第25話「呼妖魔法楽演奏」

 ―――竜胆白は感じない―――


「それでは演奏します。聞いてください。」


 男は目を瞑り、そして演奏を始める。

 大きな黒い木製の四弦の弦楽器から強く低い音が響く。

 もちろんそこまではさっきぶつかった時に理解していた。

 この先が初めて見る光景だった。


 男の楽器から数十体のいわゆるデフォルメされた骸骨や悪魔を模様された何かが出現する。

「これは、一体なんなんですか。」

 気になってしまった俺は思わず尋ねた。


「これは私の魔法、音楽に乗せて心を体現する魔法ですよ。私の今の気持ちがこの子達に乗せられています。私の魔法を楽しんでお聞き、いやご覧下さい。」

 実用性があるかはわからないが、後でこの魔法も使ってみる事にしよう。


 男の演奏で出現した何かは、俺にその嬉しさを伝えてくる。気持ちを体現する魔法、確かにこれならば思っている事が視覚として伝えられる。

 が、実用性があるかは判断しかねる。


「素晴らしい魔法だと思うよ。あなたの嬉しさが伝わってくる。そう言えば、名前を聞いていなかった。」


 それを聞いた男は、楽器をしまう手を止め、話し始めた。

「そうでした、自己紹介がまだでしたね。私の名前はブリング、世界の皆さんに私の音楽を楽しんで貰えるように旅をする音楽士です。」


 世界では今戦争をしているとは思えない程、平和的な夢だ。

「俺の名前は竜胆白、最近この国に来た俺も旅の人間だよ。」


 楽器をしまい終わった後、ブリングは目を瞑り、一礼をしながら続ける。

「竜胆白様、ありがとうございます。私は実に絶望に晒されていましたが、あなたのような方に出会えた事は私の希望です。あなたのように私の音楽を認めてもらえるよう私は精進します。それでは私はもう、行かなければならないので失礼致します。」


 歩き出すブリングを手を振り送り出し、その後俺はエミリーの様子を伺う。

 エミリーの顔はまるで怖いものを見た事かのようだった。

「エミリー何かあったの。」

 そんなエミリーに尋ねる。


「ねぇ、普通あぁ言う魔法はね、明るい気持ちだと白い鳥だとか青い鳥なんかが出てくるの。なのになんであの人は喜びながら不穏なものを出していたのかな。認められない理由はそこだと思うの。」


 竜胆白として言えることは一つ。

「そんな風に偏見を持つのはいけないと思うよ。もし彼がそう言うの研究するのが好きという事もあるし、きっと自分の正直だけが正義ではないよ。」


 まったく世界を救えない古い時代の俺の言葉。そんな意識人間全てが持つはずが無かったのに、また口走った。

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