神々の庭園 ~光の大庭園~
永久乃刹那
第一章 新米整備士のとある一日
第1話 始まりの朝
遥か昔から伝わる一つのお伽話があります。
神様が願いを一つだけ叶えてくれるというお話。
願いを叶えるためには、一つの作品に願い、その想いを形にしないといけない。
そして、その願いを叶える為には、品評会で一位にならないといけないという。
一位になった作品を神様に献上し、それを元に願いが叶えられると言われている。
全ての大庭園に住む誰しもが、聞いたことのある本当のお伽話。
私は、このお伽話が大好きなんです。
いつか叶えたい夢が出来た時に、絶対に参加するんだって…。
私自身の努力で叶えられる夢もあるけど、いつか絶対に私の努力だけでは、叶えられない大きな夢がきっとできるはず。
だから、その時は、私の想いを形にし、品評会に参加して一位になって、夢を叶えて貰うんだって。
幼い頃からずっと思ってたんです。
ここは、神々の庭園と呼ばれる場所。
神々が作り出したと言われる6つの庭園の一つ、
私の名前はアニス。ここ光の庭園に暮らす平凡な人の子。
この庭園は、一年中、白夜なので、一部の種族は昼夜という存在が大切な為、地下で夜を過ごし、日中に地上で整備をするのが基本なんです。
地下都市は、
住宅街や生活に必要な商店街、知識や技術を学ぶ為の学校等があって、とっても広い一つの地下都市なんです。
私は、両親共に庭園整備士で誇りに思ってるの。あと夢で見た特別な景色を作りたい気持ちがあったの。
それで、私も整備士になりたくて、基礎学校を卒業して、庭園整備学校に進学。地上の庭園整備に関して、学ぶ学校なんだけど、人の子は少なくて、他種族の子が多かったけど、楽しかった素敵な思い出。
卒業直前にどこの庭園に配属されるか決まるんだけど、私は大樹の丘への配属が決まって、卒業後は寮生活をすることになったの。
大樹の丘は、この中央地下都市から
人の子が配属されるのは極めて稀なことらしくて、両親に話したら、すごく驚いてたのと同時に凄く喜んでたから、きっと素敵な庭園なんだろうって思ってました。
この大樹の丘は、光の大樹さまが眺めるような庭園になっていて、光輝く樹々や草花、自然が生んだ庭園と言えばいいのかな。
他の庭園は、学校の教科書でしか見たことないから、比べてはいけないけど、すごく綺麗な庭園だったの。夢で見た景色にとても似た感じ。
丘の地下には、私が住んでいる寮に小さな住宅街と商店街があるくらいで、学校も基礎学校が一つあるだけで、簡単に言うと田舎なのかな。
皆、いい方ばかりなんだけど、最初は人の子が来たって、大騒ぎになったの。
人の子がここに来るのは、管理官以外にはいないってお話を聞いて、凄く驚いたのは、私の方なんですけどって内心、思ってました。
皆が慣れてくれるまでに1ヶ月くらいかかったけど、今では、自然と声をかけてくれるので、本当にありがたいです。
さて、ここに来て、半年が過ぎたけど、整備士としては、まだまだ半人前な私です。私が配置された部署は、光の大樹さまと周辺の整備なんだけど、まだ簡単な作業しかさせて貰えないんだよね。早く一人前の整備士になりたいと思ってるんだけど、まずはこの庭園を知ることが大切って皆から言われて、毎日を過ごしてます。
今日もいつも通りに地下寮を朝早く出て、整備室に行く前に大樹さまへ挨拶するのが私の日課になってるんだけど、今日は珍しい方がいらしてる。
「おはようございます。シャイン様。」
「おはよう、アニス。早いわね。あと、いつも言ってるけど、その様付けはやめて欲しいって言ってるんだけど?」
「でも、シャイン様は、ここの管理補佐官でお偉い方じゃないですか?」
「補佐官って言っても大したことないし、あと私がエルフだからってかしこまる必要も無いのよ。」
この方は、この大樹の丘にある管理整備棟の管理部に所属する管理補佐官。エルフでとても美しい方だけど、他の整備士さん達に聞くと天然気質な性格らしい。
エルフの方って私みたいな人の子と違って、もっと神秘的で知的で近寄りがたいと思ってたんだけど、誰にでも気さくに挨拶してくれるんだ。
すごく優しくて、色々とこの庭園について教えてくれるの。たまにお仕事の秘密事項を簡単に話してしまうこともあるけど…。
「うーん、でも、まだ慣れなくって、それよりシャイン様、今日は何でここに来られたのですか?」
「えっと、今日は中央管理局からの査察があるのよ。それで、査察前の下見に来ただけよ。」
「え!査察ですか?誰にも聞いてないんですけど…。」
「あ!今の内緒だったんだ…。お願い、皆には内緒にしてね!」
「わかりました。でも…。」
「でも?」
シャイン様は、全然気づいてない様子で、シャイン様の後ろに静かに立っている方が私に対して、ニッコリと微笑んで、しーっと人差し指を立ててるんだもん。
「シャイン、いつも言ってるわよね? 質問に答える前には、少し考える様にと。」
「え? あっ、あの…。レイティア様。いつの間に…?」
この方は、中央管理局の上位管理官、レイティア様。
