Bパート

「フリーズ!! 動くな、焔豪一郎!! お前を、公衆の面前で全裸になった罪――公然わいせつ罪で逮捕する!!」


「なんじゃぬしゃぁ!! なんの権限があって、人様の別荘に勝手に入ってきちょるんじゃぁ!!」


「国家権力だっ!! 権限も糞も――って、イヤァアアア!! 全裸!? 全裸なんで!?」


 女刑事が、全裸の男五人を前にして、目を剥いて叫ぶ。

 その後ろ――彼女の部下たちだろうか、ついて来ていた男性の警察官たちも、僕たちのこの格好に驚いているようだった。


 そりゃそうだろう。


 ヤク〇の別荘に来てみれば。

 そこの座敷に全裸の男が五人。

 何をするでもなく集まっている。


 そんな場面に遭遇すれば、フリーズしろと言った方が、フリーズするってもんだ。

 これは訳が分かる話であった。


 君たちの気持ちは痛いほど分かるよ。

 そして、次の言葉も。


「えっ、なに、もしかして――ホ〇ォ?」


「違うわい!! そういう話じゃないわい!!」


「俺たちも、好きで全裸になっている訳ではないんだ」


「ただ、全裸にならなければいけなかっただけで」


「見逃してくださいよー。開国してくださいよー」


「そうです!! 断じて違います!! 僕たちは、やむを得ない状況で、こうして全裸になっていただけなんです!! シャブもLSDもキメてません、ただ、全裸にならなければならなかった――それだけなんです!!」


「意味が分からないわ!! とりあえず、逮捕ぉっ!!」


 そう、女刑事が叫んで、指先をこちらに向けた時だ。

 千畳敷の畳が、一斉にして裏返ったかと思うと宙を舞う。畳返し、おぉ、その舞い上がる、中に悠然として佇むのは――我らがお父さんの力強き味方。


 ラスト・スペース・サムライ・ボーイ・X兵衛!!


「……おまっとさんだぜ!!」


「「「「「X兵衛!!!!」」」」」


 X兵衛の登場に、このまま全裸で警察に連行、悲壮の只中にあったお父さんたちの顔に生気が戻った。彼が来てくれたなら、ひと安心だ。


 しかし、流石はX兵衛、どんなピンチにも現れる。

 頼りになる、まさしく漢の中の漢だぜ。


「X兵衛頼んだ!! なんとかこの場を丸く収めて、僕たちのことを守ってくれ!!」


「……いや、流石にこの大人数だ――五人のちん〇んを同時に隠すなんてことは、俺にはできそうもない」


「……なんだって!?」


「だから!! こうする!!」


 刹那。野獣珍陰流の手が警察官たちの間を駆け抜ける。

 何が起こったのか、あまりに早いその神速の妙技に、警官たちも体を動かすこと叶わなかった。


 隙間風が、すっと、千畳敷の間へと吹きすさんだ。

 それと同時に。


 ずるり、紺色をした警官のズボンと、色とりどりのパンツが、その足を滑り落ちて地面へと着いた。もろ出しになる、彼らの拳銃に、ほぉおぉと、全裸親父の間から声が漏れた。これでは、どちらが変態か分かったものではない。


