2.プロローグ②

朝起きると、何故だろう、産まれたての小鹿の様な気持ちになる。


そんなことが、たまにある。




──水島 勇作は、両手を天に掲げ、都会の濁った空気を胸いっぱいに吸い込んだ。



「...ふぁーあ、っと。んー、五臓六腑に染みるねぇ」



黒々とした健康的な短めの髪の毛をぶっきらぼうに掻きながら、勇作は、どこか中年男性のような──中年男性だったな俺は。


訳の分からんことを一人虚しく呟きながら、水垢が付いてやや白みがかった洗面所の鏡に向かい合う。



平均的な身長に、平均的な肉付き。


平均的な顔つきに、ややつり目の真っ黒な瞳が自分自身を見つめ返す。


31歳の誕生日を迎えて、はや一週間。


誰もお祝いなどしてくれるはずも無く──まぁ友人は何人かメールをくれたけど、自身の年輪ねんりんが追加されたことに、もはや何の感情も抱かなくなってきた。



──いつから誕生日が嬉しいイベントじゃなくなったんだろうか。


そんなことを考えながら、勇作はおろしたてのワイシャツに片腕を通した。



そう、ここまでが毎日の日課だ。



別に何の変哲もない、いつも通りの朝。


この後は、適当にシリアルでも食べて、個人輸入で取り寄せた痩せ薬──これホントに効いてるのか?を飲んで、満員電車に揺られに行く。



面白くも何ともないだろ?

これが俺の人生さ。



──深い溜息を吐くと、身体の奥から生気が抜けていった、そんな気がした。


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