第6話 みんみーは違うもの一切を受け入れる(実践側)


『ペパプトレイン』


このアトラクションは、深い海へと沈ませる繋がれた無数の箱によってできている。


このアトラクションは北太平洋のグリーンランドから始まる。これは海洋大循環という、海水が凍ることによって染み出された塩分が海水に混ざりより濃い海水となったことで、薄い海水を押しのけ、深くへ沈む流れが世界を循環する現象を利用したものだからである。


繋げた箱にどんどん人を入れ沈ませたそれは、北大西洋のグリーンランド沖から深層へと沈んだ後南下し、南極海・インド洋・南大西洋を経て北上し、北太平洋で表層へ上昇。インドネシア多島海・インド洋・アフリカ大陸南端を経て大西洋を北上し、再びグリーンランド沖へ戻ることで終わる約1500~2000年かかるアトラクションである。


箱に入れる人は以下のような流れを取る。


 流れ1 肘や膝の少し先辺りで両手足を切る

人の身体を裸にした後、肘や膝の少し先辺りで両手足を切る。人は両手足が失われた後でもその先に何かある感覚は残る。箱に入れたサンドスターを媒介にすることと、箱を透明にして海を眺めることにより、まるで海そのものが両手足となり繋がっている感覚を得ることができるようになる。


 流れ2 箱に詰め、箱を繋ぎ、深海へと沈まる

箱にそれを濃縮したサンドスターと共に詰めた後、前の箱へと連結する。この長さは循環を一周する程続いている。グリーンランドの陸地からそれを海へと流した後、海洋大循環の流れに乗り、深海へと沈んでいく。どんな水圧がかかっても丈夫な箱だからこその芸当で、しかも外部の水を分解し、中に酸素供給できる優れ物である(排気も可)。食糧は載ってないが、サンドスターで細胞を復活させることはできるから何の問題もない。


 流れ3 手足の縮小から単細胞生物へ

長く使っていると、手持ちのサンドスターだけでは全体の生存が困難になってくる為、復活する部分を狭めることで手持ちを節約しようという機能が働く。まず手足の部分が短くなっていき、胴体と脳だけになる。次に生殖器が消え、腸や胃の消化器系が消え、胸より下の肉体の部分が消え、肺など呼吸するものが消え、脊髄や肋骨などの支えるものも消え、心臓と脳だけが残る。さらに時間が経つと、顔の皮や骨、舌や歯や眼球が消え、脳と心臓と血管だけが残る。またさらに時間が経つと、血管の距離が短くなり、心臓と脳のサイズが小さくなり、マイクロサイズとなり、最後に神経のみの存在となる。


 流れ4 新しいサンドスターにより、単細胞から進化

単細胞生物がとても長く続いた後、少しずついろんな器官を獲得して進化していく(ちなみに、この成長は生物の進化の歴史を割合踏まえて短縮した時間にしている。たった1500年で何十億もの歴史をやるのだから当たり前な話だが)。小さい脳、心臓や骨や消化器や動く為の筋肉と部位が少しと、まず魚類が獲得したものから復活していき、次に両生類が獲得したものへと増えていく。その進化の為のエネルギーは、この頃になるとドローンと潜水艦の両方を備えた機械に積んだサンドスターが、箱の一つ一つへと供給し出すので可能となっている(その為に透明な箱はサンドスターも外から中へだけ通すようになっている)


 流れ5 深海から海面、海面から元の陸地へ

両生類に進化して暫くした後で、深海から海面へと循環を使い上昇する。海面へと出た後は、その流れに乗り、グリーンランドの陸地へと行く


 流れ6 陸地で両生類から人へ

陸地へと上がった後は、箱から出し、何年かその辺りをうろつき回らせる。この辺りには濃度は薄く量も少ないがサンドスターがあるから、時間はかかるが手足も生えて、二足歩行出来て、思考も可能となる人へと戻っていく。これでこの修行は終わりである



失われた手足が、人と海とを繋ぐ

深くへと至る感覚が、過去へと意識を導く

維持が大変になり、命の僅かを繋ぐ感覚が人を単細胞生物の時代へと戻し、

深くで流れる長さが、その生物が耐えてきた地球の長い歴史を思わせていく

そして、僅かしか維持できなかった体が後になるに連れ、その広さを拡大していく中で人は魚類へと進化する。

そこから長い時間をかけて表面へと上がり、海面に顔を出した時。

黒い宇宙が、どこまでも続く黒い空が、それを反射して写す地平線へと至る海が、星に照らされてわかるその光景が、世界は一つである感覚をもたらし、我々は古代の生物が抱いたであろう歓喜を追体験する。

後は鈍行の旅である。

海の上を波に揺られ、生物は行く。

遥かへと続く透明だが存在はわかる箱の一直線は、この道程が未来へと続いていることを約束する

日が沈んでは暗い黒と、暗くては昇る蒼の世界は、時間と光が存在するということを生命に教える

やがて旅は終わる

グリーンランドの陸地へと箱が上がることは、それは陸地というものを知り、上がった両生類の驚愕と不安である。

箱から出され、ない両手足で這うように進む姿もまた、両生類の姿のようである

そこから何十年かけて、両手足は生えていき、

また何十年かけて、二足歩行ができるようになる。

そうして、両生類→哺乳類→人への旅は終わるのである


一切を受け入れるということは、生物の歴史と海と空と宇宙を一体に思う感覚をインストールするということであり、それを果すことは時間と空間の一切を知り、全ての存在を受け入れる器を得たということになる。


よって、このアトラクションにより旅をした存在は、みんみーへと人を導くであろう

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