寵愛

それは初夏の季節には珍しく、肌寒く紅い満月が夜の暗闇を照らす不気味な夜の日の事だった。ヒナタは村はずれにある木造で雨風を凌ぐのがやっとのボロ屋にある小さなベットで両親と身を寄せ合い、眠っていた。

「、、、何だろう?悲鳴?」

何かの異変に気づいたのはヒナタは、両親を起こそうとしたが父がいない。とりあえず母を起こし自分の感じた異変を話しているとそこに父が息を切らし、どこか怯えた様子で駆け込んできた。

「どこへ行っていたの!? それよりさっき悲鳴が村の方から聞こえたような気がしたの!!」


「何かが、、、村で何かが起きている。」


「、、、何かって??」


「私が駆けつけた時にはもう遅かった。狂っていた。何かに怯えるように発狂し苦しみ、、、死んでいった。」

そして父は目尻に少し涙を貯めた様子で続ける。


「それも、私たちに良くしてくれていた人ばかりだ!ここを貸してくれている村長のダンテ村長、いつも森に木の実や山菜つみに行くのを手伝ってくれるメリナおばさん、いつもミルクを分けてくれるハルタさん、、、」

父が挙げる名は村に不気味がられ、嫌われたヒナタたちに影ながら手を差し伸べてくれた心の優しい人たちばかりだった。


「そんな、、、どうしてなの、、、」

ヒナタは泣き崩れ、母は唖然とし言葉を失った。3人をヒナタのすすり泣く声がボロ屋に響き渡る。すると母は何かを感じた素振りを見せたと思うと突然ヒナタに優しく、そしてどこか覚悟を決めた様子で語り始めた。

「ヒナタあのね、、、」

ヒナタが涙でくしゃくしゃになった顔を上げ、母を見つめる。

「あなたはねヒナタ。お母さんと同じで『憂夢』を引きつけやすい体質なの。」


「、、、どうして??」


「それはお母さんにも分からないわ。私も同じ体質でそれがヒナタに遺伝しちゃったみたいなの。フフッ道理でお母さんそっくりの美人さんなわけね、、、」

ヒナタは少し冗談混じりで笑う母をみて少し冷静を取り戻す。そして母は胸元から紅く輝くペンダントを取り出して


「これはね、貴方の体質を抑えることの出来るお守りよ。これをこれから肌身離さず持っていなさい。私も私のお母さんに、お母さんもそのまたお母さんから受け継いできた大事なお守りよ。これがヒナタに出来る最後のことになるかもしれないわ。」


「どうして??そんなの、、、そんなの嫌だよお母さん!」

昂ったヒナタが母に抱きつく。母も同じくヒナタを強く抱き締めて言う。

「ヒナタ、私達のせいでたくさんの辛い思いや貧しい思いをさせてしまったわね、、、本当にごめんなさい。」


「そんなことない!私はお父さんとお母さんと一緒にいれてすごく幸せだよ!辛い思いなんかしてないよ!!」

胸元で泣きじゃくるヒナタを見て母も涙を流し、こう続ける。


「ヒナタ、、、どんなことがあっても人を信じなさい。その結果がどうであっても決してその人を憎んだり、恨んではいけないわ。憎みや恨みは争いしか生まないの。母さんとの約束よ?」


「わかったよお母さん。わかったからお願い!どこへも行かないで!!私を一人にしないで!!」

泣きじゃくるヒナタを再び強く抱きしめた母を見て父が駆け寄り、ふたりを抱きしめた。

「父さんと母さんはずっとずっと、ヒナタのそばにいるよ。約束する。」

窓から月の光が差し込み強く抱きしめ合い愛を確かめ合う三人を明るく照らし、しばしの安息と静寂がヒナタ達を包み込む。家族を包む安息と静寂を最初に破ったのは以外にも家の外から近づく『何か』だった。

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