6.フェルミナ村



アリーシャが住むフェルミナは、この世界『アルハザード』の南東部に位置する、針葉樹林に囲まれた小さな村だ。




人口は三百人ほどしかおらず、ほとんどがエルフ、二人がハイエルフという構成である。


ハイエルフとは、種としてエルフの上位互換にあたる種族であり、どちらかと言えば妖精や精霊に近しい存在だ。


外見はほとんど見分けが付かないが、最大の特徴として、ハイエルフの眼は瞳孔が二重になっており、色合いも内側と外側で若干異なる場合が多い。



これはエルフの長所である、視力を更に強化したものと考えて良い。



眼とは対象物を認識する際に、虹彩が伸び縮みすることで瞳孔の大きさが変化し、光量を調整して鮮明な像を網膜に映すことで、初めて脳が認識する。


例えば近くの物を見ようとすれば、瞳孔の直径は小さくなり、逆はまた然りである。


つまり、見るための対象を一つに絞ることしか出来ないのだ。



だが、ハイエルフの『多瞳孔たどうこう』ならば、その限りではない。


内外の瞳孔が異なる運動をすることで、より多くの情報を瞬時に捉えることが出来るのだ。



更にハイエルフは、低級ではあるが火水風土の四色魔法を操ることができ、基本的な回復や補助魔法も遜色なく唱えるだけの魔力を持って生まれる。



通常扱える魔法の属性は、術者が魔法詠唱する際に現れる魔法陣の色で決まるのだが──


ハイエルフは視力良さを生かして、魔法陣を着色している光の三元素を微妙に変化させることで、様々な魔法詠唱が可能になっているのである。



──つまり、ハイエルフは種族であると言っていいだろう。




最早反則級の個体値を持った種族なのであるが、それ以上に希少な生き物でもある。


通常種の突然変異であり、遺伝してもごく稀にしか生まれない。


何よりハイエルフは──




──男児にしか出現しないのだ。




フェルミナ村の、ハイエルフの一人目は村長のギリアム。


もう一人は、父のスコットだ。


アリーシャは女なので遺伝することは無かったが、愛する父がハイエルフというだけで、充分すぎるほどに誇らしい。



生まれた時から母がいないため、父親の愛情しか知らないが、アリーシャは不満なことなど何も無かった。


スコットは他の家のどの父親よりも娘に愛情を注いでくれていると思っているし、何よりもアリーシャにとっては村の住人みんなが家族なのだ。



魔法を扱うことが出来ないアリーシャだが、誰も馬鹿にしたことはない。

彼女が努力家で、魔法が扱えない代わりに弓の練習を誰よりも行っているのは皆が知っている事だし、腕前も確かだ。


そして、アリーシャは誰に対しても分け隔てなく笑顔で接するため、誰もが彼女のことを心から家族だと思っているし、アリーシャもみんなが大好きだった。






──そう、


フェルミナ村が、みんなが、オークの襲撃により壊滅するまでは。

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