第四章 天族の長期研修(前編)
第16話 中央庭園へ
本日から
その為、
最初の一ヶ月はお母さんが大樹の丘に残り、研修状況の確認等の作業を行い、最後の一ヶ月は、ルーシェ様が私と共に行動をされることになります。
ルーシェ様と両親共に、中央管理局及び中央管理室を6ヶ月の長期間空けることは出来ないので、お父さんだけ完全帰宅となりました。
当初の一ヶ月は、ルーシェ様が大樹の丘に残り、研修状況の確認等の作業で残る予定だったので、お母さんがルーシェ様に最初一ヶ月だけ交代するように申請をしていたのですが、長官権限で一度は却下となりました。
しかし、、最初の一ヶ月目からルーシェ様に振り回される可能性があるので、お母さんを中央管理局主任として、私の補佐に付いてもらうように私の権限で可能としました。ルーシェ様が私に向かって、「その権限の使い方は、ズルい!」って言っておられたのは気のせいではありません。
と言う訳で、お母さんだけ一ヶ月間、大樹の丘へと単身赴任という形になり、大樹の丘の職員用地下寮を借りることになりました。
「一ヶ月だけなんだから、アニスと一緒の部屋がいい!」と駄々を捏ねてきましたが、部屋が狭くなるのと仕事と母親と私個人のプライベートは別にしたいので、寮母さんにお願いして新しい部屋を用意して貰ったのは言うまでもありませんが、なぜか、私の隣の部屋になってました。
確かに私の隣の部屋は空いていたので、気を使ってくれたのか、根回しをしたのかは知る由もありません。
ちなみに私の部屋は、角部屋なので、多少、広く使い勝手がいいのは、昨年、所属した際、初めての人の子として特別扱いされたのが原因だと思われます。今となっては、いい思い出の一つになっていますが…。
お父さんだけ、中央地下都市に戻るのですが、我が家は皆、家事全般が出来る家族なので、お父さん一人でも問題ないのは言うまでもありません。
不倫の心配もする必要すらないのは、時折、娘の前でも見せるバカップル振りがあるので、全く持って問題ありません。
ちなみに両親ともに娘の私が言うのも何ですが、美男美女で仕事も出来て、部下の面倒見もいいとのことらしく理想の上司そのものらしいです。
職場の方々にモテるのは当たり前みたいで、毎年、バレンタインやホワイトデーには、大量のチョコレートとクッキーがやってきます。
両親もお互い、前日にしっかりと準備をして、手作りで異性の職員全員に配るものだから、毎年の我が家の謎の恒例行事の一端が判明した次第なのであります。
まぁ、情報源は、ルーシェ様なんですけど…。
私がこの丘に来た際、
大樹の丘に戻る時に
精霊力と言うのは、簡単に説明すると、精霊さんに力を貸したり借りたりするときに使う力。精神力ともちょっとだけ違って、精霊を友にするものならば、誰でも持っている力のことって、レイティア様に教えて貰ったっけ…。
さて、大樹の丘から中央地下都市にやってきたのは、私と上位管理官のレイティア様、管理補佐官のシャイン様、整備官のアス姐の4名。
アス姐は、中央に行くことを最初は嫌がったのですが、整備官としての立場と半日に満たない滞在予定だったので、渋々、来てくれました。
レイティア様は、立場上、来ることは当たり前なので、普通に来られてます。
本来ならば、大樹の丘に管理官が着任されたので、管理補佐官であるシャイン様は留守番になるのですが、「偶には中央に行って来い。」とクラ爺からのお達しで、留守番にならずに来ることになったのです。
レムちゃんとシェイド君も大樹の丘で留守番をしています。何かあったら、
瑠璃様は、大樹の丘の地下基礎学校で講義があるので、お留守番です。
つまり、
その
私が庭園整備学校の学内講習で習ったのみの知識であり、地上での実地研修は
今考えると、両親が中央庭園での役職を私に知られたくなかった為に勧めたんだと思います。まぁ、それはそうですよね。上から二番目と三番目の役職に就いてるなんて知ったら、驚きを超えてしまいますよ。実際、数日前に知ったことなので、その時も驚きを超えてましたから…。
