1回裏「他人の年棒が気になる」

 俺はバリントン、バーラキ・ゴールデンコンドルスで抑えをやってる魔法使いだ。

 コントロールの良い炎魔法を武器にしている。


 今シーズンの成績が悪くないにもかかわらず、年棒を下げられたので、一回目の契約更改では、サインをしなかった。


 翌日の新聞の片隅には「バリントン契約更改サインせず!」と出てしまった。できれば救団の心証が悪くなってないといいのだが。


 そもそも来年はうちの救団に、大物がFAで入ってくることが確実視されている。

 ビッグバン・オックスのイーアラ勇者だ、明らかにイーアラ勇者の年棒が高額なので、末端の勇者の年棒に影響を与えてるのではと俺は見ている。


 そして、今日は俺が所属するチーム5人と酒を飲むことになっていた。


<居酒屋「カゲトラ」にて>


「俺なんか20%減だぜ、10%なら、ましだよまし。」

 目の前で豪快にビールを飲んでるのは、うちのチームのリーダーである10年目のドーダイ勇者である。腕力が素晴らしく、自分の背丈位の大剣を振り回して敵をなぎ払う。

 しかし、今シーズンはケガが多く、2軍落ちがおおかったため、大幅にSPセーブを減らしてしまった。それでも、フル出場のバリントンと同数のSPを稼いだ。セーブポイントはとどめを刺した数のことだ。

 ドーダイは今シーズン推定年棒30万G(※およそ3000万円)。


「ドーダイさんは下がっても仕方ないじゃないですか。大体今年のうちの不調はドーダイさんがケガするからですよ。おかげで、おいらは現状維持っす。」


 そういったのは、水魔法の使い手の5年目、サークル勇者だ。水魔法で壁を作り、敵の攻撃を防ぐいわゆる守備職人である。

 守備職人はセーブが稼げないため大きく年棒が上がることはないが、貴重な水魔法使いなので、大下がりすることもない。

 推定年棒20万G。


「ドーダイさんケガしちゃうと、打撃力が圧倒的に減るんですよね。代わりに入ってきた二軍のやつは全然使えねーし。」


 シェリー酒を飲んでるのは、3年目のショーツカ勇者。

 弓矢による足止めをするのが主な仕事だ。

 主に目か足を狙い、敵モンスターの動きを封じる。そこを、俺の火球をぶつけるか、ドーダイが切りつけることでとどめを刺す。

 

 うまく、足止め出来た場合には、HPホールドがつく。今季のシーツは40ホールドしてるのでなかなか優秀である。

 年棒6万Gだが、さすがに今季は倍増以上になるだろう。


「ドーダイさんはセーブ欲しいからって、突っ込み過ぎなんです。私の回復はほとんどドーダイさんに使ってるんですよ。しかもドーダイさん2軍落ちするから、私の評価まで落ちるんですよ!」

 チームの紅一点で、5年目のハイエルフのマユミ勇者。回復魔法担当で、このチームでは主にアタッカーのドーダイを回復させることがほとんどの仕事になる。

 

 回復させた回数が多ければ評価が上がるが、チームの勇者が、入院か二軍落ちした場合は評価が下がってしまう。最悪、死者を出した場合は、守備役と回復役の評価は大きく下がるので、ドーダイみたいな死にたがりを回復役は好きではない。

 

 ハイエルフは基礎年棒が高いので年棒は20万G、しかし来シーズンは下手すりゃ30%減になる。


「それにしてもバリちゃんの年棒は低すぎるよね?だって、セーブの数はドーダイさんと同じで稼ぎ頭なのに、9万Gとかってなめすぎっしょ?」

 マユミねぇさんはビール片手に、声を荒げていった。


「やっぱ、外人選手に厳しいんすかねぇ、うちの救団。」

 ショーツカも他球団とのトレードで来たのでやはり評価が低めだ。


「だいたい、今更イーアラ来たって、あいつもう年だろ。年棒泥棒になるんじゃねーの?」

「ちょっと、ドーダイさん声が大きいっす。」

 俺は、慌てて止めた。ここ「カゲトラ」は救団関係者もよく来る飲み屋なのだ。


「いや、いわせろ!同期なのに気に入らねぇんだよ。」

 ここの支払いはドーダイさんなのでなかなか強く言えない。


「そもそも、勇者アサヒが参戦してきたから、今年はダメなんだ!!」


 こんな風にして俺らはいつも、救団の愚痴を言い合っている。


 さて、明日は2回目の契約交渉だ!







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