女騎士と四畳半と行方知れずの大賢者

ギア

3日目の昼

 大学の食堂で昼飯を食ってたときのことだ。

「よお、刈田かりた

 顔を上げると生物科の安藤だった。具無しの小カレーだけの俺に比べて、2人分はあろうかと超大盛りカツカレーをトレーに載せている。しかも小鉢付きだ。ブルジョアめ……いや、まあ本物のブルジョアはそもそも学食にカツカレーなんて食べに来ないだろうけど。寝不足の頭でそんなどうでもいいことを考えてたら対面に座った安藤が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうした。なんか疲れてね?」

「いや、別に。最近、あまり眠れてないだけ」

 適当にごまかす。そもそも最近眠れていないこと自体は嘘ではない。安藤は俺の言葉にカレーを口に運ぼうとしてた手を止めた。

「刈田さ、まさか貸したブラックライトで夜中に細かい作業してたりしないだろうな。あれ光量が少ないから普通の電気使った方が目は疲れないぞ」

「ああ、違う違う。普通に使ってるよ。ちゃんと効いた。サンクス」

 普通に使ってるってなんだよ、と自己ツッコミを内心いれたが、ありがたいことに安藤は特に気にしなかったようだ。しかし生物科にブラックライトがあると聞いてダメ元で借りてみたけど、まさか本当に太陽光の代わりになるとは思わんかった。トロール以外にも太陽が弱点って魔物が今後も襲ってくるかもしれないし、できればしばらく借りておきたいところだ。

「そっか。じゃあ、もしかして恋の悩みか?」

 笑いながら聞いて来てる時点で本人も本気でそう思っているわけではなさそうだったが、まさか異世界から日帰りで女騎士が助けを求めて俺の部屋を出入りしている、と正直に言うわけにもいかず、その口実にありがたく乗らせてもらうことにする。

「まあな。どう声をかけたらいいか分からなくて」

「前に可愛いって言ってた大家の娘さんか? 名前なんだっけ。男みたいな名前だった気がするけど」

 そんなん話したっけ? よく覚えてんなあ。それともそんなに何度も話題に出してたか、俺。

鈴木武緒すずきたけおさんな」

「そうそう、そんな感じ」

 あ、大家の話題が出たおかげで思い出したわ。今日は帰ったら大家に銀食器を借りられないか聞いてみるつもりだったんだ。ありがとう安藤。フォーエバー安藤。だが俺の目の前で旨そうにカツカレーを食った罪は重い。

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