中央地下都市に着いてから、地上への
職員通用口から中に入りました。中級
私達は大樹の丘から来たので、顔パスで入る訳には行かず、大樹の丘の職員証を見せて、中に入ります。シャイン様とアス姐は問題なかったんだけど、私だけ、やっぱり止められる。それもそうだろう。特別管理整備補佐官の職員証なんて、ここ数百年発行されてないから、怪しまれて当然。しかし、すぐにルーシェ様が戻って来られ、正真正銘の職員証であること等を説明するとすんなり通して貰えました。私に向かって、すごく申し訳なさそうに何度も謝ってくれたけど、両親のこともバラしたんじゃないのかな…。そうじゃなきゃ、あの謝り方は尋常じゃないと思う。
まぁ、人の子でこの地位だからね。今日、こちらに来る天族の方々も驚かれるんだろうなぁ~って、今更、考えてみる。まぁ、なるようにしかならないから、考えても仕方ないことのなのよね。
「中央のお三方、ついでにレイティア様、いつも通りみたく顔パスで入って行かないでください。私達というよりも私がすごく困るんですから。」
「ゴメンなさい、アニス様。すっかり忘れて、いつも通りに入ってしまったのよ。ちなみに私達をまとめて呼称するのは、止めてください。とりあえず、軽く庭園を見てから、管理局の方へ行きましょうか。」
うん、これはすごく嫌な予感しかしないのは、きっと気のせいじゃないよね…。
「お待ちしておりました。アル室長。中央管理整備室所属の管理者及び整備士全員、広場に集合済みであります。」
体格のいい上級
「あれ? なんで集合してるの? 私は何も指示してないけど…。」
「いえ、大樹の丘より特別管理整備補佐官殿がいらっしゃるということで、臨時朝礼があるかと思いまして、整列して待機しておりました。」
「臨時朝礼をする予定は無いよ。特別管理整備補佐官様に要らぬ迷惑をかけるべきではないからね。今回、中央管理整備室では、君の紹介だけだったんだけど。」
「はっ、それは大変、失礼しました。しかし、もう皆、特別管理整備補佐官殿がどのような方なのかを楽しみにされており、どうか一言でいいので、挨拶だけでもして頂けないでしょうか?」
「今回の研修は、大樹の丘で行われるのだよ。中央管理整備室で出迎えをするのではなく、大樹の丘から上位管理官殿たちが、こちらに見えて出迎えを行うのであり、私達がそこに出しゃばるのは、失礼に値するだろう。それ加えて、臨時朝礼までして、特別管理整備補佐官様に挨拶までさせるとならば、中央管理整備室の汚点になるのでは無いのかな?」
「はい。アル様の言う通りです。今回は中央の研修では無く、大樹の丘での研修でありました。それに大樹の丘の上位管理官殿達も来られてる中、大変、失礼なことをしでかしてしまい申し訳ありません。全責任は、全てこのサタンにあります。どうかお許しください。」
「アル、そこまでにしてあげなさい。サタン君も気を利かしたつもりだったんだろう。まぁ、確かにこれはやりすぎだけどね。」
「ルーシェ様、それにニナ様も、ご一緒のお戻りでしたか、大変、失礼致しました。」
「サタン君、うちの旦那を少し怒らせるなんて、怖いことするわね。極刑じゃ済まないかもしれないわよ。」
んーっ、サタン様って何かの授業で習った名前だな。なんだっけ…。あっ、そうだ、七大魔族の頂点に立っていた方の名前だっけ。
サタン様に熱心な尊敬を抱いている講師の先生が居て、熱く語っていたのよね。テストでも憤怒の称号問題があったから、記憶の片隅にしっかりと残っていたのよね。まさか、実際に会えるとは思ってなかったけど。確かに先生が言ってたように身体も大きくて、どこか尊大な感じはするけど、魔力はしっかり抑えられているみたい。
それで、この集まりは、中央管理整備室の方々が全員揃ってるのかしら?
