第27話 科学部、電池が切れる!

 今日はいい天気である。

 物干し竿にはたくさんの三枚におろしたアカントーデスとともに、二号と金太と姐御のシャツがはためいている。教授のシャツは当然と言わんばかりに姐御の巨乳(寧ろ巨塔)とガチで鼻血ブーな太ももを収めている。そのうちに金太のパンツを教授が穿いたりしないか、姐御の紐パンを金太が頭から被ったりしないか、作者はいろいろと心配なのである。

 そして、教授を除く三人は今、スマホの電池残量とにらめっこしている。


「もうすぐオイラのスマホも電池が無くなるねー」

「でも良かったじゃない、二号のスマホにエダフォサウルスの画像残せたんだから。あたしのに残したかったなぁ」

「スマホサウルスなんての、いたっすかね?」

「エダフォサウルス! さっき二号がディメトロドンと見間違えたあれよ。解説君!」


 解説しよう。

 エダフォサウルスとは石炭紀からペルム紀にかけて繁栄した爬虫類で、大きさは約3~4m、大きな帆を背中に持ち、盤竜目のディメトロドンという肉食動物によく似ているが、草食動物である。


「パッと見ただけで、なんでわかるんすか?」

「草食動物と肉食動物じゃ、歯の形が全然違うじゃないのよ」

「そんなもんすかねぇ。俺には姐御先輩が肉食系女子ってことくらいしかわかんないっすよ」

「心配しなくても金太は食わないから大丈夫よ」

「寧ろ食って欲しいんすけど」

「あんたはサンヨウチュウと交配してなさい」


 サンヨウチュウがマッハで「断る!」と言うのが目に見えるようだ。


「金太と姐御先輩のスマホはもうアウトですし、二号先輩の電池も残量あとわずかです。僕のも何もしなくても勝手に放電していきますから、今のうちに撮れるだけの画像を撮っておくのも一つの手ですね」


 と言っている教授は、先程金太が仕留めてきた2m級のジェケロプテルスを捌いている。

 趣味で解剖している姐御とは違って『仕事として』淡々と捌いているだけなのだが、この男は何か別の意味の『仕事』を過去に請け負っていそうなヤバい雰囲気を醸し出しているように見えるのは、作者の気のせいであろうか。


「っていうか作者、教授をどうしても裏世界の住人にしたいらしいよねー」

「そんな雰囲気が全く無いわけでもないっすけどね」

「裏世界の住人って響きが、なんか影があって素敵じゃない?」

「そんなことよりジェケロプテルスの解説でもした方が建設的だと思いますが」


 か、解説しよう。

 ジェケロプテルスとは、オルドビス期からペルム紀にかけて繁栄した節足動物であり、海中に生息するウミサソリの仲間である。体長2~3m、巨大なロブスターのようなものである。……って言うと美味しそうだが、ぶっちゃけ、とても食いたいと思えるシロモノではない。


「今まで何撮ったかねー?」


 おい、シカトかよ!


「このジェケロプテルスと、さっきのエダフォサウルスと、二号の愛してやまないディプロカウルスが最新三つでしょ? あとはー……あ、そうそう、あたしがシバき倒したヒボドゥスと、金太が捕まえたコエラカントゥス」

