様と北西部主任管轄管理整備官である《勤勉》のルフォン様がお見えになっています。


七大天族のお三方は、私達より先に到着されており、中央管理局の応接室で待っておられました。

応接室の中を見ると、天族の3名とルーシェ様とサタン様がお待ちでした。

中に入ろうとすると天族の方の一人が私に向かって、剣を抜いて、一言。


「人のような下賤なものが来る所ではない、早々に立ち去りなさい。」


いきなり剣を抜かれて、下賤な者扱いされたので、私の機嫌がすごく悪くなり、当然のことですが、喧嘩を買うことにしました。


「あら、人の子が下賤とは、闇の大庭園ナイト・ガーデンでは、さぞ、人の子は蔑まされているのでしょうね。しかし、剣を抜いたのはそちらが先です。何があっても文句はないのですよね?」


「何を仰るのか、下賤なる小娘がこの場で一刀両断して…。」


言葉が終わる前に、私は瞬間的に古式格闘術、対剣術式、竜之型「飛竜」で手にしていた剣を気力を込めた拳で弾き飛ばし、所有者を応接室の床に投げ飛ばし、一撃を加えられる体勢で止めてみました。


「下賤なるもので、大変、申し訳ありません。この程度の相手に負けるはずが無いとでも思いなのでしょうか?とんだ勘違いもいい所ですね。さて、この一撃を喰らいますか?それとも、そこから反撃されますか?」


「不意打ちとは卑怯な…、この場から反撃しても良いのですよ。」


「別に構いませんよ。結果は変わりありませんから。ここが光の大庭園ライト・ガーデンだから、翼を広げてなくても、天力は充分に発揮できるとでも考えておられるのでしょう。でも、『我は願う、この者に闇の衣を纏わせたまえ。』」


「何?この闇の力は、これでは私の力が…。己、貴様、何者。」


「さぁ、下賤なるもの相手でも自ら名乗るのが必定。しかし、貴女の慢心を打ち砕くのには、いい機会なのかもしれませんね。私の名はアニス。光の大庭園ライト・ガーデンの特別管理整備補佐官にして、精霊姫エレメントプリンセスです。さて、周囲は誰も止めようとはしていませんし、一撃、喰らって少し眠っていてください。貴女のお名前は起きてから、お聞きしますわ。」


こうして、笑顔で応えると両眼は精霊眼へと変化し、強大な精霊力を纏った拳を綺麗なお顔の手前で寸止めすると失心されていました。

これで少しは気が晴れたと思いたいのですが、こういう方に限って、また喧嘩を売って来そうなので、心の中が晴れません。


こういう事もあるだろうと、交換研修が始まった最初の一ヶ月の間に母のニナに古式結界術と古式武闘術を毎日、稽古させられていたのです。

幼い頃から古式結界術と古式武闘術は、みっちりと稽古を受けていたので、精霊術が使えずとも自己防衛の手段には困らないのですが、自分より格上の者に対しても、対応できる我が家に伝わる古式術を免許皆伝まで底上げされていたのです。


「さすがはアニス様。これでうちのルフォンも少しは考えを見直すいい機会になったと思います。試すような無礼をお詫びいたします。また、無礼と承知した上で、良い機会を与えてくださり感謝致しますわ。」


「ミカ様、お久しぶりです。しかし、この私への待遇はいかがなものかと存じますが? それにルーシェ様にサタン様も何故、黙ってみていたのですか?」


「いえ、ニナから、もしもアニスに手を出されてきても、精霊姫エレメントプリンセスの力を使わずとも相手を倒せると聞いたので、危険と感じるまで見守っていたのですよ。」


「ルーシェ様同様に、私の方もアル室長より手出し無用と仰られていたので、危険と及び次第、助けに入ろうと思っていたのです。」


「威嚇で剣を抜かれたのは、承知の上で先手必勝の構えで終わらせた次第です。そちらの天族の方にはご迷惑をお掛けしました。」


ミカ様ではない、天族の方に向けて剣を弾き飛ばしたのだから。

手加減した上で弾き飛ばしたので、足元に転がっているのですけどね。


「すごいですわ。あのルフォンちゃんが何もできずに失心してるだなんて…。私の名はガブリ―ルと申します。ガブちゃんと呼んでください。」


瑠璃ラピス様も何で手助けしてくださらないんですか?」


「アニスさんの力を知ってるからに決まってるでしょ。下手に手助けしたら、私まで痛い目に遭うから傍観してただけよ。」


「しかし、流石はアル室長の娘様だけある。華麗で鋭敏な動き、舞を踊ってるかのようでした。」


「そういえば、武闘会を開いた時、私は主催者としてパスしたけど、アルは決勝でサタン君と戦ったのよね。誰もがサタン君優勢だと思ったのにアルが勝って、優勝して大盛り上がりで終わったのが、懐かしいわ…。」