人数の規模的は、
ちょっとだけ、その点は羨ましいかな…なんてね。去年の私だったらそう思ってたかもしれないけど、今は違う。
皆、種族関係なしに平等に扱ってくれるから、今は大好きだから、羨ましいなんて思わない。
「アニス様、どうしましょう。中央管理室室長補佐のサタン君が臨時朝礼をするものだと思って集めてしまったみたいですが…。」
これは、仕方ないわよね。集めておいて解散させたら、サタン様の面子に泥をかぶせるのも可哀想だし、どうせ、最後の一ヶ月に廻るんだから、今、挨拶しておいても損は無いでしょ。
でも、あとでルーシェ様に言って、最後の一ヶ月の際、中央も含めて、他の庭園でも、絶対に臨時朝礼は開かないように釘を刺しておかないと。
「はぁ~、もういいですよ。仕方ないですし、挨拶しますよ。」
「小娘が、ルーシェ様達に何という口の利き方をされているのだ。私は特別管理整備補佐官殿に挨拶をしてもらいたいのだ。貴様のような小娘が挨拶する必要はない。」
「おーい、サタン君、その小娘呼ばわりしててる方が、特別管理整備補佐官のアニス様だよ。」
「サタン様、口の悪い小娘で大変、失礼致しました。挨拶が遅れ、大変、申し訳ありません。特別管理顧問官から特別管理整備補佐官の任を拝命致しましたアニスと申します。以後、お見知りおきを戴ければ幸いです。では、皆様方のお仕事に差し支えないように早々に臨時朝礼を始めていかがでしょうか。」
見かけで判断して小娘呼ばわりされたのは、久しぶりだったので、ちょっとだけ怒ってしまった。
まだまだ私もお子様だな。小娘扱いされても、仕方ないか。
ほら、やっぱり、一緒に来た皆がちょっとだけ怖がってる。私の畏怖ってそんなに強力なのかな?
あれ? サタン様の反応が無い。もしかして、立ったまま気絶してる?
「おーい、サタン君、大丈夫かい? おーい。あら? 珍しいね、立ったまま気絶してるよ。アニス様やりすぎですよ。」
「いえ、ルーシェ様、丁重に挨拶したつもりだったんですが、やっぱり少し怒ったのが出てましたよね…。反省してます。この畏怖のコントロールって難しいですね。」
私の畏怖に対して、一緒に来た皆は、多少の抵抗力は持ってるけど、まったく抵抗力の無い方には、効果覿面なんだよね…。
これのコントロールをどうにかしないとダメかなぁ~。それとも最近、怒りっぽくなってるのかな。
「別にアニス様が悪い訳では無いんですけどね。まぁ、確かに
「そうだ、お父さん、皆、集まってくれてるんでしょ。臨時朝礼を始めてあげて。私も簡単な挨拶はするから。」
「すまないな、アニス。では、先に行って、朝礼を始めますので、皆様、後から来てくださいね。」
そういって、お父さんは颯爽と広場に行き、臨時朝礼を開始する。
こういう時も相変わらず、我が父にして、カッコいいと思う。そして、母も堂々と惚気るのは流石だと思う。
「うーん、こういう時でも颯爽と行く貴方が素敵だわ。」
「もう、お母さん、皆の前で堂々と惚気ないでください。一応、もう職場なんでしょ。」
「そうだったわ。公私の場はわきまえないと。」
「ルーシェ様、じゃあ、私達、朝礼の方に行ってますね。サタン様のこと、宜しくお願いしますね。」
「えぇ、任されたわ。すぐに行くと思うから、朝礼で軽く挨拶してね。管理局は来ること知ってるし、数も少ないから問題ないわよ。」
「管理局での挨拶は、覚悟しておいたので、別に問題ないですよ。」
ルーシェ様と立ったまま気絶されているサタン様を置いて、臨時朝礼が行われている広場にゆっくり向かう。
急ぐ必要は無いし、ここの庭園の風景を少しは見ていきたいからね。
大樹の丘は、風景式庭園だから、この
丁度、私達が大広場に入って来たタイミングを見計らって、お父さんから紹介される。
「では、本日、特別に大樹の丘から来てくださった方々、全員に挨拶をして頂きたいところですが、代表して特別管理整備補佐官のアニス様より挨拶をして頂きます。それでは、アニス様、宜しくお願い致します。」