「三枚におろしたアカントーデスとアンモナイトも撮ったっすよね?」

「オイラはパレオディクティオプテラとアースロプレウラ撮ったよー。プロトファスマも撮ったねー」

「凄いわね二号、全然噛まないわね」

「作者が資料見ながら打ってるからねー」


 だからそこは内緒にしとけって。資料間違ってたらアウトなんだから。


「この話がアニメ化したら、二号先輩役の声優さん、地獄っすよ!」

「姐御役も結構キツイと思うよー。ニセクロホシテントウゴミムシダマシとか言い出すからねー」

「教授役だって計算式とか噛まずに言うの大変だと思うけど?」

「良い子の科学読み物ギリギリのラインを攻めているので、アニメ化の心配は100%ありませんよ」

「ギリギリにしてんのお前だろっ!」

「いや、作者がBLを頑なに拒否してるから大丈夫だ。非常に残念なことに、お前の貞操の安泰は保証されている」


 作者はアニメ化して欲しいんだが。そこら辺、割と心配したいんだが。


「ところでパレオなんとかってどんな奴でしたっけ?」

「トンボとカゲロウを足して二で割ってー、巨大化して翅を2枚追加したやつー」

「アースなんとかは?」

「太くて長くてでっかいヤスデみたいなやつー」

「プロトなんとかは?」

「巨大ゴキブリだ、いい加減覚えろ。物理屋でも覚えたぞ」


 ジェケロプテルスを捌きつつも、教授が地味に参加してくる。二人がかりで捌けば早いのだろうが、生憎サバイバルナイフは1本しかない。


「他に何撮ったっけ?」

「あ、俺が飼ってたナントカってやつも撮りましたよ」

「ゲロバトラクスね」

「多分それっす」


 金太よ、自分で飼ってたんじゃないのか? 名前くらい覚えてやれ。


「デカいトンボもいたじゃないすか」

「メガネウラ? あれも撮ったわよ」

「トンボの眼鏡はナントカ眼鏡、って歌があるじゃないすか。なんかトンボって眼鏡っぽいすよね、イメージが」

「は?」

「え、だってメガネウラだって眼鏡じゃないすか」

「は?」

「ウラってなんすかね、ウラって」

「は?」

「解説くーん」


 解説しよう。今日は出番が多いな。

 メガネウラとは石炭紀からペルム紀にかけて繁栄した肉食の昆虫類であり、その大きさは70cmにものぼる。

 『大きい』を表す『メガ』に『腱』を表す『ニューロン』をつなげて『メガニューロン』=『メガネウラ』(大きな翅脈)である。間違っても『眼鏡』と『ウラ』ではない。以上!


「なーんだ、紛らわしいっすね」

「いっそカメロケラスでもいたら面白いのに」

「なんすかそれ」

「あーもう、話進まないじゃないのよ。解説君、カメロケラス!」


 解説しよう。

 カメロケラスとは、オルドビス紀に繁栄した頭足類で、チョッカクガイの仲間である。大きさは約10mあったと言われている。以上!


「10m級のなんかスマホじゃ撮れないんじゃないすかね」

「端っこの方、フレームアウトしそうね」

「でも、どうせそれも入り口の方にちょこっと足がへばりついてて、中の方なんか身が詰まってるわけじゃないんじゃないすか?」

「それでも10m級だったら入口の方の身だけでも人間くらいのサイズあるんじゃない?」

「結構食えますね。旨いかどうかは別として」

「だからー、オルドビス紀の生き物だからペルム紀にはいないんだってー」

「そうだった……」


 突然教授が立ち上がった。


「よし、殻を剥がすぞ。金太の出番だ。二号先輩、恐らくそのスマホ最後の画像になると思いますので、しっかり残してください。古生代の甲殻類の刺身ですよ」

「りょーかーい」

「ヤバい、素敵過ぎる! あたしきっと今夜夢に見る!」


 ジェケロプテルスを押さえつける教授と、バリバリメリメリと殻を剥がす金太の横で、二号のシャッター音と姐御の狂喜乱舞の声が響く。


「どうですか、二号先輩、撮れましたか?」

「完璧ー!」


 と同時に、二号のスマホは赤い点滅の残像を残し、電池切れになった。


「じゃ、ジェケロプテルス焼いて食べようよ!」

「久しぶりのエビですね」

「食うんすか……」

「金太、エビだと思え」

「ウミサソリだよねー……」

「あたし、まずは刺身で食べたい!」

「ええええええっ!」


 三人が姐御を必死で説得したのは言うまでもない。

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