第2話 ただの見栄

「あ~あ、もうこんな時間になっちゃったよ。ゲームをやる時間すらねぇ。」


今年度高校受験を控えた青葉 隆平(あおは りゅうへい)は夜の10時を過ぎた頃、ようやく塾での自主学習(とは言っても半ば強制的なのだが)を終えて独り言をつぶやいた。

さて早く帰るかと思い、手早く荷物をまとめるとそそくさと塾を後にする。




愛車の自転車にまたがり、毎日が勉強漬けという現実から

「推薦が取れた先輩は遊んでばっかだったのになぁ~。でも俺は推薦が取れなさそうだし。」

「川で溺れた子供でも救って、警察とかに表彰されて、テレビにでも出れば一発で推薦取れねぇかな~」

そんなことばかりを考えて家路(いえじ)を急ぐ。



「キシャー!!!ギャキャー!!」


突然、閑散(かんさん)な住宅に猫の大きな鳴き声が走った。

酷くうるさい猫だ。どこかの猫が盛(さか)っているのか?


多少うるさいがよくあることだ。そう思った隆平は無視をして自転車を走らせる。



「キシャ!キグふhyふれっgyぎぇ」


一際大きな猫の鳴き声が辺りにこだますると、シィンと静かになった。


「あれ?」

隆平はそこでようやく異様な状況に気づいて自転車を漕ぐのを止める。

「そういえば、学校で猫を殺してる変質者がいるから気をつけるようにって先生に言われてたっけ」


逃げるか。


いや、


ここはヒーローになるチャンスじゃないのか?


そうだ。


ここで犯人を捕まえられたら表彰されるんじゃないのか?



隆平は近くに音を立てないように自転車を止め、スマートフォンを取り出してすぐに110番を押そうとして気づく。


「今通報して、もし勘違いだったら?」

そんなの赤っ恥だ。いや、そんなことよりも親や警察に怒られ、友人間にウワサされて笑わい者にされる方が嫌だ。


犯人を見てから通報しても遅くないか。

そう考え、鳴き声がした暗い路地裏へと隆平は歩を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る