一応、大樹の丘から来た面々全員が、広場で集まってる中央庭園の職員の方々の前の階段の一段上に上がって並び、私が代表して挨拶をしようと一歩前に出る。
すると、中央庭園の職員の方々が一瞬、ざわめき、中央管理室長の咳払いで、すぐに静かになり、私は挨拶を始めます。
「えーっと、皆様、おはようございます。この度、特別管理顧問官より特別管理整備補佐官の任をお受けいたしました大樹の丘所属のアニスと申します。皆様、驚かれているかと思われますが、ご覧の通り、人の子でまだ年は17歳の小娘であります。大樹の丘にて、整備士業務を主として参りました。私は人の子なので、整備業務では、友である精霊に手伝って貰っており、難しい箇所や困難な場所は、他の皆様に手伝って頂いておりました。若輩者の私がこのような大役を仰せつかったのも何かの縁だと思います。
挨拶の始めから終わりまで、私に悪戯しようと精神系の魔術や法術等を放たれた感じが数回したけど、私には
「私の挨拶中に無礼を働いた方には、罰が当たったようですね。では、これで失礼致します。」
私は、一歩下がり、中央管理室長たるお父さんにバトンタッチする。
「今、吹き飛ばされた者達は、本来、厳罰となる所ですが、今の軽い罰で済んだことを特別管理整備補佐官殿に感謝するようにしてください。以上で、これで本日の臨時朝礼を終了とします。各自、持ち場に戻ってください。それでは解散です。」
上空に吹き飛んだ方々に笑顔を向けたのは、無論、私への畏怖を与える為であり、充分な厳罰なので問題は無いでしょう。
レイティア様は、苦笑しており、シャイン様はポカーンとしていて、アス姐は大笑いしてました。
お母さんは、お父さんだけを見ていたのは、言うことは何もありません。
後方で、気が付いたサタン様とルーシェ様は、私が取った対処を見ていたようで、サタン様は唖然としており、ルーシェ様もアス姐同様に大笑いしていました。
「お父さん、さっき飛んだ方々に罰を与えたら、ホントにダメだよ。充分な罰は、私が与えましたからね。」
「わかってるよ。アニス。でも、謝罪の機会は、無論、くれるんだろうね。」
「えぇ、それは当たり前ですよ。謝罪の機会が無ければ、また怖い目に会うと思うかもしれませんからね。」
「ありがとう。あとで吹き飛んだ11名の職員全員には、伝えておくよ。」
臨時朝礼後、私と少しの会話を終えるとお父さんは、中央管理室の方に戻っていきました。
そして、ルーシェ様とサタン様が、私の所へやってきました。
さっきの対処がとても愉快だったようで、ルーシェ様はにこやかにしていて、サタン様は、まだ少し信じられてない様子がみられる。
「先程の処罰は見事でしたわ。アニス様なら無視するかと思ってたのですが、まさか、あのような方法を使われるとは思ってまみせんでした。とても愉快でしたわ。さすがは、
「さすがに無視するのも何ですしね。私がわざと無防備な状態で前に出て、挨拶をしている中、悪戯をするのですから、違った意味で勇気ある行動だと思いますよ。」
「確かにそうね。特別管理整備補佐官という役職の重さとそれを担う者が単に普通の人の子である訳がありませんからね。」
「ルーシェ様、何度も言いますが、私は普通に人の子ですよ。ただ、精霊さんと仲がいいだけですから。」
「アニス様、ちなみに管理局で、もし同じことされたら、次は何をしようとお考えですか?」
「えーっと、うーん。室内なので、闇の精霊さんに頼んで、影の中へ沈んで貰おうかと考えてみましたけど。でも、まさか中央管理局の方が悪戯をされるとは思ってませんので、安心しているつもりですよ。」
「中央管理局の職員が悪戯しようものなら、左遷では済みませんから、皆、決して何もしないと私は信じておりますわ。しかし、次の処罰は、かなりの厳罰かと思いますけど…。」
「えぇ、だから、勇気のある方をお待ちしております。ちなみにもしも私が悪戯されたら、私が行う処罰のみで終わりで宜しくお願いしますね。」
「わかりました。一応、私だけ…いえ、ニナと一足先に戻っても宜しいでしょうか?」