「あのその武闘会ってニナ母さんは出なかったんですか?」


「アル君と戦うの嫌だから、パスって行って私の横で観戦してたわね。」


「ちなみに中央庭園セントラル・ガーデンの武闘会ですよね?」


「えぇ、中央のみの武闘大会よ。半年に一回やってるの。中々に楽しいわよ。無論、武闘会だから命を奪うのは禁止になってますから。あとは武の競技なので、魔術等を放つのは禁止。強化系のみの術なら使用可能って感じかしら。今度、アニス様や瑠璃ラピスも出られませんか?」


「ルーシェ叔母様が出られるのなら、是非、出場したいものですわ。」


「私は遠慮します。」


「なら、武があれば、知もありで、術技会もあるのですけど、命を奪う行為と直接攻撃禁止の魔力、法力、精霊術だけの大会もあるのですけど?」


「ルーシェ叔母様が出られるのなら、是非、出場をしたいですわ。」


「いえ、そちらも遠慮しますわ。」


「あとは、年一回の総合武闘術会ですかね。命を奪う行為は禁止ですが、武術でも魔術でもなんでもありの総合闘技大会が…。」


「ルーシェ叔母様が出るなら、その大会には是非、参加したいですわ。」


「私は遠慮しておきます。それより、闘技大会はいいのです。今回の件を話し合わないとダメですよね。」


光の大庭園ライト・ガーデンでは、色々な大会をされているのですね。闇の大庭園ナイト・ガーデンでも取り入れてみるのもよいかもしれませんね。ガブちゃん。」


「そうね。ミカちゃん。色々と隠れた実力者が出てきそうだし、管理競技や整備競技だけでなく、こういう大会も悪くないですわね。」


とまぁ、話は大幅に脱線をする始末。

ちなみに純粋な武の大会では、お父さんが優勝を数回、純粋な術の大会では、お母さんが優勝を数回しており、総合大会には参加してない様子。

総合大会の優勝者は書かずとも、どちらか2名の内の片方なので、参加して貰いたいようでした。

瑠璃ラピス様は、参加する気が満々でしたけど…。


「しかし、最初の一ヶ月、大分、ニナに稽古を積んで貰った様子ですね。素晴らしい動きでしたわ。」


「いえ、ルーシェ様、これでも幼少期より古式術の鍛錬はしておりました。私がここ最近、精霊術の基礎訓練をメインにしていただけで、日課は熟してましたよ。」


「でも、能力ステータスには記載がされてなかったので、一ヶ月、みっちり稽古を積んで貰ったものとばかり。」


能力ステータス検査チェックは見られたくない項目は、任意で隠せるじゃないですか、それを応用しただけですよ。」


「なるほど、だから、古式術に関する記載がされていなかったということですね。」


「そういうことです。」


私は、最初にして貰った能力ステータス検査チェックの際に、任意で隠せる力は隠しておいたのです。

いろいろと厄介事に巻き込まれた時に面倒になると思ったから…。

純粋な能力ステータスを記載されると武芸一般でもそれなりの強さを持っているので、ひたすらに隠してきたのです。


ちなみに私の純粋な能力ステータスは以下の通りになります。


     アニス:人種 性別:女性 年齢:17歳 

      身長:157㎝ 体重:54㎏ スリーサイズ:B85W57H86

      職種:特別管理整備補佐官(期限付き) 

         一般整備士(大樹の丘所属)

         精霊姫エレメントプリンセス 古式格闘術師範代

一般職種別ランク:整備士B+ 管理官A- 管理整備補佐官A 管理整備官B+

    所持耐性:精神耐性S+ 物理耐性B+ 全属性耐性A 術系耐性A 

         魔力耐性S+ 天力耐性S+ 竜耐性SS 精霊耐性SSS

         (精霊加護時:全所持耐性SSS)

    所持能力:精霊眼(後天性) 

         四大精霊の守護 大精霊の守護(光・闇) 

         高位精霊加護 「光の書」による選定者

         全精霊術 精霊治癒術 精霊強化術 精霊結界術 

         精霊召喚術 精霊使役術 精霊同調エレメンタル・シンクロ

         (心友となりし大精霊及びその全眷属…etc.)

