とりあえず駄目出し

 魔女の箒が、前回にユウ達が移動を中断した森の側で地表に降りた。

 此処は何の変哲もない、前回にユウの就寝時間が来たというだけで途中になった場所だ。

「んでも、ちょうどよく森ね」

 《異端魔箒》を【ストレージ】に仕舞ったユウが森を見て独りごちた。

「ん?」

 そして、それと同時に、ユウの【ストレージ】から《魔蜂》の分封群が一部、勝手に出て来て宙に飛び交う。

「わ、わ、蜂さんを出してどうされました、店主様?」

「わたしが出したんじゃなくて、勝手に出たの。あとあからさまに距離を取らないでよ」

 ユウの回りに集る《魔蜂》に怖じ気付いて、巧はそそくさと木の裏に逃げ込んでいた。

「だって、刺されたらこわいですよぉ」

「刺さないってば。蜜蜂は毒針使ったら死ぬんだからな?」

 全く仕方がないとユウは溜め息を吐いた。

 そんな二人を尻目に、《魔蜂》達がそれぞれバラバラに、目の前の森へと入っていった。

 早速、新しい棲み処の探索に乗り出したようだ。

 千を越える個体が森へ消えても、ユウの周りに旋回する群れは些かも見劣りしない。

「分封してるだけで何匹いるんだろ?」

 【化け猫】の姿に換わって、そのAGI敏捷でわん娘の首根っこを掴んで捕らえたユウが、《魔蜂》の途方もない大群の数に呆気に取られていた。

 そうして《魔蜂》を見送って待っている間に、セム達がログインして来る。

「やっぱ、つむむがいると移動が楽だなー」

「ですねっ」

「紡岐さん、お疲れ様です」

 此処にいないゆらはログイン時の宣言通り、魔女の家がごろごろしている筈だ。気儘な飼い猫生活を満喫しているのであろう。

「で、蜂が飛んでったんか?」

「うん、たんさくちゅー」

 セムに訊かれて、ユウが気の抜けた返事をする。

「うにゃ?」

 ユウが手首の辺りに擽ったさを感じて見ると、其処に毛がなくなり黒光りする素肌を見せる分封群の女王蜂がユウの腕を這っていた。

 ユウが彼女のいる右腕を目線まで上げた。

 じっと見詰め合う。

「え、この森はだめ?」

 女王蜂からテレパシーで情報を伝えられて、ユウが鸚鵡返しする。

[つか、なんでこの魔女の恋人は蜂と交信できてるんだ?]

[A:ORAの能力値が高いから]

[このゲーム、不思議なことは、《魔女》か未言かORAが原因だと言えばいいと思ってるだろ]

「そこに未言を足さないでいただけますか!?」

 ユウがコメントに憤慨して叫んでも、周りからは生温い視線を向けられている。

 しかし、その言を取ると、ユウは不思議の塊か。……こやつは不思議の塊だな。

「まったく……。ああ、でね、なんかこの森は蜜源になる樹木が少ないからいやだって」

 一発目から論外と駄目出しを《魔蜂》から受けた事を、ユウが報告した。

「あー、もっと南のがいいんか?」

「お花が多いとこ……花の女神様の故郷に行ってみます?」

 セムとキャロが思い付きを提案する。

「そーねー。ちょっと遠いし、わたしだけ飛んで来るかぁ」

「んじゃ、つむぎーるが《魔蜂》がいいって言うとこ見つけるまで別行動するか?」

 当てがない以上、場当たりで探すしかない。

 そうなると、機動力のあるユウが単独で捜索した方が、固まって歩き回るより断然効率が良い。

 自然、ユウとセムは同じ結論に至った。

「えー、店主様とお別れですかぁ?」

「紡岐さんばかりが何時も労苦を負ってませんか?」

 巧が寂しそうに、悠が申し訳なさそうに眦を下げる。

 それに対してユウはひらひらと弛く手を振った。

「いいんですよー。紡岐さんは独りが好きですし」

 むしろ好んで独りの時間を楽しむと、ユウが宣言する。

 そうなると、他人が押し止める謂れも持てない。

「じゃ、動画見てますね」

「おれらは、このまま北に進むか」

「うぃうぃ。よろー」

 リアルでも慣れたユウとセムとキャロの三人で方針を固めて、すぐに行動に移す。

 さて、クロリスがいた森に行くのもあの時以来か。主がいなくなって、どうなっているやら。

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