「えぇ、管理局まで、レイティア様に案内してもらうので、大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。ニナ、先に管理局に戻るわよ。」
そう言うとお母さんの有無も聞かず、ルーシェ様が
サタン様は私とルーシェ様のやり取りを聴いていて、ようやく信じられた様子がみられる。
「えーっと、サタン様、先程は失礼しました。少しだけ怒ってしまい、無意識にやってしまったみたいで大変申し訳ございません。」
「いえいえ、こちらも見た目だけで判断し、軽率でした。大変、申し訳ありません。アニス様。ところで先程、室長のことをお父さんと呼んでおられたようですが?」
「サタン様は、とてもお耳がいいのですね。えぇ、私は中央管理整備室長の娘です。」
「それは重ねて失礼いたしました。改めて、私は中央管理室、室長補佐のサタンと申します。以後、お見知りおきを。」
「サタン様、一応、私も公私の分別はしっかりとつけているつもりです。なので、両親はこの件に関しては、全く関係ないですし、私も両親が中央管理室の室長であること、中央管理局の主任であることは、知らなかったので、その点に関しては謝る必要はありません。それとこの特別管理整備補佐官職に関しても、特別管理顧問官が独自で決めたことで両親は関係ありませんので、その点も留意して頂けるとありがたいです。」
私がそう言うと、サタン様、また謝ろうとしたようで、それ以上の言葉が出ず、しどろもどろし始めたところにアス姐が声をかけてくれる。
「サタン君、アニスちゃんはホントにご両親のことを知らなかったみたいだから、あんまりしつこく言わない方がいいわよ。」
「おお、アスじゃないか、ついに中央に戻ってくることになったのか?」
「いいえ、残念でした。私は今は、大樹の丘所属、管理整備棟の整備官よ。今日は、出迎えで
「そうなのか、整備官って、アス、お前、管理整備官の資格を持ってるではないか。」
「だから、管理はしたくないから、単なる整備官なのよ。管理までしてたら整備の仕事に没頭できないでしょ。そんな気持ち良くないことはしたくないの。」
「そうか、でも相変わらずのようで何よりだ。時間が合ったら、また飲もうではないか。」
「えぇ、いいわよ。但し、サタン君の奢りでね。」
「ホントに相変わらずだな。いいぞ、私の奢りで飲みに誘ってやる。」
お二人は普通に仲が良いのかしら? 昔からの知り合いで間違いはないと思うけど。
そういえば、お二方とも七大魔族の方々でしたね。そう思うと知っていて、当たり前よね。
「サタン様はアス姐ともお知り合いなのですか?」
「はい。私もアスも管理整備研修の同期であり、過去の争いでは悪友でもありました。」
「サタン君、大昔のことは秘密でいいんじゃない。あまり言葉が過ぎるとルーちゃんが怒るわよ。」
「お話にならなくても、大丈夫ですよ。一応、「
「それは、もしかして「光の書」ですか? なぜ、それをアニス様がお持ちになられて…いえ、これ以上、聞くのは不要ですね。アニス様ががその書に選ばれた存在なのですから。でも、もしも私を知りたいのであれば、私に聞いていただきたい。」
「えぇ、そのつもりですよ。私も勝手にプライベートなことを読むようなことはしませんから。今は特に大丈夫ですよ。憤怒の方を怒らせるほど、私も愚かではありませんよ。」
「そのことは、どこでお知りになったのですか?」
「えーっと、庭園整備学校の授業で習いましたよ。七大魔族と呼ばれる上級魔族の方々よりも強大な力を持つ7つの眷属。その内のお一人であるサタン様のことを熱心に語っていた授業があったので、覚えていたのですよ。」
「その講師の名前を覚えておられますか?是非、知りたいのですが…。」
「すみません、あいにく、その講師の先生の名前を憶えていないんです。ただ、私が出た庭園整備学校は、この中央地下都市ですので、もしかしたら、サタン様の御知り合いではないでしょうか?」
「ありがとうございます。アニス様。そのことだけわかれば充分です。」
「では、サタン様、私達は中央管理局の方へ向かいますので、ここで失礼いたしますね。」
