暁金牙の報告書その8

十月二十日

 二日前、虹牙こうがとアルを宮殿の図書館へ向かわせました。本来ならアルを連れていくことは避けたかったのですが、仕方ありません。「神の眼」の血筋について何かしら知っているのはアルしかいませんから。


 さて、虹牙の持ち帰った情報と父様の伝言。さらに、本日届いたからの連絡を元に、結果をご報告いたします。


 先代皇帝ジョン様の時に、奴隷制度を禁止する法が施行。未だに密売や個人間での差別は残っていますが、表向きの奴隷はいなくなりました。父様がシャーマンをシャニマから連れてきたのは、奴隷が禁止されてから数年後のことだそうですね。


 法が出来てからも、多くの有色人種カラードがハベルトに来たと思います。銀牙ぎんがの母君もその一人でしたから。あまりに多かったのでしょう。記録に正式な人数はなく、代わりに白人ホワイトを犯人とする殺傷事件が増加したとの記録がありました。その被害者に身分は関係ありませんでした。



 皇太子様が陛下とダン様を狙う理由は皇位継承のためでしょう。かつて皇帝になるために、他の候補者の暗殺を試みたくらいですから。陛下、彼が何故皇帝の地位にこだわるのかおわかりですか?



 皇太子様の両親の血筋とその外見は陛下もご存知でしょう。その血筋が故に皇太子様は自らを卑下します。そしておそらく、この血筋こそが事の発端でもあります。


 陛下と皇太子様は同い年の異母兄弟であり、陛下の方が数時間先に生まれました。同じ年月日に生まれた皇太子様は、わずか数時間の差で陛下の弟に位置付けられ、陛下に何かあった時のとして今日まで生きてきました。これが問題の根底にあるものになります。


 皇太子様は母君の血筋を気にされており、そのせいで陛下の弟に位置付けられたと考えていらっしゃいます。それだけではございません。皇太子様が有色人種を憎み、人種差別過激派となったのにも理由があるようです。




 皇太子様は、第二皇妃を強姦殺人した黒人ブラックを憎んでいます。そしてその事件の背景にあるのはおそらく、ハベルト皇族に隠された闇になります。具体的に申しますと、皇族の血を引く者に伝わる優性遺伝、「濃い青色の目」がその背景になります。詳しくは一緒に送付した書類の写しをご覧下さい。


 事件背景の部分は、皇太子派の者により破かれており知ることは出来ません。ですがおそらくそこに書かれていたのは、皇太子様の母君と犯人の関係だったのではないでしょうか。第二皇妃の外見からそう推測するのは容易いです。


 私は、第二皇妃がいかにして皇室に来たのかは存じ上げません。ですが第二皇妃と「神の眼」に血の繋がりがあるとすれば、皇太子様の行動に法則性を見出すことができます。「神の眼」の資料については送付書類をご覧下さい。


 皇族の血筋に伝わる「濃い青色の目」の正体が知られれば、国の「白人至上主義」は崩壊するでしょう。そうなれば皇族の地位が落ちるかもしれません。当然、これは「神の眼」の血筋が絶えれば闇に葬られます。第二皇妃の身元はもちろん、これまでの皇室の闇をも隠し、「白人至上主義」の残るハベルトにおいて皇太子様はその血筋を偽ることが可能になります。


 彼は「神の眼」を根絶することを目標としているようです。そのために有色人種、特にを差別している。彼が黒人を部下にしたのは、アルと戦わせて一人でも多くの黒人を減らすためでしょう。


 「神の眼」の血筋を絶やすこと、自らが皇帝になること。これが皇太子様の目的だと思います。そうすることで皇室の闇を消し、自らの身元も偽り、純粋な白人ホワイトとして振る舞う。そのための今、なのでしょう。シャニマの戦争もおそらく、「神の眼」を滅ぼすために起きたものなのではないでしょうか。



 長くなりましたが、以上で今回の報告を終えます。「神の眼」の秘密を明かした上で有色人種のハベルトにおける地位を上げるか、隠したままにするか。今後皇族がどうあるべきか。全ては陛下にお任せいたします。

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