第7話 社長もな、全裸になるんだ
Aパート
「……ふっ、おそかったじゃないか。まちくたびれたぜ」
そう言って、股間のサイコガンをこちらに向けたのは、僕が居る会社の社長。
巴三四郎であった。
どうして彼もまた、魔法少女の呪いに苦しめられる、哀れな父親の一人だった。
しかし、悠然として僕たちの前に立つその姿と力強いち〇ぽからは、少しの悲壮感だって漂って来ない。
まるで、自分が全裸であることに、誇りを持っているような、そんなすがすがしさが彼の立ち居振る舞いからは感じられた。
あぁ、僕も。僕もこのような全裸に、なれるものならなりたい。
思わず見た者をそう思わせてしまうような、たまらない男らしさが、巴三四郎の体全身から発せられていた。
この男、いったいどれだけの
社長という責任ある立場である。それはもう、全裸になってはいけないような死線を、何度となく潜り抜けて来たに違いない。その経験が、彼のそれをそそり立たせ、そして太陽を背にして悠然と佇ませるのか。
敵わない。
男としても。
魔法少女の父としても。
絶対に届かない、男としての格の違いを見せつけられて、僕はその場に膝をついた。
完敗だぜぇ。
岸部露伴に負けた、じゃんけん小僧の気分だァ。
その横で――。
「やはり、お前だったか……巴三四郎!!」
「……X兵衛?」
スペースサムライX兵衛が、眉間に青筋を立てて歯を食いしばっていた。
珍しく、彼が刀の柄に手をかけている。
これはいったい、と、僕が訝しんだのも束の間。
抜刀。きぇいと上段袈裟斬りに刀を繰り出したX兵衛。
その刀、なまくらあるいは竹光かと思ったが、どうやらそうではないらしい。
しかし――。
「ぬるい太刀筋だ」
「なっ、なにぃ!?」
「……鈴口で、刃を挟んで止めただと!?」
「……それは野獣珍陰流、秘奥!!
「ふっ、十五年も、魔法少女の父親をやっていれば、野獣珍陰の技にも通ずるというもの。別におかしいことではあるまい」
いや、いやいや。
おかしいだろう。物理的に言っても。
どうやったら、ちん〇――鈴口で刀を白羽取りできるっていうんだよ。
どんなちん〇してたらそんなことできるって言うんだ。
ゴチンコだって修行の仕方が分からないってのに。
訳が分からないよ。
またしても、規格外の人間っぷりを見せつけられて、愕然とする僕の前で、すっとX兵衛が刀を鞘へと納める。そうして、ぷっと、唾を吐き捨てた。
見ればその唾は赤く滲んでいる。
「しかも、肋骨二本、代わりにやられるとはな。俺も鈍っちまったもんだぜェ」
「まだまだ修行が足りないな宇宙侍よ。今は亡き、弌兵衛の太刀も所作もこんなものではなかったぞ?」
「なっ!? 伝説のスペース・サムライ・ボーイ弌兵衛を知っているというのか!?」
X兵衛が驚愕の顔を巴三四郎に向ける。
その視線をかわすように、ふっと、社長は視線とち〇こを床に向けた。
うぅむ、動作自在とは、なんとも羨ましい勃起力である。
「……友であった。そして、まさしく奴こそ、真の侍であった」
つっ、と、社長の頬を大粒の涙が走る。
どうやら彼にとって、その弌兵衛なる宇宙侍は、僕にとってのX兵衛にあたる人物であるようだった。
そんな知り合いの名前が出たからかどうかは分からない。
少し、X兵衛は落ち着きを取り戻したようだった。
しかし、相変わらず、巴三四郎社長を睨みつける眼差しは変わらない。
「それでも、それでも俺ァ、アンタを許すことはできない!! 多くの魔法少女を冥府魔道に引きずり込み!! 多くのお父さんたちの社会的地位を失墜させてきた、あの女の父親であるお前を!!」
「……あの女? 誰の事なんだ、X兵衛!?」
決まっているだろう、と、X兵衛。
その時、どうしてだろうか、数日前に彼と交わしたとある魔法少女についての会話が、僕の頭の中を唐突に過った。
巴ハミ。
二十七歳という、社会的にもいろいろと責任と自覚が必要とされる年齢に足を突っ込みながらも、未だに魔法少女を続けているという、伝説の魔法少女。そして、多くの魔法少女たちに接触して、その活動を焚きつけるという魔性の魔法少女。
まさか、巴社長が――そのハミの父親。
嘘だと言ってよ!! 巴社長!!
