ネコって放任主義だから

 王は寛大だ。

 猫の女王たる彼女は、ノルウェージャンフォレストキャット辺りの品種なのだろうか、かなり大柄で、今のユウの体格の半分程もある。

 その豊富で豪華な毛並みに背中から抱き着いて、ユウは顔を埋めて頬擦りしていた。

「ふわふわっ、つやつやっ、もふもふぅ♪」

 ユウの手に脇をまさぐられても、尾をしごかれても、猫の王は泰然としている。見事に動じていない。

「ねぇ、太夫、この子で平気なの?」

「王様、この『コミュト』で出来るもんは、たちが悪いと相場が決まってるでありんす」

「あぁ……。そうね、貴女と親しい筈なのに忘れていたわ。ダメね、私も」

 確かに、《化け猫》のいう通り、原住民で言えば《魔女》とか《女帝》とか此の《化け猫》とか碌でもない【アーキタイプ】ばかりだし、ベータテスターは纏めて気違いの集まりだし、敵味方見境なく吹き飛ばす〈トリックスター〉はいるわ、敵味方見境なく【魅了】して狂わせる〈吟遊詩人〉はいるわ、始末に悪い。

 管理側はまともな性格している者――いや、蛇とか虎とか猿とか鼠とか兎とかも大概か。あやつらが意図的に手を加えているんじゃなかろうな。

 だが、それにしても猫の女王にしがみついて離さないこのバカ猫は酷い。

「悠、巧、今度から好きなだけユウを撫でて良いらしいぞ」

[本当ですか、店主様っ!!]

「ちょっと、紡岐さんそんなこと言ってなくってよ、かしこさん!?」

 自分が他人を撫でるのは良くて、他人が自分を撫でるのは拒否するとか、どんな了見だ。

「ねぇ、撫でながらで構わないから、そろそろ話をさせていただいてもよろしくて?」

「みっ」

 ユウは短く鳴いて、女王の頼みを了承した。但し、彼女を手放す気は全くなさそうだ。

「太夫、この子を家の息子やあちらの娘さんに差し向けて、本当に大丈夫なの?」

「犬はダメやよって、あちらさんは平気でありんす」

「はぁ」

 大事な息子の安全を言外に諦めろと告げられて、女王は深く溜息を吐く。

「仕方ないわね。家の息子やあちらの娘さんが行方知れずなのは知っていて?」

 女王の確認に、ユウはこくりと頷いた。

 背後から抱き締めま体勢で、声も使わずに頷いただけで伝わると思っているのか、こやつは。

 しかし、女王もそれは話の取っ掛かりとしか考えていなかったらしく、話を進める。

 曰く。

 女王の息子であるアンサムと、クー・シーの姫とは、元から仲が良く度々一緒に遊んでいたそうだ。

 一週間程前も、アンサムはクー・シーの姫と遊びに行くと出掛けたらしい。それは何時もの事なので、女王も配下も特に気にせずに見送ったそうだ。

「え。息子さんに護衛とか付けなかったの?」

「私達は種族まとめて放任主義なのよね」

「あー、はい」

「それで、二、三日顔見ないかなと思っていたら、クー・シー達が二人が失踪した、お前達が拐ったのだろうと乗り込んできたのよね」

[放任主義ってレベルじゃねえぞ!?]

[ネコは独り立ちしたら、自由行動だからなー]

[【コミュトは、有能な人物は気違い】双緒太夫の言ってたことが例外なく当てはまってるな【アンタもだよ、女王様】]

 流石に、これにはユウも頭を抱えた。此方のバカ親は過保護だからな。

「えーと、それで、その後は?」

「クー・シーは追い払ったわ」

「いや、そうではなく」

 ユウが矢継ぎ早にツッコミを入れると、女王はきょとんとオッドアイで見返して来る。

「息子さん達の行方の手掛かりとかは?」

「ないわよ」

「ないのっ!?」

「ないわよぅ。私は、皆に此処から出していただけないから、探しに行けないんですもの。だから、太夫にお願いしたのよ」

「それでわっちは、主様を頼りにしたでありんす」

 見事なまでの他力本願の盥回たらいまわしだ。挙げ句の果てに無関係な【魔女】を【化け猫】に変えたのだから質が悪い。

[その過保護さは王子様に見せるべきではないのか]

[ネコは多産だからな]

[えっ、そういう話なの?]

「……あの、いなくなった息子さんって、ご兄弟は?」

 コメント欄を埋め尽くす視聴者の疑問を、ユウが恐る恐る代弁する。

 女王は丸っこい前足に頤を乗せて、一秒足らずの間、思案を巡らせて。

「去年生んだのは四匹で、えっと、もう何十匹目かしらね? あの子だけやけにクー・シーと仲いいのよね」

 がくりと、ユウが柔らかなカーペットに崩れ落ちた。

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