         精霊武技術 精霊格闘術 精霊付与術

         中級治癒術 身体強化術 転移扉移動術

         中級整備術 上級管理術 中級管理整備術

         古式結界術 古式武技術 古式格闘術 古式気功術 縮地法

         読心術 交渉術 観察眼+ 包容力+ 気配同化 

         幸運+ 逆鱗 畏怖++ 気配無効化 

         精霊支配無効化 全精霊攻撃術・封印陣無効化 

         幻惑、魅了等の精神系攻撃無効化 

         畏怖、恐怖、威厳等の心身的な全圧力プレッシャー無効化…etc.


様々な武器を使って戦えるのですが、徒手格闘を得意とする分、気功術も操れます。

武器を使うということは、限りなく他者を傷つけるので、出来る限り武器の使用は控えているのです。


精霊姫エレメントプリンセスになってから、精霊格闘術や武技術を四大の大精霊から稽古を受けてる次第なのです。元々、武闘術を心得はあり、武技術と格闘術に分けて習っていた為、型の問題と精霊との同調だけなので、難なくこなせるので、師でもある四大を超えてしまったのも、問題なのですが…。


古式武闘術を武技術と格闘術と分けて覚えたのは、双方を限りなく、追及することで武闘術を超えると幼い頃に祖父から習ったので、この道を選んだらしいです。幼い頃の記憶なので曖昧なのですけどね。

武闘術は武器を持っても持たなくても、型は一緒であり、武器の長さで相手との距離が変わるので、武技術と格闘術を分けて習うことで、その技の長さを細かく覚えることで、臨機応変に対応できるので、後者は茨の道であれど、習得すれば、武闘を超えると言われているのです。


なので、普通でいることを目指していた私は、極力、目立つ力は、他者の目に触れないように誤魔化していたのは、言うまでもありません。


完全に話は反れてしまいましたが、今は、目下、大樹の丘の出来事を話さなければなりません。


「現在、天族の方々は精神支配マインド・コントロールが解かれ、拘束監獄球プリズンボール内にて収監しております。これはミカ様にお渡ししますね。」


琉璃ラズリ姉様の持ってきた拘束監獄球プリズンボールです。きっとミカ様が、何かの時の為に持たせて置いてくれたのでしょう。感謝しているとのことでした。それと収監されている天族の方々は、中央管理整備室の管理官と整備官と整備士の手練れ揃いでした。幸い、精神支配マインド・コントロール下にあったので、あの惨状を覚えてないことが唯一の救いだと思います。」


瑠璃ラピス様、人を天災扱いにしないでください。」


「まぁ、光の大樹ライト・ビッグツリーに力を分け与える為とはいえ、光と闇、そして四大の精霊が顕現していた所を襲うような愚者でしたから、何とも言えませんが、あの光景は中々、見ることはできませんよ。それに精神支配マインド・コントロールの内容も稚拙なもので、「ラファ」の敬愛するものを闇討ちし、滅ぼせという単純な命令でしたからね。」


「それで、私が狙われたと言う訳です。となると犯人は誰になるのでしょうか?」


「そうなると、七大天族の力を持っており、ラファ様に近い者となるとトロン様でしょうね。ということは力に目覚め、それを隠しているということになりますわね。」


「トロン君、ラファちゃんに確か片思いを寄せてるからね。」


「私、そんな幼稚な嫉妬で殺されかけそうになったのですか?」


「『博愛』の力を無駄に使えば、そういうことになりますわね。」


思った通りの幼き力が暴走した片思いとなってしまったみたいなのは、確定ですね。

そうなると、やっぱり直にお仕置きをしないとダメですよね。

トロン君のご両親には、迷惑を掛けるのは承知の上ですけど、例え、幼き子でも、揮った力の代償は必要でしょう。


「やはり、お仕置きが必要なようですね。ルーシェ様、二日程、休暇を頂けないでしょうか?」


「別に二日程度なら、研修に問題はありませんし、特別管理顧問官の了承を得ているのなら、構いませんが…まさか。」


「ありがとうございます。それでは、ミカ様。二日程、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局の見学に行かせて貰って宜しいでしょうか?」


「なるほど、トロン君に直にお仕置きをしたいということですね。私は別に構わないのですが、闇の特別管理顧問官の了承を得なければなりませんので、お待ちいただけないでしょうか?」


「いえ、そちらの方もすでにフォンセ様より了承を得ておりますので、問題はありません。」


瑠璃ラピス、既にもうここまでの手筈を取って、中央管理局ここまで来たの?」


「そうですよ。ルーシェ叔母様。琉璃ラズリ姉様とラエルご夫妻から身辺調査をして、該当者に目星をつけてクラ爺に直接、交渉してから、フォンセ様の了承まで貰ってから、ここに来たのですから…。」