「野獣珍陰流奥義――珍鳥!!」


 いやぁん、と、内股になって、股間を隠す男性警官たち。女刑事が振り返り、ホァーっと声を上げる中、X兵衛がこちらを振り向いて言った。


「さぁ、警察官たちが混乱している今のうちに、早く、この場を脱出するんだ!!」


「X兵衛!! しかし、俺たちには服が!!」


「服がなくても手があるだろう!! その二つの手は、大切なものを握りしめるためについているんじゃないのか!!」


 まったく。

 まったくお前はいつだって、僕たちに忘れていた大切なことを思い出させてくれるぜ、X兵衛よぉ。


 そうだ、俺たちには、手があるじゃないか。

 彼の手を借りなくっても、野獣珍陰流の技に頼らなくっても、大切なものを守ることはできる。大切なものを手にとり、守ることができるじゃないか。


「さぁ、早く、ちん〇を握るんだ!! そして、この場から逃げるんだ!!」


「分かったぜ、X兵衛!!」


「俺もこいつらをもう少しかく乱したら、すぐにお前たちの後を追う!! 地獄で会おうぜ、全裸親父バッドファーザーたち!!」


 そう言って、再び、警察官たちの中へと飛び込んでいくX兵衛。

 おぉ、X兵衛。国家権力を前にして、決して臆することなく、己の信じる正義のために戦うことができる男よ。


 日本の法律的には、許されざる者ではあるが、僕はその勇気に敬意を表しよう。

 そして、彼が作ってくれた、この貴重な時間を、決して無駄にしてはいけない。


「……皆!! ちん〇は持ったか!! 行くぞ!!」


「「「「応ッ!!」」」」


 大切なモノ――ちん〇一つ握りしめて、僕たちは屋敷の庭から飛び出した。屋敷を取り囲む、機動隊の群れを、どけどけ邪魔だと全裸で駆け抜ける。


 目指すは、ワルプルギスの夜が終わる夜明けへ――。

 僕たちは全裸で駆けた。

 ちん〇握って明日に向かって駆けた。


「しかしどうする!? 今回の摘発、機動隊もこうして出てきたとなると、相当大規模なガサ入れだぞ!!」


「……逃げ切ることができるのか」


「一つ、俺に案がある」


 そう言ったのは、三木である。


 流石は切れ者、僕たち同期の中で一番の出世頭と目されていた三木である。

 どうやら、この燦燦たる現状を前にして、彼には何か、この窮地を打開するための、秘策があるようだった。


「もったいぶらずに言ってくれ三木!!」


「私たちには時間がない!! 隠れる場所もない!! このままではどうやっても手詰まりだ!! 頼む、三木くん!!」


「おねがいしまーす!!」


「山に逃げるってならNGだぜ、夜の山の恐怖をお前はしらねえ!!」


 いや、そうじゃない、と、三木。

 そして彼は、ちん〇握り締めながら、いつものシャフ度で、僕たちを振り返って言うのだった。


「木を隠すなら森の中、と、昔から言うだろう」


「なるほど。しかし、チン〇隠すなら、チ〇ポの中とは、それはなかなか難しいのでは!?」


「ムー〇ィーズのバコ〇コバスツアー感謝祭でもない限り、難しいってもんだぜ!! ちくしょう、そっち方面の知り合いがいたらな……!! うちはバッキバッキの武闘派ヤク〇だから、そういうシノギはやってねぇのが悔やまれるぜ!!」


「違う、隠すのはちん〇じゃない」


 じゃぁ、何を隠すって言うんだ。

 ムカつく顔の角度でちん〇を握りしめながら、振り返って全力疾走する三木は、ふっと、キザに笑って俺たちにこう言い放った。


「人を隠すなら人の中!! 満員電車の中ならば、全裸の人間が一人くらい紛れ込んだとしても、スルーされるのでは!?」


「……三木!!」


「やはり、天才か!!」


「となれば、向かう先は一つでーす!!」


 東京。

 この狭い狭い日本の中心にあり、多くの人間を環状になった路線で、朝に夜にと循環させる、その交通の大動脈。


 山手線である。


「これより我ら、山手線に入る!! 鬼に合わば鬼を斬り、仏に合わば仏を斬る!!」


 行くぞ、と、三木が気炎を上げる。

 それに続いて、五人の男たちが続いて思い思いに声を張り上げた。


 そーれそれそれ。


 全裸の男五人、JR東海道線の改札を突破すると、そのまま、山手線へと向かう電車へと乗り込むのであった。


 男には、負けると知っていても戦わねばならぬ時がある。

 全裸であっても、戦わねばならぬ時がある。


 なぁに、負け戦こそ、戦の華よ。

 起きて半畳寝て一畳。

 ちん〇一つあればいい。


 ほんのり朱柄のち〇ぽを握りしめて、いざ、僕たちは山手線へと向かうのであった。


 とりあえず。


 全裸モード(確変)継続!!

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