約束

一行は先を急いだ。

普通、週末一日先に進んだら一日は潜伏場所を探して居住空間を作る。一日歩いた後に夜を徹して歩いているのには訳があった。

偵察部隊が戻ってこなければ本隊も異変に気付くし「偵察部隊がそこにいた」という事は「本隊が近くにいる」という事である。

敵が迫って来ていたとしても小規模の部隊を予測していたが部隊が偵察部隊を出すほどの「分隊規模」だったのは予想外だった。

非戦闘員を含む5人が太刀打ち出来るはずもなく「三十六計逃げるに如かず」って訳だ。


メイドは言った。「私達って逃げてるのよね?コイツの武器、そうその槍って長すぎて立てて歩いてる時5キロ先からでも見えてんじゃない?『ここにいるぞ!』て言ってるみたいなもんじゃない?コイツ置いて行かない?コイツ歩いてる時姫様のお尻見てない?コイツ変態じゃない?」メイドは捲し立てた。

「OK、OK!今は非常事態だしな、たとえ使用人であろうとも意見は言うべきだしより良い選択肢の提案が出来るならその意見は採用されるべきだが…途中から俺の人格否定してないか!?男は同世代の女に『変態』とか『キモい』とか言われるのが一番傷つくんだぞ!しまいにゃ泣くぞ!」亮は半ベソをかきつつ訴えた。

「半径5キロの敵を集める事が悪い事と思わん。5キロ圏内の敵を集め少しずつ倒していく…そんな戦い方しか出来んし、それにコヤツが英雄的な働きをすれば槍を見ただけで敵が逃げていくかもしらんぞ?」ジジイはメイドをたしなめた。

「げー!呂布だと!?」とか「赤い〇星だ!逃げろー!」て存在になれるかは別として…殿(しんがり)を歩いている都合上、非戦闘員であるメイドと皇女は中心で亮の前を歩いている。背中にというかケツに視線を感じるのはしょうがない。

「でもコイツ姫様のお尻を見てたんですよ?」メイドはジジイに言った。

「お、俺の国には汚い臭いケツを出してる太った連中を年に数回夕方になると見る習慣がある、しかも15日連続でだ。」亮は誤解を解くため日本の話をする事にした。

「ろくでもないのはお前さんじゃなくお前さんの国自体なのか!」ジジイが驚きつつ何か言ってるが気にしない今回誤解を解くのはメイドだ。かまわず亮は続けた。

「そいつらが押し倒したり抱き合ったりしてるのを見て興奮したヤツらが『俺の尻の匂いもかいでくれ!』って尻の下の敷物を一斉に投げるんだ」

「子供には見せられない光景じゃな!地獄のようじゃ!」ジジイは呻いた。

「だから汚くて臭いケツを見るのは慣れているし何とも思わないんだ…わかったな?」

どうだメイドよぐうの音も出まい!

「私のお尻はそんなに臭くて汚いですか?」

蚊の鳴くような声で皇女ヘレナは囁いた。

「そんな事はございません。あなたのお尻は良い匂いでございます」

焦ってフォローしたが

「姫様のお尻見てるだけじゃなく匂いかいでたんだ!うわっ!きしょっ!」メイドは悲鳴をあげ叫んだ。

まずい皇女がドン引きだ。汚物を見るような視線を向けられている。特殊な性癖がないと耐えられん。この雰囲気何とかせねば…と頭をフル回転させていた時に遠くに砂煙が見えた。

敵の分隊に見つかってしまったのだ。

…という時に「走れ!」と怒鳴ったのは殿(しんがり)の亮だった。

集団が吊り橋を渡り終えた時亮は吊り橋を切り落とし分隊と対峙した。

向こうからメイドが叫んだ。

「アンタが吊り橋を渡った後切り落とした方が良かったんじゃないの!?」

「俺に任せて先を急げ!」亮は叫び返した。

「逃げたわねー!今度会ったら覚えてなさいよー!」メイドは向こう岸で逃げながら叫んだ。

「お互い生きてたらな!」崖を背に分隊と対峙しつつ約束した。


しかしその約束が果たされる事はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る