ワンフレーズのファンレター
MaCy
一通目
「昨日のテレビ見た?」
「見た見た!RENって本当にカッコイイよね!」
そう言って並びながら大声で話してる女子高生の後ろで私は携帯の画面に映ってるアーティストを眺めていた。
「ライブに行きたいなぁ……」
声ならぬ思いを口にしても二週間後に地元のホールで行われるRENのライブには行けないという現実を直視するしか無かった。
RENはここ数ヶ月で若者を中心に爆発的な人気を醸しているシンガーソングライターだ。
齢は16と私と同い年なのにこれ程違うものなのかと、それがきっかけでファンになった。曲調はどちらかというとバラードだが力強い歌声によってなんとも言えない魅力を醸し出している。顔はパーツが綺麗に整っており、誰もが口を揃えてカッコイイと言うほどだ。おまけにギターもプロと競えるほどの腕を持っている。
要するに超人なのだ。
それもあってか、巷では《神の生まれ変わり》と呼ばれている。
そんなRENは、二週間後に私の地元でデビューからドームツアーまでの最速記録を大幅に塗り替えたライブを控えている。全てのライブチケットが3分もかからずに完売してしまい、違法オークションでは軽く十倍以上の値がついている。そんなものにただの学生の手が届く訳もなく、急いで携帯の画面を本日の一時間目に控えている小テストの問題を写した写真にスライドする。
しかし、当然諦めることは出来ずお昼休みまでの授業は上の空だった。
お昼休み、私の定位置である屋上の貯水タンクの上にピクニックシートを引いたテリトリーに落ち着いた。お昼ご飯の購買で買ったおにぎりを取り出し頬張りながら景色を眺める。
下のグラウンドでは、男子のサッカーボールを追いかける活発な声が響いていた。
遠くを眺めると二週間後にRENのライブが行われるドームが小さく見え、私はさらに肩を落とし寝転んだ。
どうしようもない気持ちのやり場に困っていた私はどうすればいいのだろうとただ雲が流れゆく空を見上げていた。
予鈴が鳴ったので帰ろうとした瞬間、私は一つを思い起こした。
そして私は机に便箋とボールペンを出し、自分の想いを綴り始めた。
「私はあなたと同じ16歳です。ですが、あなたと違って特筆した才能もなく何か打ち込めることがないただの学生です。あなたの同い年とは思えないほどの魅力に呑まれてその時からあなたに憧れてここ数ヶ月過ごしてきました。……」
暫く書いていると、その時英語の授業で見ていた映画のワンシーンに目が止まった。
そして、そのフレーズを手紙の最後に書き留めた。
「……私はあなたに憧れ、そして近くで見ていたい。ライブも出来るのであれば生で見たかった。でも私には出来ないからこの言葉に想いを込めます。
Until now I have been looking for you.」
そして家に帰り封筒に切手を貼りポストに入れた。
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