魔法系統の【バーサス・プレイ・タイプ】

 カウチェイスを殲滅して、メノと別れた一行はのんびりと歩いて南にあると言う【アーキタイプ】の《聖域》を目指していた。

 その途中で、セムがウサギ型フルールをトラップで駆逐したり、ユウの《流転する影衣かげえナゼラ・ルル》が勝手に高レベルフルールを発見して接近前に駆逐したりしている。

[安全マージン取りすぎだろ、こいつら]

[オートでエネミー倒して経験値入るって、チートだろ]

[パワーレベリングし放題だな]

『お陰で私の魔道士レベルも三つ上がりましたよ』

 ログインしながら動画を見ていた生糸は、コメントに応えて小躍りしながら自分で書いた文字を掲げて私に見せてきた。

 それに対して、コメントで怨嗟が炎上する。

「そいえば、生糸さんの〈魔道士〉ってどんなクラスなの?」

 ユウがそんな今更な疑問を私に投げ掛けてきた。

「〈バーサス・プレイ・タイプ:魔道士〉は、〈魔法使い〉や〈魔術師〉に並ぶ魔法系の初期【バーサス・プレイ・タイプ】で、誰でも取得しやすい」

「ほほーん? その三つの違いは?」

「その三つは、正確には取得する【スキル】が異なる。〈魔道士〉は〈魔道〉、〈魔法使い〉は〈魔法〉、〈魔術師〉は〈魔術〉の〈スキル〉を取得する」

[なるほど。取得する〈スキル〉が特徴をわけてるのか]

 ユウが指を三本立てて、くるくる回して矯めつ眇めつしている。

「かしこさん、そのこころは?」

「……」

 なんだかもう突っ込む気にもならなくてユウに呆れを籠めた視線を送るが、ユウは真っ直ぐにあどけない瞳で見返してくる。

「〈魔法〉は感覚や共感で行使され、〈魔術〉は知識と論理で構築される。それに対して〈魔道〉は呪文や道具、動作に予めセットされてその約束事の元に発動する」

 例えば、指を鳴らすという動作に『火を起こす』という〈魔道〉をセットというように。

 センスがなければ使用出来ない〈魔法〉系のスキルや、構築のために知識を詰め込まなければならない〈魔術〉系スキルに比べて、自分で好きなように設定出来る〈魔道〉は使いやすいだろう。

[それ、使うんだったら〈魔道〉一択じゃね?]

[ところがどっこい、同じように魔法系バーサスタイプ取ろうとしても、人によってなにが当たるかわからないんだなー]

[まじかよ]

[まじまじ。〈魔法使い〉と〈魔術師〉と〈魔道士〉は取得条件被ってるのがもう検証されてるから]

[確定でほしいなら弟子入り方式だけど、この世界では〈魔法〉も〈魔術〉も〈魔道〉もアートタイプなので、あとはお察し]

[【発見困難】どうやって探すんだよ、そんなNPC。絶対秘境にいるだろ【非効率】]

「魔法もそんなに難しくないですよ? ほら」

 ユウはコメントに反証を示す為に、魔女の魔法で掌に炎を焚いた。

[自分はチートだと理解しろください]

[魔女の恋人は人外だからノーカン]

[遥ちゃんはおとなしく話聞いててねー、参考にならないから]

[ラスボスは初期魔法を最上級魔法の威力でぶっ放せるんだもんなー、そりゃ初期魔法とか簡単よなー]

「皆さんがひどい……」

「諦めろ。ジゴウジトクダ」

 くすんと涙を指で拭う振りをしたユウに、セムが容赦なく追撃をかけた。

 ユウが不平を示すように、ぱんぱんとセムの肩をはたいている。

 こやつらは無視するか。

「〈魔道〉にもデメリットがある。それは、魔道の効果は一定だという事、そして大きな効果をもたらす〈魔道〉にはより困難な約束事でしか結び付けられない事だ」

 〈魔法〉は感覚で威力調整が出来るので、三つの中では一番応用が利く。〈魔術〉も論理に合わせて術式を調整が出来る。

 しかし〈魔道〉はAを行えばBという効果が出るという仕様なので、融通が利かない。

『初心者向きの〈魔道〉、天才仕様の〈魔法〉、勉強が必要な〈魔術〉って感じですかね』

「そんな認識で間違ってないだろうな」

 生糸が私の説明を簡潔に纏めてくれた。おかしいな、言葉を話さないプレイヤーが一番真面なのはどういう理屈なんだ。

「つまり……生糸さんのそのペンは、空中に文字を書くためだけの魔道具?」

『その通りですよ、紡岐さん!』

 なるほどねー、とユウは生糸の書いた文字を突っついた。

[ところでみんな気づいてるかな?]

[お、どうした、解析くん。言ってくれよ]

「ん、解析さん?」

 神妙な語りだしを始めた常連視聴者のコメントに、皆が目を見張る。

 その中で彼は論証を立てた。

[遥ちゃんは、〈魔法〉と〈魔術〉のアート・プレイ・タイプを持ってて、《異端魔箒》という魔道具を持ってる訳で]

[……おい、この魔女の恋人、何気に魔法系スキルコンプしてんじゃねえか]

[ついでに言うと、どれもスキル持ってなくて使ってるね]

[チート……圧倒的チート……]

「み!?」

 糾弾されたユウは、わたわたと私とセムと生糸の顔を順番に見回して、違うよね、違うよねという雰囲気を出している。

「運営から言えるのは、まぁ、そうですね、というだけだな」

「便利屋つむー」

『紡岐さん、いつもお見逸れしてます』

「にゃー!?」

 三人各々から有罪判決を受けたユウが声を張り上げて空まで届かせた。

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