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 初恋とは多分、俺の場合はシスターだったんだろうと思う。

 幼い頃俺は教会の隣に住んでいた。教会は児童養護施設も併用していて、いつも子供が敷地内で遊んでいたのを覚えている。神父は白人の優しそうな人で日本語はちょっとカタコトだった。

 そこには子供たちの他に二人のシスターがいて、五十代くらいの少し気の強いおばちゃんシスターと、いつもにこにこ笑っている二十代のお姉さんシスターがいた。確か名前はシスターチヨと言っていたと思うけど、子供たちがみんな“お姉さん”と呼んでいたから、同じように呼んでいた。

 その頃の俺は幼稚園から帰ってくると、すぐに隣の教会に行っては子供達に混ざって遊んでいた。遊具は少ししかなかったけど、ブランコをしたり、滑り台をしたり、本を読んだり、絵を描いたりして凄く楽しかった記憶がある。同世代の子供達とも遊ぶのが楽しかったが、お姉さんと遊ぶのも楽しかった。

 お姉さんは少しそそっかしくてドジっ子で、子供たちと同じように遊んではおばちゃんシスターによく怒られていた。

 えへへ、と笑う顔がドコか少し悪戯っぽくて、ドキドキした。それに何と言っても優しかったし、温かかった。母とは違う、それでいて同じような愛を感じていたのだと思う。

 小学校三年生になる春、俺は急に引っ越すことになった。父の仕事の関係でどうしても行きたくないと泣いたが、幼い自分が何を出来るわけでもなく泣いて泣いて挨拶をしに行った。別れを告げると子供たちも同じように泣いて手を握り返してくれた。

「おねえさん、いままでありがとう」

 ぐずぐずと泣きながら言うと、お姉さんはにっこりと笑って「私もありがとう」と抱き寄せてくれた。それから「いつでも帰って来ていいのよ」とも。

 それから歳を重ねて大きくなって、あれが初恋だったんだろうと思った。俺の幼少期にはお姉さんとの思い出が色濃く残っていたから。

「今度帰ってみようかな」

 ふと独り言を零すと「お待たせいたしました」と目の前に一皿サーブされた。楽しみにしていたモンブランだ。

「ん~んまい」

 高校卒業と同時に俺はこっちへ帰って来ていた。教会までは店から電車一本の距離。また今度、足を運んでみることにしようか。


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