独りぼっちの大合唱

Hail

第1話

鏡の中にいる自分はいつも通り落ち着いた顔をしている。

体の中で起こる黒い渦を、頑丈な何かで閉じ込めるように私の表情はいつも変わらない。

濡れた手をハンカチで拭いてからトイレを出た。

廊下は生徒達の声で騒々しい。その喧噪の中を歩く私の中もまた騒々しかった。

 教室に入ると、友達の彩夏が私の席で待っていた。

本当に友達と呼べるのかは分からない。だって私は彩夏の引き立て役だから。

顔もスタイルもそこそこな彼女は、自分より下に見ている相手を自分の周りに集める。おかげで彼女の周りはブスだらけだった。

当然私もその中の一人だ。私の影でのあだ名は根暗眼鏡だ。

まるで悪口の集合体のようなあだ名だ。陰で言われていたと気づいたのは最近だった。放課後の教室に忘れ物を取りに戻った時に、まだ残っていた男子たちの間で私の話がされていたのだ。私は教室のドアを開けようとした手を引っ込めて、そのまま昇降口へ向かった。

「咲、トイレ長い~」

「ごめんごめん」

おかげで作り笑いが上手になった。これは生きていく上で役に立つものだろう。

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独りぼっちの大合唱 Hail @mobuyuki

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