初恋は木になるか
カゲトモ
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「ほらほら、この間あたし結婚式行ったじゃない? あの二人ね、じつは初恋の相手同士なんだってぇ!」
「えー! ウソ! 初恋が実ったってこと!? すごーい!」
「ね! ね! 凄いでしょ! あたし二人のこと小学生の時から知っているんだけど、付き合ったのは成人式で再会してから何だって」
「へぇ~それでそれで!」
店の定休日には勉強も兼ねて色んな場所へ赴くことにしている。今日は半年前に新しくやって来たアザラシを見に水族館へ行ってから、ランチとしては少しばかり高いフレンチレストランへやって来ていた。
俺の目の前にあるのは、今さっき運ばれてきた鴨のコンフィ。一口食べた感想は「あぁ、やっぱりうまい」だ。ここのオーナーがうちの店の常連さんって言うのもあるけど、料理が本当に美味しくて、季節ごとに通うようになっていた。
秋限定の“和栗の渋皮煮モンブラン”は絶品で去年は二回も通った。今年はさらに改良して口当たりが良くなったと言っていたので、今からデザートが楽しみだ。
「でね、プロポーズの時にね、ふ、ふふふ」
「え、ちょっと何よ! 気になる気になる!」
気になる気になる。
料理に舌鼓を打ちつつも、ついつい隣の席の女性二人組に耳がダンボ。一人でいるからか、つい周りの会話を聞いてしまう。いや、ある意味職業病かもしれないが。
「プロポーズの言葉は凄く良かったんだって。でもね、指輪をね、こうパカッて開けたんだけど」
うんうん。
「そしたらね、そこには指輪が入っていなかったんだって!」
えー! なんだそれ!
「何か前の日に嬉しくなって指輪を取り出して眺めていたら、そのまま置いて来ちゃったんだってさ!」
「ゴホッ」
付け合せのブロッコリーが詰まって咳き込んだ。女性の声が一旦止んだがすぐに会話が再開される。
「ねーあり得ないでしょ? 一生ネタにされるよー」
うん、それはされるだろうな、確実に。そんな面白エピソード。きっと俺も一生忘れないもん。
「でもさぁ、初恋が実ったってすごくロマンチックだよねぇ」
まだ調子の悪い喉を水で潤して息を吐いた。
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