「いや、待って。これは、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局の不手際であり、アニス殿がこちらに来る必要はないわ。戻り次第、即刻、トロンの両親の首を刎ね、トロンには永久禁固刑に処せばよいこと。」


「ルフォン様、それは正気で言っておられるのですか?」


気付いたルフォン様の第一声を聞き、私の中の何かに触れようとしている。

ルーシェ様は、逸早く私の異変に気付き、ミカ様に叫ばれる。


「ミカ、ルフォン殿に即刻、謝らせなさい。アニス様の逆鱗に触れようとしている。」


「えっ、はい。ルフォン、今の言葉を撤回なさい。今すぐに長官として七大天族筆頭としての命です。」


「お断りします。子供の躾すら出来ないようなものの首が飛ぶのは当然のこと。ましてや、大庭園間の問題に発展しているのです。そして、七大天族の力に目覚めながらも隠しているような輩に弁明の余地などありません。」


この言葉で、私の中の何かに微かに触れたのは覚えている。

そして、ルーシェ様と瑠璃ラピス様は、手遅れだと気づかれたようでした。

サタン様とミカ様も何となく気付かれた様子ではありましたが…。


「ルフォン様、自らを選ばれし者の如き、言い振る舞いは良いとは思えません。しかも、両親の首を刎ねるとはどういう了見ですか?トロン君の両親は聞けば、一般の下位天族の方々で、産まれた子が七大天族の恩恵を受けただけではありませんか。それに子供が力の制御を無意識化でやってのける場合もあり、力の使い方は、徹底して教え込まれていると聞いております。それを躾をできないなどと軽々しく言うとは、論外です。」


「アニス殿、しかし、これは、れっきとした重罪ですわ。子が負えない罰を親が負うのは当然では…。」


「ならば、子供の首を刎ねるのが筋でしょう。この件に親は関係ない。子が負えない罰などどこにもない。」


「それでは、再び揃った七大天族の拮抗が…。」


「そんなことは、この件には関係ないです。それともルフォン様が、トロン君に変わり、この罪を被りますか?」


「それは、私には関係ないことではないか、同じ七大天族であろうと罪を犯したのは私ではないわ。」


「ならば、下手な横入れをするのは止して頂きたいものですわ。」


「しかし…。」


「まだ、私が抑えてるのがわかりませんか?ルフォン様?これ以上の問答を続けるのなら、実力行使に入りますよ。」


「実力行使とは、これはまた物騒なことを言いなさる。ここは穏便に事を済ませようではありませんか。」


「私、先程から貴女様の上から言い方などに実は怒っていますの。これ以上、口を出すのであれば、問答無用で実力行使に入ります。これが最後の忠告です。」


「小娘が、少し下手に出て居れば、色々とほざきおって、ならば、実力行使とやらに出てみるがよい。」


「ルーシェ様、ミカ様、部屋を汚す無礼、失礼致します。」


抑えていた何かに触れると心の中で盛大に激昂することに…、その後は、ルフォン様を叩きのめすことになりました。


「ルフォン様、本気羽根をお出しなさい。躊躇していると私如き下賤な者にやられますよ。」


「小娘が貴様が如きに私の高貴な羽根を見せるのも烏滸がましいが、特別に見せてあげましょう。そして、その身をもって後悔するとよい。」


ため息交じりで、ルーシェ様とミカ様が大規模多重空間結界を張ってくださり、外部への影響を無としてくれている。

大規模多重結界内とは言え、光の大庭園ライト・ガーデンである為、天族の力は、最大限に出せるのは確かなことなので、私に勝てると思うのは当たり前のことなのだろう。しかも、相手は七大天族のお一人なのだから。

でも、私には、全く持って関係のない話である。七大天族であろうと誰であろうと私は私の道を貫き通すのみ。


天剣術師ソードマスターであり、大天力師フォースマスターである私の力を見せてあげましょう。喰らいなさい。『光力ライトフォース千雨突サウザウンドレインストライク!』」


「古式格闘術、守之型『豪壁』+二之型戒『光竜』」


片腕で千本の雨のような繊細な突きを全て防ぎつつ、千本目の突きの瞬間を狙ったように光竜が走り抜けるかのように剣を弾き飛ばし、剣を持っていた腕を噛み砕くが如く一撃が入る。古式気功術を纏った突きであり、相手の気を阻害する為、天力での回復をも阻害するのである。


