第2話「知らないは死活問題」

 ―――泉谷隼人異世界での三日目―――


 異世界に来て一日目、俺は自分が思うがままに街を徘徊した。

 勿論街の地図なんかも分からないし、道も覚えていない為、ただただ迷い歩いていただけなのだが、非常に楽しい半日だった。


 その夜俺は気付いた。元いた世界とは違う魅力に魅了されていた訳だが、俺には金も働き口も無いわけだ。


 勿論二日目には人々に話しかけはしたのだが、誰かも分からない人間を助けてやれる程余裕がないから他を頼ってくれ。そう言うばかりだった。

 更に二日目から段々と体調が悪くなってきた。


 頭痛なんかが目立って来たのだ。。完全にこのままではまずいが、人が多くいた通りからも離れてしまった為に、少しの水すらも得られない。


 そして、もうほとんど動く元気すらも無く迎えたのがこの三日目。七十二時間、三日目が災害にあった時に助かる確率を大きく分ける時間。人間は何も飲み食いせずに七十二時間を過ぎて生きて居られる確率は非常に低下する。


「さて、この前は失敗したがあの姫は明後日の夜の祭には確実に現れる筈だなへっへっへ。」

 見覚えのある男と目が合った。

「あ、アイツは俺の邪魔してくれたやつじゃねぇか。」

 最悪のタイミングで最悪の人間に絡まれてしまった。確か一日目にぶつかって、俺が殴った奴だな。


 しかも今度は仲間までいやがる。面倒な事になった。

「俺は向こうの城から抜け出してくる姫さんを追ってたんだよ。そんな俺達のビジネスを邪魔してくれやがってこの糞ガキが。」

 あの、すれ違った人物は姫だったのか。確かに雰囲気が金持ちだった。色々な庶民を見てもあれ程綺麗な服を来ていた者は居なかったからな。


 そして今は座り込んで居て見えないが、二日目に見た建物が城なのだろう。

 それにしても姫は使えるな。

「ははははははははははははははははは。」

 極限状態だった俺は思わずそんな風に笑っていた。これで俺は成功できる、そんな気がしていた喜びでだ。


 どうやら俺が考え込んでいる間、奴らは俺の事を殴っていたみたいで、既に俺の体は殴られた傷だらけ。しかし、そんな状況で俺は大きな声で笑い始めたのだ。


 奴らはそれを見て恐怖を覚えた。殴られて居るのに笑っているのだから。更には得体のしれない人間で、まさか何か策があるのではと考えたらしい。実際に一日目は一発で仕留めている訳だし。


「なぁおいお前ら、こいつ何かヤバい事を考えているのかも知れねぇぞ。この前はいきなり殴られて、俺が一発で落とされた位の奴だ。ボコボコとはいえ逃げた方が良いかも知れねぇぞ。」

 そして奴らはその場を後にして走って逃げて行った。


 一方の俺は笑いながらそのまま、意識を失い倒れてしまった。

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