涼風に鳴る幽かの怪―探偵 狐塚緋桐
せな
序
「やあ、君も災難だったね」
冗句めかして言うものだから、が悪い。
幼さを滲ませた愛らしさはどんな悪女であれ騙せてしまいそうな柔和さを感じさせる。それ故に、こういう言葉が似合うのだ――『性質が悪い』のだ、と。
素敵なお方ですねと言う女の気も知れぬ。こんな狡猾な存在の何処を評価できると言うのであろうか。優しい顔をして、平気で死体を蹴るような存在だ。その微笑みに惑わされて、ついて行けば狐に抓まれた様な気持ちを味わえよう。そう、奴は狐なのだ。
「いいや、狐に小豆飯とか言ってくれた方が僕の神聖さも感じられるだろうに。それに、君はよぉく知っているだろうにさ。狐につままれた――じゃなくって、狐なんだよ、って」
逐一、人の神経を逆なでする男だ。
口癖は「君も災難だったね」
こいつが外見通りの『可愛らしい少年』であったはずならば、子供の戯言に惑わされる帝国軍人の恥だと嘲笑われる事だろう。無論、周囲の同僚からはそう見られている事は重々に承知だ。異国の子供に玩具が如く扱いを受ける学徒。由緒正しき武士の子。
童に遊ばれる等と、莫迦にされずいれるのは彼の外見が異国の子と一括りには出来ないものであるからだ。宵の月を思わせる眸が爛々と笑っている。異人の子の如き髪色も、鈍色に輝いている。
彼は、異形なのであろうと人々は噂した。否定も肯定もしない。奴は人間であり――妖なのだ。
冗句ではなく、これは俺の経験則でいうことだが。
――狐塚 緋桐。職業は『道楽』探偵。
これは俺の経験則だ。
彼には近付かぬ方がいい
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