ディストラクション・フェアリーテイル
春巻 幸星
第1話
僕はただ、本が好きだった。暇があれば本を読み、寝る時も隣にいた。そんな本に関われる仕事をしたいと思いながら、中学を卒業し、進学校に通ったのだが、勉強が不得意な僕には、どうも高校に行く気が出なかった。そのせいで高校を中退して、今は家の手伝いをしている。
そんな僕、暁 皇焉(あかつき こうえん)は、この時、あんな事になるなんて思いもしなかった
時は戻ること、30分前
いつも通り、店番が終わり、自室に戻った僕は、本を読むために、押し入れの中からダンボールを取り出した
中には、古ぼけた本が何百冊と入っている。ほとんど、僕の幼い頃読んでいた本で、一部のものはページが揃ってないものもある
「今日は何読もうかな……」
ダンボールの中を漁っていると、一冊の古ぼけた本が視界に入った
その本は、真っ白で、見たことがない本だった
「こんな本あったっけ?」
手に取って眺めてみるが、やはり見覚えがない。
タイトルも何も写っておらず、作者さえ書いてない。
興味本位で一ページ目を開いてみると、そこには、グリム童話をはじめ、様々な物語のタイトルが並んであった
4ページ「赤ずきん」
と書かれていた。
僕の一番好きな物語である。お店に売られているのは、色々と編集された後なのだが、それでもこの作品が一番好きだ
久しぶりに見た赤ずきんの文字に心を踊らせながら、ページを開いた。
しかし、そのページもその他のページも真っ白で、文字が一文字も書かれていなかった
しかし、最後の1ページには血で塗られたような文字が書かれてあった
『もし、この話がハッピーエンドじゃなかったら?』
その文字は、細く綺麗な時字だった。しかし、その中には、嫌なオーラが隠れていた
それを察した僕は、急いで本を閉じたのだが、その時には、遅かった
本から無数の黒い手が現れ、僕の体にまとわりつく
「や、やめろ……。く、……、くるし、……あ、あぁ……」
意識が遠のく中、本から声が聞こえた気がした
「お前は、不幸な少年。"アカツキ"だ」
その声とともに僕の意識は闇の中へと消えていった
小鳥の鳴き声が聞こえた気がした
目を覚ますと、視界には僕を囲むように木がそびえ立っていた
混乱する頭を何とか、整理しながら体を起こす
木々に囲まれている。この様子からして、森のようだ。
いる場所は分かったのだが、何故ここにいるのかは分からない。
確か、本から手が出てきて、僕の体に張り付いてきて、気を失ったはず。なら、なんでこんな所にいるんだ?
しばらく、空を見ながら考える。
考えれば、考えるほど頭が痛くなり、額を手で押さえる。その仕草をした途端、後ろから誰かに肩を叩かれた
驚き、後ろを見てみると、そこには、赤ずきんを被った女の子が立っていた
ルビーの様な真っ赤な瞳。頭巾の間から見える栗のような茶色の髪。それに優しそうな童顔。見覚えがある顔だった
「大丈夫?頭痛いの?」
少女の声は心を癒してくれる
少しずつ混乱が治まりつつある中、頭の片隅にあるある絵本の記憶が浮かんだ
「君のお名前は?私は"赤ずきん"。おばあちゃんの家にパンを届けに行ってる途中なの」
僕の予想通りだった。この子は赤ずきん。そう、有名なあの子だ。この子が本物ならある仮説が建てられる
ここは、僕が住んでいた世界と違うこと。
仮説と言ったが、これはほとんど、確定と言っても過言ではない。証拠がありすぎるのだ
まずは、空。空には二つの太陽が出ている。まず、現実ではありえない。次は、生き物。空には、虹色の鳥が飛んでいる。これだけなら、変な鳥で終わるのだが、それ以外に驚く事に喋ったのだ
なんて喋ったかだって?それは、「あ〜。眠い」だ。最初は頭が混乱していると思っていたが、何回も聞こえたため、確信に至った
これ以外にも色々あるのだが、結論は出た
「あの、ここは何処ですか?」
「ここは、"フェアリーテイル・ランド"だよ?貴方はここの人じゃないの?」
異世界
「あ、あの、えっと……。僕、記憶が無くて……」
とっさに嘘が口から漏れてしまった。
嘘を吐いたのだが、それを信じてしまった赤ずきんは僕の頭を撫でる
「そうだったの?大変だったね〜。もし、良かったらおばあちゃんの家に一緒に行く?」
「え?」
「ここにいても、夜になったら怖い狼が来るよ?しかも、君からは、魔力を感じないから、心配なの」
「そうなんですか?」
「私みたいに微小にでも、魔力があれば、怖い化け物を跳ね返せるんだけど……」
魔力やら、化け物やらもう本当に分からない……。ただ、分かることは、ここに居るより、赤ずきんについて行った方がいいという事。今は、これだけ分かれば十分だろう……
「じゃあ、僕もついて行きます」
「そう来なくちゃ!じゃあ、行こう!」
ゆっくりと立ち上がり、手を繋ぐ
この手はこの先の運命を繋いだ
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