忘れたの?

紀之介

君が。。。

 目の前には、ヴァージンロード。


 緊張している私は、隣のお父さんの腕に縋り付く様に歩きます。


 進む先には、彼が微笑んで立っていました。


 祭壇の手前で、立ち止まる私とお父さん。


 一歩踏み出した彼が、手を差し出します。


 お父さんがその手を固く握り、交わさる握手。


 今にも泣き出しそうなお父さんの横から、私はゆっくりと 彼の隣に移動しました。


 腕を絡めながら、感極まって囁きます。


「幸せ過ぎて…夢みたい」


「─ これは、君が見ている夢だよ」


「え…?」


「お父さんも僕も…君がバラバラにした事、忘れたの?」


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 夢から覚める私。


「はい、起きて、起きて!」


 居間のソファで居眠りしていた身体を揺らしたのは、旦那様でした。


「準備が出来ました。お・く・さ・ま」


 促され、はっきりしない頭でテーブルに向かいます。


 先に向かいの席に座った旦那様は、何か言いたげに私を睨みました。


「結婚3周年の料理、結局 僕が1人で作ったんだけど!?」


「…ジャンケンに負けたんだから、仕方ないよね?」


「少しぐらい手伝ってくれても、バチはあたらないんじゃないかな。」


 旦那様の機嫌を直すため、私の手がワインの瓶に伸びます。


「はい、注いであげる」


 苦笑しながら、グラスを差し出す旦那様。


「飲ませれば、ごまかせると思ってない?」


「実際、ごまかせてるし♡」


 ワインで満たされたグラスを、旦那様はテーブルに置きました。


「次はワタクシめが、お酌させて頂きますよ、奥様」


 私は、持っていた瓶を手渡します。


「苦しゅうない」


「…あんたは、何処の姫様だ」


 グラスに伸びる私の手。


 それが、途中で止まります。


「今日は、飲むの止めとこうかな」


「どういう風の吹き回し?」


「飲んだら寝ちゃうでしょう? この幸せが…夢になるといけないし」


「何を言ってるんだかるんだか…」


 腰を浮かした旦那様は、腕を伸ばして、私にグラスにワインを注ぎました。


「─ これは、君の見ている夢だし」


「え!?」


「君は…僕を殺して埋めてるんだよ?」


----------


「…意識が戻った様だな」


 きつい何かの匂いで、無理やり覚醒された私。


 いつの間にか、座らされていた椅子の上で身を捩ります。


 そこは、抵抗していた独房ではなく、知らない部屋でした。


 1人の刑務官が差し出した紙が目に入ります。


 それは、私への死刑執行の命令書でした。


 凍りつく意識。


 刑務官は何かを読み上げますが、それは ただ鼓膜を揺らすだけでした。


 一瞬の沈黙の後、部屋に重い声が響きます。


「刑を執行する」


 立たされた私は、目隠しをされ、後ろ手に手錠を掛けられました。


「これは、夢よね!」


 身を揺すって抵抗しますが、数人の手で前方に引きずられます。


「夢なんでしょ!!」


 太い何かを巻きつけられる首、縄で纏められる足首。


「お願い!!! 夢だと言って!!!!」


 大きな音がして身体が宙に浮いた瞬間、頭の中に声が響きました。


「─ これは、現実だよ。」

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忘れたの? 紀之介 @otnknsk

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