廣島camarade(カラマード)

ななりあ

第1話 飛翔艇

「う〜ん、やっぱり無理だったかぁ」


警告音が激しく鳴り響く中、狭苦しい操縦席のせいか、間延びした呟き声がよく聞き取れた。


ひとを無条件に苛つかせる声と話し方に、御子柴みこしば 一樹かずきは操縦桿を握った手に力を込めた。距離は後方に50㎝。腕を伸ばせばいつでも殴れる位置におり、伸せる自信もあった。


主翼の一部が被弾し、空駆ける小船ーー飛翔艇はバランスを崩しはじめている。「だから、ダラー製は嫌いなんだよな」巧みな操縦技術でバランスをとりながら、補助幕シュッツオーリエを展開させた。被弾した部位を中心に薄い膜で覆い、一時的に破損部位を補う。


高貴エーデルの名を持つこの飛翔艇E-27は、他任務戦闘機として活用され、1機種で制空・防空・対他攻撃・偵察などの多くの任務が遂行出来る様に設計/製造されている。装備分の重量を軽量化する為に、軽量で強度に優れるアーエル合金と狭間ツヴィシェンでの磁位(磁界が安定しない為、方向が定まらない上、狭間に留まる事が困難となる)の確保する為にコレラ響石を使って製造された機体は、耐熱性に劣るという欠点があった。

中でもこの飛翔艇E-27は高音速移動が売りで空力加熱対策が必要とチタン合金を採用していたが、コレラ響石の磁位を妨げる為に、本来必要とする量の半分以下しか使用されていない。戦闘機としての耐久性に致命的な欠陥を持っていたが、それでも戦闘機として採用されているのは、〝ヘラオスフォルダラー社〟製だから、とも言える。


機械文明が発達した現実世界ヒムリシュ

魔法文明が発達した幻想世界メーレスボーデン

同一空間にあるふたつの世界を繋ぐ狭間ツヴィシェン

現実世界が、両者との界交を絶って16年になるのだが、秘密裏にヘラオスフォルダラー社との契約だけは続いており、製品の輸入が唯一許されていた。輸入された製品は自衛隊がその大半を保有しており、今回の様に異世界へ侵入するのが目的であった。勿論、一樹も自衛隊からの要請により、狭間に来ているのだが。

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