バベルの塔
『バベルの塔』。セムが話した通り、このクリエイティブ・プレイ・オンラインが正式リリースされる四ヶ月前から三ヶ月前までの一ヶ月間、ベータテストが行われた【エリア】だ。
ベータテスト終了時点で、地上百階地下五十階の構造を誇り、今尚その階層は増加している。
外の【エリア】よりも強力な生物やフルールが配置されており、ベータテスターの高いレベルや有能なアイテムはこの『バベルの塔』の探索によって得られた物が殆どだ。
「んで、後続プレイヤーもここに入れるようになったし、おれらも踏破階層を更新しようと思って、攻略組が集まるのを待ってるのよ」
セムが案内したその場所は広々としていて、エントランスという呼称が相応しい。
受付の向こうは無人だが、呼び鈴を鳴らせばNPCが出て来て案内してくれる筈だ。それから受付の上には魔術で投影された映像が、何種類か切り替わって映し出させれている。
その映像は、この施設のメイン会場、各種ランキングの上位者、バベルの塔の攻略状況等だ。
メノは、小さな妖精のシャナに耳を引っ張られて行き、
その他にも、既にバベルゲートゴーレムを倒したパーティーが二組程見受けられた。
「ちなみに、ゴーレム倒したんはお前さんが五組目らしいぞ」
「ふーん」
セムが仕入れた情報を伝えるが、巧の首に寝そべったユウは興味が無さそうだ。
そんなユウの首根っこを掴み、セムは自分の顔の前まで持ち上げた。
「つ、ねーやんはこのまま攻略行くけど着いてくるか?」
首の皮をセムに摘ままれて弛ませたユウは、器用に首を捻ってベータテスター達を見る。既に六人程のプレイヤーが其処に見えた。
「いー。にじょーと一緒にあそぶー」
「そかそか」
ユウが不貞腐れたような返事をするが、セムは慣れているのか鷹揚に頷き、手にしたユウを巧に手渡した。
巧が腕にユウを抱くと、自堕落な猫はそのまま体を丸めて居心地の良い体勢になる。
「あ、いいなっ! 私もユウちゃん抱きたい!」
「だからお前は止めろって言ってんだろ、メノ!」
メノがまた騒ぎ出すが、その突撃が敢行される前に弥兵衛が止めてくれた。
セムがやれやれと首を振る。
「取りあえず一番ゲート出て、ネズミ探してみ。いいことあるから」
「ねずみ……ですか?」
セムの提案に、巧ははてなと鸚鵡返しした。
それは、マンスアニバーサリーで解放された新設備の一つなのだが、まぁ、この未言屋達に良識を期待するだけ無駄か。
「む。なんかかしこに未言屋をバカにされた気配を感じた」
そんなところばっかり鋭くなって行くんじゃない。もっとしっかりするべきところが沢山あるだろう。
巧はユウを抱いたままセムに頭を下げて、その場を後にした。
セムに言われた通り一番ゲートを目指そうとするのだが。
気が付けば、二十分程、其処等を歩き回り、地図を発見してはじっと見詰め、そして一番以外のゲートばかりを通り過ぎる。
今、右手に見えたゲートの上には、『13』と書かれていた。
「ひ、広いっ」
「にじょー、散歩か? これいつものわん娘の散歩か?」
「うぐっ」
このわん娘、常日頃から大学に自転車で行ったのを忘れて帰りに歩いたり、角を曲がれば着く所を道なりに歩いて遠回りしたりしているらしいからな。それを何時も散歩は好きですから、と、にこやかに返す辺り、紛れも無く変人の類いだ。
「申し訳ありません、店主様……」
「いや、急いでるわけでもないから、気にするな」
そもそも其処の猫は歩いてすらいないから、謝る必要等微塵も無いと思うのだが。
[ちなみに、めっちゃ遠回りしてるぞ]
[四、五回くらい、そこ曲がれよってポイントがあったな]
[なんかかわいいから、気付くまで黙ってたのに、なんで話しちゃうのよ]
「おお、二条が皆さんにからかわれておる」
「なるほど」
巧、なるほど、じゃない。納得するな。
[あと、つー。さっき伝え忘れてたんだけど、魔女って30レベでカンストだぞ]
「え、そうなの?」
[ベータテスターにも魔女持ちいたからな。確実]
「りょ」
[コメント越しで会話すんなおまえらwww]
巧に運ばれて暇を持て余していたユウは、呑気にセムと会話をしている。だからチャット機能なりフレンドコールなり使えと言うに。
「そかー。じゃ、わたしもジョブチェンジしないとなー」
[魔女がさらに凶悪な上位職になるのかよ……]
[落ち着け。〈魔女〉の段階でもう恐怖でしかないんだ、手遅れだよ]
[〈魔女〉、ていうか、魔法・魔術系統もバーサスタイプ豊富だからねー。選ぶのは楽しいけど大変かも]
ユウは巧の腕の中で、目の前にシステムメニューを開き、尻尾で弄って【バーサス・プレイ・タイプ】の検索を始めた。
尚、巧は足を止めずに進んでいる。このわん娘、周りを見て位置確認しないから迷うのではないか?
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