「わかりました。後程、お時間があれば、中央管理室の方にもお寄りください。」
こうして、私達は、サタン様と別れて、中央管理局へと向かいました。
水晶の大階段を登っていき、
何とも言えない神秘的な宮殿です。
「これが
「えぇ、太陽の光によって、光輝き煌く宮殿だから、単純に
「では、レイティア様、ここから中央官局まで案内をお願いします。」
「わかったわ。アニス。アス姐にシャインも私に付いてきてね。」
「「はーい。」」
宮殿内をレイティア様の後に付いて歩いていく。
宮殿内は、厳かな雰囲気であり、神秘的な力に包み込まれているような感覚になる。
ここで働くとなると、これに慣れないといけないのね。
内部は、主だった絵画とかは無く、真っ白な壁や柱に彫刻がされており、とても美しい。
入り口からそのまま真っ直ぐに進んで行き、大広間に出て、そのまま二階への階段を上がっていく。
一階部分が中央管理室であり、二階部分に共有の大会議場、小会議場、図書室、大食堂、倉庫などがあり、三階部分が中央管理局に当たるとのこと。
三階の中央管理局は、質素な感じであり、厳かな雰囲気を感じさせないのが、特徴的で、階を上がるごとに厳かな雰囲気が消えていく感じがしたのが、とても不思議だったとしか言えない私がいました。
中央管理局室の扉の前にルーシェ様とお母さんが待っていました。
「アニス様、こちらが中央管理局室になります。レイちゃん、案内ご苦労様。」
「いえ、
「それでは、室中を案内といっても、管理局員が普通に業務をしているだけですので、見て頂ければわかりますよ。」
そう言われて、室内に入ると大樹の丘の管理整備部と同じ様な作りで、普通に局員の皆さんがお仕事をされていた。
すると、お母さんが業務中に局員に向けて、話を始める。
「はい、皆、お仕事の手を一旦止めて。大樹の丘の管理整備部からお客様方が見えました。代表して特別管理整備補佐官のアニス様から一言、挨拶を戴きますのでよく聴くように。」
そう言うと業務中の管理局員皆様の手が止まり、視線が私に集中する。
「えーっと、ご紹介にあずかりました。大樹の丘より参りました特別管理整備補佐官のアニスと申します。皆様のお仕事の手を止めてしまい、申し訳ありません。御覧の通り、人の子であり主任のニナは私の母であります。また若輩者でありますが、以後、お見知り置きをお願い致します。」
「あら、先に言われちゃったわね。アニスは私の娘よ。あとは、先程話した通り、私はこれから一ヶ月の間、大樹の丘でアニス様の補佐を中央管理局代表として赴きます。ルーシェ局長は残るので、業務で何かあった際は局長に報告するように。では、業務を再開してください。」
そう言うと、皆、普通に業務へ戻られる。
さすがは管理局員の方々だわ。業務に集中されている。私の挨拶にもしっかり耳を傾けて聴いてくれてた。
認められているのか、どうかわからないけど、好奇の目で見られる感じもしなかったし。
「では、私の部屋の方に行きましょうか。」
ルーシェ様の局長室に迎えられる。
管理局室と局長室は、隣り同士で室内からも行けるようになっているので、室内扉を開いて隣りの局長室へ。
局長室は、思った以上に質素な作りになっていて、驚いてしまった。
「別にお仕事するだけなんだから、豪華にする必要性は無いわ。でも、その代わり、応接室は豪華になってるわよ。まぁ、部屋の話はいいとして、ニナ、貴女には一ヶ月の間、大樹の丘でアニス様の補佐に改めて、任じます。」
「はい、補佐の任、しっかり務めさせていただきます。それでは、午後に
「アニス様も色々とお疲れでしょうから、お昼まで各自、自由行動ということにしましょう。お昼になったら二階の大食堂に集まってくださいね。では、解散。」
ルーシェ様の一言で、解散となりました。
この後、どうしようかな。正午まで一時間半位の時間があるし、何して過ごそうかな?
そうだ、臨時朝礼の件もあるし、中央管理室に行ってみようっと。
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