そんな感じで僕は彼に視線を投げかける。
しかし、彼はその視線に俯いたまま、サイコガンをぶらぶらと下に向けて、ただ、首を頷かせたのだった。
そんな嘘だろ。
彼が、あの、はた迷惑な巴ハミの父親だなんて。
そんな運命の悪戯、あってたまるかよ。
そんなのってないよ。
「たしかに、ハミは私の娘だ。そして、二十七歳なのに、魔法少女を卒業しない、結婚もしない、就職もしないし家も出ない、困った娘ではある」
「お前の娘が……アラサーニート処女で魔法少女活動なんかしているおかげで、多くの魔法少女が妙な責任感じて止められなくなっているんだぞ!! 分かってるのか!?」
「煩い!! 私はプライベートとビジネスは分けて考えるタイプなんだ!! プライベートのことを仕事の場で話してくれるな!!」
おもっくそ、今まで魔法少女の話をしていた気がしないでもないが。
ちょっとキレ気味な感じで、巴社長はX兵衛を怒鳴りつけた。
たぶん彼も良いお父さんぶっているけど、色々と思う所があるんだろうな。
そりゃまぁそうだろう。都合、十五年も魔法少女のお父さんやってたら、そろそろ引退してくれとか、そういうことを思うものだ。
というか、魔法少女の卒業の要件ってなんなのかね。
ニ十歳越えたら、普通力が使えなくなるとか、そういうのあってもいいんじゃないの。
僕、オタクじゃないからそこらへん分からないけどさ。たぶん、ニ十歳近くになってまで魔法少女やってる、そんな頭がリリカルな娘なんて、そうそう居ないんじゃないかな。
「私だってな、いい加減、ハミに歳相応に落ち着いてもらいたいと思ってるんだよ!!」
「だったら婚活パーティに参加させるとか、見合いさせるとか、色々とやりようがあるだろう!! どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!」
「しかたないだろう――ハミはシャイな娘なんだよ!!」
「だったらなんで魔法少女なんかになったんだよ!! バカバカ、〇んこ!!」
ほんと、世の中ってよう分からんね。
IT企業の社長の娘が魔法少女だったり、それで十五年も魔法少女やってたり、おまけに引きこもりで、処女で、ハミだったり。
世の中って、残酷なりぃ……。
そんなことを思った時だ。チンと、僕たちの後ろでエレベーターの止まる音が聞こえた。
誰だ。
だれだ。
ダレダ。
全裸の社長の待つ部屋に。
白いジャージの……。
「お父様ァ!! ごめんなさぁい、また、急な人助けで変身してしまってェ!!」
成人女性ェ。
それは明らかにだらしない体つきをした成人女性であった。
ジャージから浮き出る肉。
というか明らかにはみ出している腹肉。
女性としてどうかというレベルではないが、ぽっちゃり。
ちょっと見る人が見るとマニアックな興奮を覚える感じのその成人女性は、豊満な体と、そして、それと同じく豊満な胸を揺らして、全裸の社長に近づいて行った。
まったく臆する感じがない辺りから察するに――。
「まさか、あれが!?」
「巴……ハミ!!」
伝説のアラサー処女ニート魔法少女、巴ハミであった。
その頭は、金髪縦ロール、本当にアラサーかと言わんばかりの、お花畑であった。
そりゃ会った魔法少女が責任感じちゃうよ。こんなん。
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