シャイン様と同じエルフ族なんだけど、同族の中でも高位の存在らしい。凄い気品をまとっていて、とても美しく知的で、神秘的な彫刻がそのまま出てきたような方です。お二方とも、とても綺麗なので、私みたいな平凡な人の子が一緒に居てもいいのかと戸惑うこともあったの。
でも、お二方とも気にする様子もなく、お話をしてくれるので、慣れてしまったんだけど、同じ整備士の男の方々から羨ましがられてるんだよね。
そういえば、レイティア様が査察等に来られる際に毎回、シャイン様はいつも何かしらドジを踏んでいて、絶対に頭が上がらない様子だって、皆が言ってたっけ…。
私がここに配属された時に丁度、査察に来られていて、この丘について、色々と教えてくれたの。査察のついでに臨時新人研修ということで、レイティア様、直々に教えてもらったのは、今考えると凄いことだと思う。
とても緊張してた私に対して、お茶目な所を見せてくれたり、色々なお話をしてくれて緊張をほぐしてくれたの。その時に神様の品評会のお話をしてくれたんだ。私の知っている大好きなお伽話と一緒で、少し違うのは、想いを込めて小さなお庭を特別な
今の私には、夢が沢山ありすぎて、形には出来ないけど、いつか参加してみたいって思ってるんだ。
「査察前の習慣よ。大樹さまに挨拶に来たのよ。朝早く来たつもりだったんだけど、先客がいたので気配を消してただけのことよ。」
「気配を消すって、そんなズルいですよ。」
「エルフにとって気配を消すことは、誰にでも出来ることでしょ。そして、常に周囲の気配に注意すること。」
「うっ、それを言われると何も言えませんが、レイティア様が気配を消すというのは、自然と同一になるじゃないですか。」
「そこまでしてないわよ。普通に注意していれば、気づける程度に気配を消していただけよ。」
「えっ、でもでも…。」
「ちなみにあなたの後ろに近づく際には、アニスは気付いていたわよ。」
「嘘? アニス、ホントに?」
「はい。私とお話し中にシャイン様の後ろにゆっくりと歩いてきましたよ。」
ここまで、恐縮しているシャイン様って始めて見たわ。凄く楽しそうなレイティア様も始めて見たかも。
お二人の関係って、ただの上位管理官と管理補佐官だけじゃないようだけど、何かあるのかしら?
でも、お二人のやりとりは見てるだけで、失礼かもしれないけど楽しいな。仲のいい姉妹とはちょっと違うけど。
「シャイン、久しぶりに査察後にゆっくりと稽古でもしましょうか?」
「レ、レイティア様、稽古って本当ですか? 出来れば、ご遠慮したいんですが…。」
「あら?何か言ったかしら?」
うーん、稽古? このやり取りだとレイティア様が先生みたいだけど。
聞きたいけど、どうしようかな? シャイン様を困らせそうだし…。
まぁ、とりあえず、ダメ元で聞いてみようっと。
「えーっと、レイティア様、失礼かと存じますが、お二人は先生と生徒みたいな関係なんですか?」
「アニスは知らなかったわね。えぇ、シャインは私の教え子の一人よ。」
「レ、レイティア様、そのことは秘密ではなかったんですか?」
「管理官研修の時に私が教官で、あなたが研修生だったことを秘密にしてどうなるの?」
「うぅ、あまり思い出したくないのです…。」
シャイン様が本音を口にして凄く困ってる。反対にレイティア様は何か楽しそうに見えるけど。
「アニス、研修生時代のシャインのことを教えてあげようか?」
「お願いします。レイティア様、そのことだけは、本当にお止め下さい。」
そういえば、先程から大樹さまの上より、以前、お会いした特別管理官が呆れた様子で見てるみたいだし…。
光の大樹さまの上には、この庭園の管理整備官が住んでいるんです。
このことは、レイティア様も教えるつもりはなかったみたいんだけど、光の古竜さまは人の子が珍しかったみたいで、挨拶してくれたの。古竜さまは、竜の威厳や特別な気配も消してる様子で接してくれて、とても優しかった。あと不思議と懐かしさを感じたのは何故かしら…。
それと大切なものを貰ったんです。
さて、シャイン様が本気で困ってるから、この辺でおとめしないとダメよね。
「お聞きしたいところですが、お二方、そろそろ行かないとお仕事の時間に間に合わなくなると思いますので、またの機会に。」
と笑顔で返す私は、シャイン様に対して、ちょっと意地悪かもしれませんね。
まぁ、助け舟は出したので、それで許してもらおうっと。
「あら、もうそんな時間なのね。では、この話は歩きながらでもしましょうか。」
「レイティア様、その話だけは本当に勘弁してください。さぁ、アニスも早く行きましょう。」
レイティア様は楽しそうな笑顔で、シャイン様は本当に困った顔をして、お二方は歩き始める。
私は大樹さまに一礼してから、大樹の丘の管理整備棟に向かって、お二方の後ろについて歩いてく。
今日も一日、とても素敵な日になる予感がする。
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