『100コのこと』番外編置き場

兎谷あおい

井口慶太の週末(9月16日)

 # # #


 9月16日。土曜日。


 朝。悪夢で目が覚めた。

 どんな悪夢かって?

 100人の後輩ちゃんあくまが俺を取り囲むように迫ってくるのから、ひたすら逃げる夢だよ。

 「せんぱい、教えてください!」 「今日もごいっしょですね」 「わたし、気になります!」

 奴の声が、360°サラウンドで聞こえて、こだまみたいにリフレインして、もうほんと死ぬかと思った。

 トラウマになるわ……って、なってるのか。なってるから夢に見るんだよな。


 と、だいぶ涼しくなってきたにもかかわらず、冷や汗たっぷりで目覚めた俺は、重要なことを思い出す。

 夢で見ちゃったから、もしかして今日もあいつに付きまとわれるんじゃないかって感じだけれど、今日は土曜日だ。ふつう、土曜日に学校に行く必要はないものと、相場が決まっている。いや、運動部の連中とかがどーだかは知らないけど、少なくとも俺は行く必要がない。

 なんなら、今週の週末は、月曜日が敬老の日なので3連休である。


 そして――これが一番大事なことだが、俺は、彼女後輩に連絡先を教えていない。彼女が俺について知っていることは、最寄り駅と、名前と、課外活動だけのはずだ。本人がそう言ってたし。

 だから、この週末、家から出さえしなければ――俺は、平穏な週末が過ごせるはずだ。


 よし、決めた。俺は、この3日間、家から一歩も出ない。

 最寄り駅まで歩いて行くなんて、もってのほかだ。


 そうと決まれば、何をしようか。

 教師陣も夏休み気分が抜けてきたのか、ちょくちょく宿題も溜まり始めている。

 この3日間のうちに、できるだけ片付けてしまった方がいいかもしれない。


 うーん。でも、まだ、勉強する気にはなれない。

 スマホをいじりながら(ちなみに、電車の中では意図的に封印している)、今日の予定を考える。


 お。イカを操作してシャケを倒すゲームがアップデートするって?

 なになに。新しいブキが追加、と。超強いって?


 そういえば、夢の中で後輩ちゃんに囲まれたの、このゲームの影響もあるかもしれない。

 なぎ倒せるのは爽快で、気分も晴れるだろう、ついでに、厄払いしよう。




 この後、めちゃくちゃ(10時間くらい)ストレス発散した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る