第24話 科学部、地球の自転を止める!(1)

 というか止まるわけがない。そんなことをしたら大変である。


「だって、雨が続いたら海の水がチンダル現象で魚が捕れないじゃないっすか」

「それ言うならコロイド溶液」

「サイクロンにはどうやっても太刀打ちできないんすよ?」

「だからー、サイクロンは赤道越えないからー」

「それ以前にサイクロンにも自転にも太刀打ちできないわよ」

「何とかする方法はないっすかね?」


 なぜそこから思考が離れないかな、金太?


「金太、地球の自転が止まるとどんなことが起こるか考えてみろ」

「台風が発生しなくなる」

「当たりー」

「よっしゃ!」

「二号先輩、当たりですけど、そこはツッコむところです!」

「何を?」

「僕のナニを金太――」

「あー、はいはいはい、論点ずれたねー、戻そうねー」


 良い子の読む科学のネタ本である。対象年齢中学生以上、いや、高校生以上か?


「仕方ないな。また僕の出番ですか」

「いやん、教授素敵」

「そんなに照れられると褒めるっす~」

「意味が解らんぞ、お前」

「あたしは教授を褒めたんであって、ミドリムシには声かけてない!」


 要約すると、やっぱり暇なのである。


「慣性の法則って知ってるか?」

「勢いついてたらそのまんまってやつだろ?」

「まあ、そうだが、厳密に言うと『静止している物体は静止し続け、運動している物体はそのまま等速直線運動を続ける』というやつだ。電車に乗ってる人が電車の急ブレーキで一斉に転ぶというあれだな」

「うん、それで?」

「西から東に向かって凄い速さで自転している地球が急に止まる。どうなる?」

「みんな転ぶ」

「どっちに?」

「東に?」

「正解」


 姐御と二号が横で拍手している。第一関門は突破したらしい。


「転ぶと言うより、東に向かって吹っ飛んでいく感じだろうな」

「布団が?」

「布団もだ」

「吹っ飛ぶか?」

「吹っ飛ぶ」

「転ぶんじゃなくて?」

「吹っ飛ぶ」


 金太が首をかしげている。本当にわかっていないらしい。暇になった姐御は海水の入った金盥の中身をかき混ぜ、二号はロボクの小枝を火の中に追加する。

 つまり、いまだに塩を作っている、そして暇である。


「仕方ない、計算するか」

「何を?」

「地球は実際のところ厳密にはミカンのような形をしているが、そこは球体という事にして目を瞑るとしよう」

「いやいやいや、まんまるじゃん!」

「お前本気で言ってるのか? 地球の赤道半径は約6,378km、そして北極と南極を結んだ線の半径は約6,357km。潰れたグレープフルーツのような形と言っても過言ではない」


 他に言い方は無いものか教授……。


「へー、知らんかった! 地球は丸くないのか」

「今はそこは論点ではないから割愛しよう」


 いや、全然割愛していなかったぞ。


「作者うるさい、少し黙れ。とりあえず話がややこしくなるので、地球は完全な球体として話を進めよう」

「進むんかい」

「金太、ついて来いよ?」

「え?」


 いきなり教授が砂の上に計算式を書き始めた。実に嫌な感じだ。こいつがこのモードに突入すると、割と手に負えなかったりする。


「東京は北緯35度、地軸までの最短距離は赤道半径にcos35°をかけたものと等しくなる。つまり北緯35度上を一周する距離も、赤道円周のcos35°倍になる。赤道半径が6,378km、直径を12,756kmとし、そこに円周率πをかけると40053.84、約40,050kmを赤道円周としよう。cos35°を約0.82と考えると、40050×0.82=32841、約33,000kmが北緯35度、東京の円周だ。ついて来てるか?」

「あたしはOK」

「オイラも」

「俺はイマイチ」

「お前はなんとなくわかればいい」


 いや、金太に説明するのが目的で、他の二人はどうでもいいのではなかったか? あ、いえ、なんでもありません。どうぞ続けてください。ガクブルガクブル。


「赤道上では40,050kmを24時間で回るわけだから、その地表での速度は約1,670km/h、秒速に換算すると464m/sだ。冥王星の平均軌道速度の1/10とほぼ等しい。東京では33,000kmを24時間で回るから、約1,375km/h、382m/sだ。つまり、自転が止まった瞬間、東京では全てのものが1秒間に382mのスピードで東に向かって吹っ飛んでいくことになる。理解できたか?」

「軽く音速越え体験できるわね」

「死ぬからー」

「衝撃波とか発生するんじゃないすか?」

「空気も何もかも一緒に吹っ飛んでんのに、どうやって何の衝撃波が発生すんのよ、このゾウリムシ!」


 滅茶苦茶な言われ方をしたまま、後半へ続く!


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