第5話「女神から奪う」

 ―――泉谷隼人は思いつく―――


 にこやかに微笑みながらあの女は腕で扉の方を指している。

 もうそろそろ異世界とやらに行ってやるか。


 その世界で俺ではない俺の身体を見た時、俺はこの女が言う事を信じてやるよ。

「ありがとうではもうそろそろ異世界に行く事にするよ。」


 俺はベッドから、起き上がった。そして扉の方へ歩いて行く。

 そう言えば、この女に言っておくべき事なんかはあったかな。


「あ、そう言えばここは何処なんだ。」

 俺が気になったのはこれだけだった。

「ここは世界の境目ですね。貴方の世界であり、貴方が行く異世界でもあります。だからさっき見せた景色、魔法を使ったのです。」

 さっきの景色を見せる魔法とやらは、恐らくただ見せるだけの魔法では無かった。実に気になる。それに、俺が本当に魔法が使えるか試してもみたいしな。


「どんな魔法を使っていたんですか。」

 ここで魔法を覚えられるだけ覚えて行くという手もありかもしれないな。

「あれは転移魔法ですね。転移魔法自体は使える方は多いです。魔法は基本イメージで出来るので、目の前の空間が歪み、どこかと繋がれと思えば良いのですが、基本的には皆さんまず一つ目の空間の歪みを生成し、その後に転移したい地点に行き、二つ目の空間の歪みを生成して、転移魔法を完成させますが、私は他の魔法と組み合わせたのです。自分の思念体を飛ばす事のできる魔法で遠くの方までいく、転移魔法を発動させるのには体がなにかする必要はありませんので、思念体で魔法を発動できるというわけです。」


 この女自分の能力をペラペラと教えてくれた。この調子で聞けるだけ聞くのが最良だろう。この女から魔法を覚えられるだけ覚えて行くのが、やはり正解だな。


 使。そう聞こうと思ったのだが、それをいう最中にそれを遮る様に女神は話し始めた。

「もうあまり時間がありません。交わる事のない世界はあまり長く交わり続けられません。私は今から貴方に行ってもらう世界の女神です。また会うこともあるでしょう。」


 不測の事態だった。確かに世界同士が交わる事は良くない事なのかも知れないし、俺はこの世界では死んでいる訳だから尚更だろう。さて、本当に異世界があるのか、証明してくれたまえよ。


 扉の向こうへ、俺は飛び出したのであった。

「あの方は、聞いていた様に悪い方なのでしょうか。とてもまともな人間だと思うのですが。」


 女神は泉谷隼人の事を誤解していた。自分がいい様に利用され、魔法をなんでも使える上に最高クラスの身体能力を保有する人間にした事も、魔法を盗まれた事も全く気づいていなかった。

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