崩壊

森を出た2人は村に向かって歩く。

道中、ユウが憂虚師であることやヒナタは両親が幼い頃他界しており1人であること、今は村のみんなと仲良くやっている事など様々な話をした。ユウはヒナタをますます自分の母に重ねてしまっていた。カシバという小さな村に着いた。2人が足を踏み入れた瞬間、ヒナタの姿を見て村人達が静まり返るそして村人のひとりがユウに話しかける


「お前さん、もしかして憂虚師ゆううつしかい?」


「あぁ、何か問題でも?」


村人は舌打ちをし、小声で


「あいつんとこの両親が馬鹿正直で何も疑わない気味の悪い両親でさ、いろんなやつに色んなものを取られた挙句流行病に倒れて死んじまったんだよ。親も親なら子も子だよ。あのバカ娘俺達が何をしても文句1ついいやがらねえ。あんまり気味が悪いもんだからあの森に放り込んで死んでもらおうとしたところだったんだ。それをあんたは、、、」


と呟く。


それを聞いたユウは激怒した。このまま切り殺してしまおうかと考えるほどだったがユウに残った僅かな自制心で心をどうにか落ち着かせ呟いた。


「憂虚師ってゆーのはな、おっさん。自分の穢けがれを使役して戦うんだ。感情の調節が重要でな、調節を間違えると憂夢なって暴走しちまうんだ。」


ゾワッと寒気が村人を襲う。


「今憂夢になったら間違いなく最初にアンタを食い殺すだろうよ」


ぎらりと怒りを込めたユウの黒い瞳が少し赤みがかっていた。そんな瞳に睨みつけられた村人は顔を青ざめさせ、足早に逃げていった。


ユウがはぁっと溜息をつきヒナタの方を見ようとした瞬間村の奥の方でドンッという音とともに大勢の人の叫び声が聞こえてきた。多くの村人が悲鳴をあげながらこちらに向かって逃げてくる。


「憂夢だ!!それもデカイ憂夢だ!!みんな早く逃げろ!!!」


村の奥の方からズシンズシンという響きとともにゴツゴツとした黒い岩のようなものに覆われた5mほどの憂夢があらわれた。よく見ると人のような形をしている。


「ヴォォォォォォ!!!!」


憂夢は村を破壊しながらこちらへ向かってくる


「逃げましょう!ユウさん!!危険です!」


「俺が食い止めるからお前は先に逃げろ!」


「それはだめです!ユウさんもいっしょに!」


「ちっ、なら安全な所に隠れてるんだヒナタ」


「貫け!惨殺の刃!!」

穢を解放し憂夢の核にむけ白い刃を放つ。刃は憂夢に命中したが。効果はなく核を貫くことが出来ない。


「なんて硬さだ、、、直接貫いてやる。」

そう言うとユウは手から白く輝く刀を出して近接戦に持ち込もうとする。奇声ともに振り下ろされた憂夢の一撃を素早く躱し、憂夢の懐へ潜り込み腕を切り落とした。ダメージを受けた憂夢は回復しようと隠れていたヒナタめがけて襲いかかる。


「しまった!!!」

不意をつかれたユウはヒナタに向かった憂夢を追うが少し遅かった


「きゃーーーっ!!!!」

憂夢の手がヒナタの体を掴んだその時黒い光線のような何かが憂夢の後ろから核を貫き、絶命させた。サラサラと灰となった憂夢の後ろにいたユウの右目が紅く輝いていたように見えた。


「今のはユウさんが??」


「さあな」


「そ、そうですか」

不思議に思いながらもヒナタは村の安否を見て回った。だが村はほぼ全壊し村人も数人憂夢の犠牲となり、何十人もの村人が血を流し、倒れていた。ヒナタはどうしてこんなことに、、、と泣き崩れた。その後ヒナタは手当をして回ったが、誰も礼も言わず中にはヒナタに近寄るなと言い突き飛ばすものまでいた。それでもヒナタは手当を続けた。それが何故なのか、何がヒナタをそこまでさせるのか、ユウには理解が出来なかった。あれほどヒナタをぞんざいに扱っていた村人が襲われ、血を流し、死んだのだ。自分ならせいせいするだろう。だが彼女は村人の為に涙を流し手当をしてまわっている。それだけで彼女の心がいかに慈悲深いか、慈愛に満ちているかが分かる。その姿はまさに馬鹿正直で慈愛と慈悲に溢れたユウの亡き母そのものだった。

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