暗い押し入れに入ったつもりが……

 



 押入れの中は違う空間へと繋がっていた。


 暗い押し入れに入ったつもりが、何故かそこは、白樺の林の中で、霧が薄く張っていた。


 幻想的だな、と思いながら、紬は白樺の木を見上げる。


 白樺は紬の世界のそれと同じくらいの大きさだった。


「ミニチュアな世界なのかと思ってました」

と言うと、


「莫迦め。

 私の本体は、お前とサイズは変わらん。


 とり憑いたこの人形が小さいだけだ。


 これでどうやって戦えと言うのだっ」

と勝手に人形にとり憑いておいて、王子は文句を言ってくる。


 どうやら、この世界では、戦争のときには、それぞれが人形に入って戦うことになっているらしい。


 だから、みな、優秀な人形師を探しているらしいのだ。


「何故、人形に入って戦うんですか?」

と問うと、


「生身で戦ったら、死ぬではないか」

と言う。


「……ぬるい世界ですね」

「野蛮な奴だな……」


 まあ、いい、と王子はまとめるように言ってきた。


「ルールにのっとり、一度人形に入ってしまったら、出られないのだ。

 この人形たちを直しながらやるしかない。


 さあ、時間だ。

 ついて来い、人形師っ」


 ……いつ目が覚めるんだろうな、これ、と思いながら。


 わー、と小さな声を上げながら、ビニール袋から飛び出し、走っていく三人官女や、転がっていくその他人形の首の後ろをついて行った。


 ……早く、体、作ってやらなきゃな、と思いながら。




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