第29話 科学部、電池を作る!(2)

「仕方ないですね。それではダニエル電池の説明に進みますか」


 待て待て、たった今、全員に断られたと思うが。


「今度は容器の中に2種類の液体を入れます。先程の説明でZnとCuを使ったので、今回もこれで行きましょう。ZnSO₄とCuSO₄です」


 おい、シカトかよ!


「教授がこのモードに入ったら人の話なんか何も聞かないのは、作者が一番よく知ってるんじゃないの? 黙って書きなさい」


 はい……。(作者、立場弱えええええ!)


「ZnSO₄とCuSO₄の間にはフィルターを挟み、双方向の行き来ができないようにしておきます。そしてそれぞれZnSO₄側には亜鉛板を、CuSO₄側には銅板を刺します。亜鉛はイオン化傾向が高く、銅は低い。つまり亜鉛板の方は電子を手放してイオンになろうとするし、CuSO₄の中の銅イオンCu²⁺は電子を貰って銅になろうとする。そこで利害関係が一致するわけです」

「プラスとかマイナスが付いたらイオンってことすかね?」

「そうね、安定してない状態。何かと一緒になってやっと安定するの。習ったじゃない」

「そこで亜鉛君はこう言うわけです。おや? そこの銅イオン君。君はもしかして電子をとてもとても欲しているのではありませんか?」


 二号、出番である。


「やあ、亜鉛君。オイラ銅になりたいんだけど、電子が二つばかり足りなくてねー」

「それはちょうどいい。僕はイオンになりたいんですが、イオンになるためには電子が二つばかり邪魔なんです。宜しければ電子を差し上げますが」

「あー、嬉しいねー、ちょうだいちょうだい!」


 銅イオンは可愛い懐きキャラか?


「ところがここにはなんと間にフィルターがある! そこで、電子はそれぞれの金属板につけられた導線を伝って亜鉛側から銅側へと移動します」

「そこに豆電球とかモーターを入れると……ってやつっすか」

「そーだねー」

「おおおおお~! 俺にもわかったっす!」


 金太、感無量である。


「でも、それって亜鉛がイオン化する時に電子を二つ手放すんでしょ? ってことは、電子を手放してZn²⁺になってZnSO₄に溶けるってことだから、硫酸イオンSO₄²⁻が足りなくなるじゃない? 逆に電子を貰ったCuSO₄の方は、Cu²⁺が電子を拾ってCuとして銅板に付着するわけでしょ? そしたらこっちはSO₄²⁻が残っちゃうじゃない。どうするの?」

「だから『壁』ではなくて『フィルター』と言ったんですよ、姐御先輩。これはイオンだけを通すフィルターなんです」

「あー、つまり硫酸イオンだけを通すんだねー」

「簡単に言うとそういう事です。余った銅板側のSO₄²⁻が、フィルターを通過して亜鉛側に流れ込む。これで先程イオン化した亜鉛Zn²⁺と、流れ込んできたSO₄²⁻がくっついてZnSO₄ができる。つまり亜鉛側はどんどん濃くなっていき、銅側はどんどん薄くなっていきます」

「じゃあ、電池を長持ちさせるためには、亜鉛側は水でスタート、銅側は飽和状態でスタートすれば目一杯使えるんじゃないの?」

「その通りです。亜鉛側が飽和するか銅側がなくなれば、電池としての役目は終了です」


 でも君ら、何か忘れてないか?


「そうなんだよねー、ここには硫酸銅とかないんだよねー。レモンも」

「大体レモンである必要あんの?」

「あれは手っ取り早いというだけですよ。レモンのクエン酸を利用して反応を進めるだけです。クエン酸C(OH)(CH₂COOH)₂COOHのうちの最後のHを使ってるんですよ。C(OH)(CH₂COOH)₂COOまでの部分が先程の例で言うところのSO₄です」

「よくそんなの覚えてるわね。あたしなんかブドウ糖も覚えてないわよ」

「ブドウ糖ならC₆H₁₂O₆だよー」

「その気になれば海水でも電池は作れるはずです」

「じゃあ作ればいいじゃん!」


 全くその通りである、ごちゃごちゃとめんどくさい説明させないでとっとと作れよ教授!


「ですが、先程の例で言うところの亜鉛板や銅板に当たる金属板や導線がありません。残念ですが諦めてください」

「あるある。スマホの中にいくらでもあるじゃん!」

「ん?」

「どうせ通話もできないしメールもラインも繋がらないんすから、スマホを解体してその中に入ってる金属板使えばいいんじゃないっすか?」

「誰のスマホ解体すんのよ。言い出しっぺのあんたのスマホ使う?」

「俺のにはなんかアンモナイトとかコエラカントゥスとかの画像が残ってるからダメっすよ。貴重な資料がありますから!」

「あたしのだってプロトファスマとかアースロプレウラとか入ってるわよ? その他にも教授の寝顔とか、教授のハダカとか……」


 おい、いつの間に撮ったんだ。


「オイラのだってジェケロプテルスとかあるからねー、ダメだよー。教授のスマホはまだ何も画像データ残してないよねー?」

「そ、そうよね、教授のはまだこれからよね?」

「あの……」


 教授が疲れた顔を見せてボソリと呟いた。


「このスマホの充電の為の話をしてたんですよね?」


 どこまでも果てしなく抜けている科学部である。



 ※教授より読者の皆様へ追伸。

 厳密にはSO₄²⁻よりもZn²⁺の方が小さいので、フィルターを通過してCu側に流れて行くZn²⁺もあります。

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