イラナイ人々

真生麻稀哉(シンノウマキヤ)

第1話 トワイライトニュース

「岐阜県*山市**川町の観光名所として知られる大和田鍾乳洞内から、遭難してい

 たとみられる五人の男女が発見、救助されました。


 五人は誤って全長百五十メートルの竪穴トンネルに落ち、その先の未開洞から

 出られなくなったと見られています。


 救助された男性の一人は、未開洞の中で七十五日間、遭難生活を過ごしていたと

 話しています。


 発見されたのはー


 みなと 鴻馬こうまさん 三十五歳

 仲原なかはら 大輔だいすけさん 四十七歳

 山元やまもと いそるさん 二十八歳

 寺西てらにし 里桜菜りおなさん 三十七歳

 佐野さの 茜子あこさん 二十二歳

 の五人です。


 五人のうちの四人は衰弱が激しいものの命に別状はなく、高浜総合病院に搬送

 されましたが、一名は遺体で発見されました。


 警察は五人の身元の確認を急ぐとともに、救助された四人の回復を待って、

 詳しい事情を聞く模様です。


 なお、五人を発見した鍾乳洞調査団代表の皇大学すめらぎだいがく美作みなさか すぐる教授のコメント

 によると、五人が遭難した大和田鍾乳洞内は、湿度が高いため水分は豊富な

 ものの、光が届かないため植物はほとんど育成せず、生物についてもごく

 限られた種類の昆虫やコウモリが見られる程度だということです。


 このような環境下の鍾乳洞内で、二ヵ月半もの間、果たして彼らはどのように

 食料を確保していたのでしょうか? 」





「岐阜県の大和田鍾乳洞内で五人の男女が遭難し、七十五日を経過し、昨日、

 七月十七日になってようやく発見、救助された事件についての続報です。


 現在も五人の身元は特定されておりません。


 今日の午後、四人が入院している高浜総合病院で診察が行われました。


 会見した医師団によると、四人は深刻な栄養不良状態だということです。


 また救助された四人のうち、女性一人の体から、ある程度の日数が経過した

 刺し傷が見つかりました。


 この女性の右わき腹下の傷は、肝臓に達するほど深く刺されていたということ

 です。


 また別の女性の体からも下腹部を刃物で刺された痕が見つかりました。


 この女性の傷は比較的新しく、救助の直前に傷つけられたものではないかとの

 見方です。


 男性の一人も滑落の際に両足を骨折しており、この骨折はほぼ自然治癒の状態に

 あるものの、胸部には、刃物による深い刺し傷の痕があったということです。


 この男性の傷もある程度日数が経過していたとのことです。


 警察では、三人を傷つけた凶器は、同一の刃物であるとの見方を強めています。


 なお、鍾乳洞内から発見された遺体からは、頭部を刃物で切断した痕跡が

 見つかり、警察は遭難した五人の間で、なんらかのトラブルが発生し、事件に

 なったとみて、詳しく調べてゆく模様です」






「警察の捜査及び専門家の洞窟調査によって、五人の遭難の経緯が明らかになり

 ました。


 五人はパソコンのネット上のホームページを通じて知り合い、オフ会の名目で

 岐阜県***村の旅館での二泊の宿泊旅行に路線バスで向かう途中、途中下車

 し、観光目的で大和田鍾乳洞へ入ったということです。


 専門家の話では、五人が滑落した未開洞の入り口は滝に近かったため、救助を

 求める声が水音にかき消され、発見が遅れたと考えられています。


 滑落して出ることが出来なくなった蟻地獄のような未開洞の中で、五人の身に

 何が起きたのでしょうか。


 亡くなった一名の方のご遺族のためにも、一刻も早い真相の解明が待たれる

 ところです」


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