暁金牙の送付書類その2

『神の眼』


 我々皇族の血を引く者に伝わる優性遺伝、「濃い青色の目」について。今回調べたところ、元々皇族に伝わっていたのは「青色の目」だったそうです。それが変わったのは……初めてハベルトの地に他の人種がやってきた、二百年前。




 皇族の証が「濃い青色の目」に変わり始めたのは、約二百年前。皇妃の名や身分こそ隠されているが、「神の眼」を持つ黒人女性だったようです。そして「濃い青色の目」を持つ皇帝が生まれ、そこからは親族に次々と「濃い青色の目」が伝わるようになる。


 どんなに記録を遡っても黒人以外に「神の眼」はいない。どうやら「神の眼」は黒人の特定の血筋、その一部にしか伝わらないらしい。また、何故か「神の眼」を持つと思われる女性が黒人以外との間に授かった子供は皆、黒い肌を持たなかった。


 こちらについて、クライアス家が調べた文献もある。それによると、これには「優性遺伝」が関与しているという説が有力らしい。


 「神の眼」そのものは優性遺伝。詳しい相関性まではわからないが、恐らく黒い肌の者にしか宿らない特殊な目である。「神の眼」と黒い肌、両方が母親から同時に伝わることはない。「薄い青色の目」が「濃い青色の目」に変わったのは、「神の眼」の色を決める何らかの因子が白人の肌色に適応した結果ではなかろうか。


 我々の持つ「濃い青色の目」は皇族の証であり、皇族に伝わる「薄い青色の目」と「神の眼」が交わって出来た産物である。家系図を辿るとそう、説明せざるを得ない。歴代皇帝は、この「神の眼」をなんとか取り込み皇族の戦力増強を図っていた。そう考えるのが自然だろう。


 皮肉にも「神の眼」は黒人にしか現れず、「神の眼」を持つ女性からは白人しか生まれない。歴代皇帝は可能性にかけて同じ過ちを続け、失敗を続けてきた。クライアス家、葵陽家、暁家が高確率で戦闘貴族に選ばれる理由の一つも……

※これ以降はページが破かれているためわかりませんでした




 白人至上主義が残るこのハベルトにおいて、皇族が「神の眼」の血、すなわち黒人の血を引くとなれば、国民は混乱する。当然、この歴史は「神の眼」の血筋が絶えれば闇に葬られる。皇族の血筋に伝わる「濃い青色の目」の正体が知られれば、国の「白人至上主義」は崩壊する。これは国民の有色人種カラードへの認識を変える鍵になると考えられる。


 そもそも、ハベルトの祖は先住民とされる黄色人種である。色濃く根付いた白人至上主義はおそらく当時、白人の地位を確立し侵略を「正義」とするために生まれた。このような状況下でいかにして有色人種の血が混ざったのは不思議でしかないが、一つ確実なことがある。それは、人種差別問題に「神の眼」が大きく関与しているということ。





 最後に「神の眼」に関する記述について。


 「神の眼」は優れた視力を持つ。一瞬で多くのものを捉え、その距離感や動きを正確に知る。視界に映る僅かな変化も見逃さない。遺伝の観点から言えば、生き残る上で生まれ、受け継がれた特殊な遺伝形質である。


 「神の眼」をハベルトに知らしめたのは、現皇帝アノリス陛下に仕えていた武芸者、シャーマン・アールである。この「アール」はシャーマンの本当のファミリーネーム「リベリオン」の頭文字である。


 シャーマンはかつて、アノリス様をイグニス皇太子から守るために右腕を犠牲にした武芸者。右腕を負傷してからは祖国シャニマに帰国。その後、シャニマで起きた戦争に巻き込まれ、生死不明となる。


 彼の逸話はハベルトではあまりに有名。右腕一本の犠牲で、五十を超える武芸者に囲まれても生き残ったのだとか。元々様々な逸話が存在したが、アノリス様の一件で一気に「神の眼」の存在が知られた。この件をきっかけに、黒人のいくさ奴隷どれいの密輸が増加。黒人の戦力を恐れ、差別も激化した。

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