映画『ダンケルク』冒頭シーンを勝手にノベライズ

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映画『ダンケルク』冒頭シーンを勝手にノベライズ

 フランス・ダンケルク街の市街地。雪が舞い降るがごとく、曇りの空から赤いビラが大量に降っていた。

 そのすぐ下で軍服に身を固め、エンフィールド・ライフルを背負った男たちが身を屈めている。

 爆撃ではなくてほっとしたのもつかの間、男の一人がビラをキャッチし、広げるように持った。


 そこには此処、ドーバー海峡にあるダンケルクの地図と


『包囲した。降伏せよ』


 という不吉な言葉とともにダンケルクを囲うように赤い矢印が浮かんでいる。

 わかってはいたが、いざこうやって現実を突きつけられるとげんなりとする他なかった。

 男はジャンプし、もう一枚ビラを取ると茂みの中に用を足しに行った。


 ズボンのベルトに手をかけたトミー二等兵は辺りを見渡す。赤煉瓦でできている市街地は、住人の退避が完了しており、ここぞとばかりに英陸軍兵士は街の中を物色している。

 一人は蛇口から伸びるホースに口をつけ申し訳程度に出る水を飲んでいたし、一人は民家の窓をいささか乱暴に開け手を突っ込んでいた。

 吸い殻シケモクを探しているのだろう。たばこはストレス社会の戦場にはもってこいの代物だ。


 その時、銃声が響いた。

 トミーは漫画のように飛び上がり、周囲を見渡す。先刻、シケモクを探していた兵士が赤黒い液体を流しながら倒れていた。

 敵襲だ。


 トミーを含めた兵士たちは一目散にビーチ方面へと駆けていった。

 その途中、独軍の銃撃で一人、また一人と倒れていく。トミーは全速力で走った。

 木製の塀を命からがら登り、背中に手を回しライフルを持つ。

 ボルトを引こうと動かしたところで、焦りで手元が狂いボルトが動かなくなった。弾詰まりジャムだ。


 手汗でベットリとなった指でやっとこさボルトを戻す。すぐさま振り向き、塀越しに撃った。

 ボルトを引いて排莢し、もう一発。さらにもう一発。


 しかし機銃の爆裂音でトミーは再び飛び上がり、ライフルを落として走り逃げる。数にも装備にも格段に上を行く独軍。勝てる相手ではないと思った。


 塀を乗り越えゴミ箱の横に着地したところで、再び鋭い金属音が連続して轟く。フランス軍の銃撃だ。

 くそったれフランス兵め。

 トミーはそう思い、


「イギリス兵です! 撃たないで!」

 と全身を声にして叫んだ。

 銃声が止み、トミーはゴミ箱から頭を少し出した。硝煙の向こう、砂袋のバリケードの向こう側でフランス兵の一人が荒々しく手招きしている。

 走り寄り、自分よりガタイのいいフランス兵にバリケードに引き上げてもらった。


 その兵士は口を歪めてヤニで黄ばんだ歯を出すと、

「ヘイ、ボンボヤージュ」

 と突き飛ばすようにトミーをビーチ側に追いやった。


 トミーはビーチへ走った。背後で銃声と兵士たちの怒号、悲鳴が聞こえる。それでも走る。生きるために。

 この先僕らはどうなるのだろう? どこに向かうんだろう?

 そんな疑問が頭を過ぎったがなおかつ走った。

 その先にさらなる地獄が待っているとも知らずに。

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