第5話 現し世は夢、夜の夢こそ真?

 フクロウでなく、雀の鳴き声が僕の耳朶に響いた。

 ゆっくりと意識を覚醒させていくと、香りのない机に突っ伏して数学や英語の教科書が目の前に置かれていた。空になったコーヒーカップにコーヒーがこびりついている。

「夢か……」

 僕は大きく伸びをして、洗面所へ行き顔を水道水で洗う。爪にいつのまにか黒っぽい土が入っていたので、念入りに洗った。

カッターシャツとブレザーに腕を通し、スラックスを履いて朝食を食べる。ご飯に信州みその味噌汁、鯵の塩焼きに御新香という純和風。母親が和食好きなので朝は大体ご飯なのだ。

 お茶で口の中をさっぱりさせて、靴を履いて家を出る。

 外は住宅街の電柱にカラスがとまってゴミ袋を狙っている、いつも通りの光景が広がっていた。

 妙高高校に行っても、机が黒板に向かって等間隔に並べられた教室も、昨日と変わらない。昨日の教室は空き教室になっているので休み時間、落書きがあった机を見に行ったけれど言葉の意味はわからなかった。夢の中ならば読めた気がするが。

 でも、授業が昨日より少しだけ面白くなった気がする。夢で見た魔法式のことを思い出しながら聞いていたら、少しだけ早めに授業が終わった気がした。

休み時間こっそりとスマホでキリルやルーン文字をググってみるが意味はわからなかった。やはりあれは夢だったのだろう。

 授業の終わりを知らせるチャイムの音と共に、僕は学食へ向かう。いつもの定食を頼む予定なので人気のパンをゲットしようと走る他生徒に巻き込まれる心配はない。

 人気メニューに興味がないわけじゃないけれど、安定した平和な昼食を取りたい。

 学食の隅の方に一人で座って、箸を取った。目の前には鮭の味噌漬け、わかめの味噌汁、野菜の煮物にご飯という定食メニューがある。

「いただきます」

 鮭の味噌漬けに箸を伸ばした。味噌の甘みと鮭のうまみが口の中いっぱいに広がっていく。それから味噌汁で口の中をさっぱりさせ、ご飯をよく噛んで甘みを堪能してからゆっくりと飲み込む。

 十五分ほどかけて食べ終わり、箸を置いて手を合わせる。

「ごちそうさま」

 食べ終わると少し眠くなってきて、僕は目を閉じた。

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