幻肢痛

第1話

「顔も心も裂かれてる気がする。おかしくなりそう……」


 彩は苦い顔をしながら、狂う。


 事件が起きたのは、2016年か2017年だ。彩は事件のショックのあまり記憶障害に陥った。時たま思い出す、誰かに傷つけられた事だけは記憶して。


「辛い……私はこの十年誰にも会っていないのに。どうして?私が何をしたというの?」


 彩には理由が解っていた。だが、認めたくなくてまた暫く記憶を失ってしまっていた。彩には過去に付き合っていた人がいた。性根が腐った男だ。だが、その頃の彩には自分の価値を高められる憧れの存在だった。全ての失敗の元凶。時が戻せるなら戻したい。


「消えてほしい。」


 彩は一人静かに泣き崩れる。彩は部屋に引きこもっている。誰のせいにもせず、自分を責め顔を伏せる。


 ◇◇◇


「この話を書いたら訴えるから」


 友人の弁護士擬きはいい放つ。


「解った。その時は望み通り死んであげる。今、あなたがやっている事は犯罪なんだけど……そこはなんとも思わないの?」


「う~ん。思わない。加藤さん虐めていたぶるの楽しいから」


「そっか。それなら止めない。代償は後からついてくるものだから……」


「何言ってるの?意味が解らないんだけど。本読みなよ。読む力すら持っていないだろうけど」


「もう疲れるよ……私はここ十数年、貴方達に会ってないのに何なの?今は黙ってるけど、知らないよ」


「例の名前はないの?」


「人をバカにしすぎ……どうしてそんな風になっちゃったの?」


「だって、加藤さん気持ち悪いから。年賀状送るんじゃなかった。返して!」


「年賀状?って、大昔の年賀状?」


「そう。あぁ……結婚式にも呼ぶんじゃなかった……失敗した」


「そんな……私は別の事件……の後で苦しんで、拒食症のなか行ったのに」


「加藤さん、袱紗も持ってなかったんでしょ?受付の子に聞いて恥ずかしかった。ドレスもワインレッドでケバいし。私が化粧直しで赤着るんだから、被らないでよね。」


「袱紗の件も、ドレスの件もごめん。ドレスは確かにピンクか黒にすれば良かった」


 こんな時でも謝る自分が悲しい。


「申し訳ありませんでしたでしょ?私、年上なんだけど……」


 年上の小言は続く。


 彩は限界だった。電話を切りたい。ただその思いだけだった。


「切ろうとしてない?」


「してないよ。美香さんの話聞くのが私の仕事なんでしょ?これは私の話だからね……覚えておいて」


「私の話って何?時々、煽るよね……私に勝てると思ってるの?」


「勝つ?ここには被害者と加害者しかいない。分かってるでしょ?弁護士さん?」


「は?頭きた。もう電話しないで。」


「私から電話した事なんてないでしょ?理解力がないのにはどっち?」


「は?頭来る。キチガイ!」


「今の言葉、そっくりそのまま返す。電話したくないんでしょ?ならかけて来なければ良いじゃない?」


「いいや。また暇潰ししにかける。じゃ……」


「……まただよ。さっさと切りなよ。何なの?遊びか何かだと思ってるの?知らないからね」


「ほんと豹変するよね……加藤さんこわ~い。いいや、切るわ」


 ブチッ!


 神様、このモンスターに天罰を……。

 彩は人間に助けを求めるのは諦め、常に神による天罰を求めていた。


「私に救いを……」


 特定の神を信仰しているわけではない。だが、藁をも掴む気持ちで神と呼ばれる存在にすがっていた。


「いつか、彼らに世の中が復讐してくれますように……そんなに世の中甘くないか」


 彩は日々凶悪なモンスターと戦っていた。時々綾音に任せて。綾音は強く、ただ黙っているタイプではなかった。


『破滅的?聞こえているけど……』


「うん」


『今回関わったやつ全員破滅させてやるから……覚えておいて』


 綾音は心強い。彩は綾音を頼りにして生きてきた。心の中のもう何人かの自分達と共に……


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幻肢痛 @phantompain

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