「己、ならば、『闇力ダークフォース獄寒陣コールドプリズン』」


「我は願う。闇の精霊よ。我に仇成す力を主が元へ返したまえ。」


私は、そのまま闇の精霊に願い、力をそのまま主に返す。

すると、自ら生み出した闇の力と極寒の表土に囲まれた陣に飲まれる。


「さて、そろそろ攻撃に…いえ、これは、最大限で防御しないと。護之型『防人』」


光と闇の膨大な力が一筋の巨大な閃光となって、私を貫こうと目掛けてくる。

『防人』の力で辛うじて防げたけど、タイミングが悪かったら、大ダメージだったわ。


「ふん、カンのいい小娘ね。私の最大級の一撃の一つを防ぐなんて、特別管理整備補佐官っていうのも嘘じゃないようね。」


「『勤勉』のルフォン様、先に失礼をお詫びします。どうかお許しを。そして、敗北という名を永劫に誉に思うとよいですわ。」


私は、一言つぶやき、古式格闘術秘奥義にして禁忌、零之型 無式『型無』を放つ。

私とルフォン様の周囲が闇に一瞬にして飲まれる。

光が差した次の瞬間、ルフォン様を形成していた形が一部を残して無くなり、無残にも倒れ伏す。

本来、手加減しなければ、全て型無になる。

無論、手加減はしてあるので、三日も光の大庭園ライト・ガーデンで休養すれば、完治するでしょう。

この技は、古式気功術相手の気を阻害し、核や骨と型を成すモノ全てを無しにするという技であり、禁忌の技でもあり、私にしか使えない。

これは両親から教わったのではなく、生前に祖父が一度だけ見せてくれた一子相伝の技みたい…。


この技を使った理由は二つ、これ以上、大規模多重結界を張っていると誰かに気付かれる可能性がある為。もう一つは己の誇りに欠けて、自己犠牲の技を使う可能性があり、その場合、中央庭園セントラル・ガーデンの消滅の危険性も含まれたので、放ったのです。


縮地法で距離を一気に縮めて、相手を形成している中央の気を崩して、型の中心から破壊する大技なのです。

闇の大精霊の力で、何が起こったのか把握できた者は居ないはず…。そして、技を受けた本人も何が起こったのかわからない。

そして、私は禁忌でもある技を使ったので、当分の間、この技は使えないし、古式気功術はまともに使えない状態になります。

相手の気を阻害して崩すのに中央の強大な気を崩すのには、自らの気を崩さないといけないので…。だから、当分、気功術は使えないのです。


「勝者、アニス様。ガブちゃん、ルフォンちゃんに治癒術を。ルーシェ様、救護室をお借りいたしますね。」


「えぇ、いいわ。それとこの件に関しては、口外無用でここだけの話でいいわね。」


「はい。そうして頂けると大変、助かります。」


瑠璃ラピス、一応、案内をお願いしますね。」


「はいはい。わかりました。」


そういうと、大規模多重空間結界が解かれ、瑠璃ラピス様達は、中央管理局内の救護室へとルフォン様を『神聖天光治癒術ホーリーライト・ヒーリング』で包み込みながら護送されていきました。


「それにしても、ルーシェ様。アニス様のあの強さは、本当に人の子なのでしょうか?七大天族のしかも『勤勉』を倒してしまうとは。」


「サタン君は、言える立場では無いでしょ。古式術の使い手だったことに驚きはしなかったけど、まさか、正直、あそこまでの手練れだとは思ってなかったわ。」


「ご両親以上の使い手ということでしょうか?」


「いえ、使い手というのであれば、アルの方が上ね。ただ、一子相伝の技を受け継いでいることは知らないんじゃないかしら?」


「ご報告した方がよいのでしょうか?」


「これは家族の問題だから、私達が口出しするのは止めておきましょう。とりあえず、アニス様と瑠璃ラピス闇の大庭園ナイト・ガーデンへ行く準備を早急に進めます。アルとニナには、黙っておくように。」


「了解いたしました。ルーシェ様。」


両親に祖父から習った技がバレなくて良かったけど、少しやりすぎたかしら。

まぁ、でも、首を刎ねるなんて、物騒なことを言い出すんだもん。あんなことされたら、心に大きな傷が出来るだけじゃ済まないわ。

それだけは、絶対に許せなかったから、本当に私の逆鱗に触れてしまったみたいだわ。

最近、短気になってるのかしら?もう少し気をつけないと。


「ところで、私の処罰は、どうしますか?ルーシェ様。」


「そうね。喧嘩をしたアニス様には、罰として、闇の大庭園ナイト・ガーデンで事件を解決してくることと行くまでの間、ここで反省していてください。それとお怪我の治療は致しません。」


こうして、『勤勉』のルフォン様との喧嘩に勝った私は、二日間だけ、闇の大庭園ナイト・ガーデンの中央管理局へ事件解決と言うお仕置きの名目で行くことが決定したのでありました。

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