第17話 科学部、生活感が滲み出る!
二号と金太が水汲みから戻ってみると、何故か三人が浜辺で転がっていた。
いやいや、待て待て。教授と姐御は二人だ。それに教授は先程サメに襲われた筈である。何故人数が増えている? 幽霊か? 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
「姐御ー!」
「教授ー!」
呼びながら近づいてみると、姐御が「あ~、おかえり~」などと顔を上げる。流石に二人にまだ耐性が備わっていないため、ちゃんと白衣を着こんでいる。勿論、クッソ重たい胸もブラに収納済みである。
「何してんのー」
「海藻洗って干し終わって、疲れたから休憩してたの」
「ん? あれは?」
「ああ、さっきそいつがあたしの大事な教授に襲い掛かって来たから、シバき倒してやったのよ」
教授の横に転がっている大きな魚を見て、二号は持っていたロボクをガラガラと取り落としてしまった。
「あ・ね・ごー! それはヒボドゥスじゃないですかー! このなんとも間抜けな四本の角、この
「うん」
ケロッとして返事をするような内容ではないよう!(スベったな)
「僕が食われそうになってですね、姐御先輩に逃げるよう促しましたところ……」
解説しよう。
教授が今まさにヒボドゥスの大きな口に咥え込まれそうになった瞬間、怒りに満ちた姐御の電撃蹴りがその鼻先に炸裂したのである!
「おんどりゃあ! 黒帯をなめんじゃねぇ!」
罵詈雑言を浴びせながら徹底して鼻先だけを正確に狙ってガンガンと蹴りをぶち込み、ヒポドゥスが降参して逃げようとしたところをわざわざ追いかけてその尻尾を脇で挟み、焦ったヒボドゥスが混乱のあまり暴れて自ら岩などに頭をぶつけまわって大人しくなるのを待つという、極めて冷静な戦いを展開したのである。以上!
「思ったより大したことなかったわね。サメは鼻先が敏感なの。だからそこに思いっきり蹴りぶち込んでやればいいのよ。踵でやるのがコツね。横に逃げられたらエラを鷲掴み。ここも弱点だから、覚えておいて損はないわよ」
姐御は敵に回したくない。徹底して弱点だけを狙って、相手が降参するまでネチネチとしつこく攻撃を仕掛けるタイプなのだということが、この説明だけで十分伝わってくる。
「それで、仕留めたこのサメをここまで引きずって来たわけです。サメの肉は結構美味しいですからね。少なくともコエラカントゥスよりは遥かに美味しい筈ですから、二号先輩も金太も恐らく食べられますよ」
「この子の解体は、あたしに任せといてね」
わざわざ言わなくても、みんな姐御にお任せであろう。誰も解体などしたくない。
「そういえば、さっき二号サバイバルナイフ持ってったわよね? まだ使う?」
「いんや、もう終わったから解体に使っていいよー」
「何に使ったの?」
「あ、そうだった!」
二号は先程驚いて落としてしまったロボクをガサガサ集めてニヤリと笑うと、嬉しそうに教授の方に一本差し出した。
「これ、いいでしょー? ロボクは竹みたいに節があるから、こうして入れ物にできることに気づいたんだよねー。コップでもローソクでも何にでもできるよー」
「その手がありましたか! 流石です、二号先輩!」
解説しよう。
カラミテスをはじめとするロボク類は、古生代石炭紀からペルム紀後期にかけて繁栄したトクサの近縁であり、竹のような節を持つ樹状シダ類である。茎には20本から30本ほどの細長い葉が輪生し、茎の先端にある
「これを切り出すために持ってったのね」
「そーねー。切ったのは金太だけどー。これから切り口にヤスリかけるから万能ナイフ貸してねー」
「なんだか生活感出てきたっすね!」
金太に言われてふとみんなで周りを見渡す。
砂浜に並べられた平籠、そこに干された海藻。コルダイテスの枝で作った物干し台とそこにかけられた物干し竿、ぶら下げられたアカントーデスの干物。きれいに洗って乾燥中のオウムガイの貝殻。
作りかけの籠や、水のたっぷり入ったロンテナー、洗濯して乾かしている途中の教授のズボンとシャツ。ベッド用に干されたプサロニウスの葉。
そこに切ったロボクが、大きめのマグカップかビーカーのようにごろごろと加わって、確かに『ここ、ヒト住んでまーす!』な感じになってきている。
「お昼ご飯食べたら、また仕事があるねー」
「そうですね」
「あたしはひたすらさっきのサメ解体するからね!」
サバイバルナイフを手に笑顔で言うのはやめよう、怖いから。
「じゃ、オイラはロボクにヤスリを……」
「二号先輩、それは僕がやります。先輩にはやって欲しいことがあるんです」
「んー、何かなー?」
「
「りょーかーい」
「俺、何かできること無いっすか?」
「あたしのサポート入ってくれる? 捌いたサメの肉を洗ってきたり、干したりするの、手伝って貰いたいんだけど」
「姐御先輩のサポートなら喜んで!」
「じゃ、まずはー……」
「お昼ご飯!」
こういうところは非常に気の合う科学部である。
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